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エミネム『The Marshall Mathers LP』解説:ラッパーをスターへと押し上げた名盤で描かれたもの
1999年にリリースされたエミネムのメジャー・デビュー・アルバム『The Slim Shady LP』は、彼を新しいミレニアムの最大のスターの一人に押し上げた。彼はこれまで知られていなかった方法でラップをポップ界の最前線へと押し上げたのだ。
続くアルバム『The Marshall Mathers LP』では、同じように挑発的な歌詞が盛り込まれていたが、さらに一歩踏み込んだ内容で、元恋人やポップカルチャー界の著名人への激しい怒りをぶちまけた。このアルバム『The Marshall Mathers LP』でエミネムは計り知れない名声を得ることになる。
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メジャー・デビュー・アルバムとなった『The Slim Shady LP』の次の作品として、『The Marshall Mathers LP』はリメイクと続編の両方の役割を果たしており、古いアイデアを拡張し、新たな驚きの領域へと枝分かれしている。前作によってエミネムのパーソナルで文化的な神話が確立されたが、2000年5月23日にリリースされた『The Marshall Mathers LP』ではそれをさらに掘り下げ、彼の人生を完全に脱構築しているのだ。
収録曲「Marshall Mathers」は生々しい自身の掘り起こしであり、「Drug Ballad」では酩酊しているかのように見え隠れする彼をみつけだし、アルバムを占めくくる「Criminal」ではこの2つの間の綱渡りをしていた。
虚実の被膜を曖昧にする
『The Marshall Mathers LP』には、当時のエミネムのマネージャーであるポール・ローゼンバーグが2回に登場する。そのうちの一つである「Paul – Skit」ではエミネムの悪ふざけに対する批判者として登場。また、当時インタースコープ・レコーズのセールス&マーケティング担当社長だったスティーブ・バーマンのスキットも初登場し、エミネムのレコードが業界でどのように “受け取られているか “ということについて、啓発的な視点を提供する。
こういったのインタールードはいずれもエミネムのアルバムを何年にもわたって定義し続け、エミネムの分身(オルター・エゴ)であるマーシャル・マザーズと現実の間の境界線をさらに曖昧にさせている。
『The Marshall Mathers LP』では、当時は馴染み深いと感じられたものが、今ではよりダークで噛みつくようなサウンドに聞こえるものもある。「97 Bonnie And Clyde」の続編である「Kim」は、このアルバムの中で最も爆発的なトラックの一つだ。エミネムは、元妻との関係を熱烈な愛、そして憎しみとの両面からラップで表現し、プロデューサーのベース・ブラザーズ(The Bass Brothers)のロックでヘビーなプロダクションの上では、それは冷え切った結果となる。
本当のスリム・シェイディ?
「The Real Slim Shady」はエミネムの史上最大のヒット曲となり、全米シングル・チャートで4位を記録。ヒップホップ史上最も名曲とまではいかないまでも、その10年間で最も象徴的な曲となった。これは有名な話だが、『The Marshall Mathers LP』の制作中に、このアルバムには前作の「My Name Is」のようなインパクトをもった曲がないということで土壇場にて追加された曲だ。
キャリアを決定づけたトラック「The Real Slim Shady」は、ポップカルチャーに対するエミネムの影響力の大きさを語ったもので、「俺のように罵り、俺のように気にせず、俺のような服を着て、俺のように歩き、話し、俺のように振る舞うやつ」という全ての世代の中に存在する”スリム・シェイディ”が表現されている。
そして、エミネムは自身のそっくりさんの大群が行進するこの曲のミュージック・ビデオを再現したMTVビデオ・ミュージック・アワードのパフォーマンスで、スリム・シャディ軍団をアメリカのメインストリームに連れてきたのだ。MTVアワードを受賞したことをラップで語るMCが、自分の音楽では否定しているポップスターの隣に座らなければならないというのは、シュールでメタ的な瞬間でもあった。
それ以前も以降にも存在しない徹底した自己批判
「Slim Shady」ほどの売り上げは記録していないが、同じくらい象徴的な曲である「Stan」はカルチャーに対して最も強いインパクトを与えている1曲だ。『The Marshall Mathers LP』の3曲目に収録されたこの7分間のコンセプト・ソングは、ダイド(Dido)の「Thank You」をサンプリングしたもので、誰もが期待していなかったものの1つだった。その生々しくも徹底した自己批判は、それ以前の作品にもそれ以降の作品にも似ているものはない。
有名人とファンの関係性の変化を描いた物語である「Stan」は、名声への執着が強まり、影響力のあるアーティストに過度の負担をかけることになった時代に名前を与えた(*この曲以降、過度に熱狂的なファンという意味で“Stan”が使われるようになっている)。
この曲はヒップホップの物語性を表現したものであり、ラッパーはエミネムでもスリム・シャディでもなく、マーシャル・マザーズでもない代弁者を演じることができたのだ。キャラクターの中で3つのヴァースを披露した後、4つ目のヴァースでいつものペルソナに戻ることができるアーティストはほとんどいなかった。
アメリカのスケープゴート
当時の時点でエミネムはすでに”問題の王”というレッテルが張られていたこともあり、『The Marshall Mathers LP』の多くは、アメリカのスケープゴートにされたことへの報復でもあった。「The Way I Am」では、コロンバイン高校での銃乱射事件と、そのような暴力のきっかけとなったとされたマリリン・マンソンを取り扱うメディアについて触れている。
When a dude’s getting bullyed and shoots up his school
And they blame it on Marilyn and the heroin
Where were the parents at?
いじめられた子が学校で銃を乱射
やつらはそれをマリリン(・マンソン)とヘロインのせいにする
親はどこにいったんだ?
エミネムは音楽界最大のスターであったが、他のスターたちとは違ってシリアルキラーの格好をしてステージに上がり、チェーンソーを振り回していた。それにもかかわらず、『The Marshall Mathers LP』はアメリカの音楽史上、ソロアーティストの中で最も早いスピードで売れたスタジオ・アルバムとなった。この記録はアデルが『25』をリリースするまでの15年間、誰にも破られなかった。
アメリカで最も有名な政治家やポップスターを侮辱し、場合によっては脅迫するエミネムは、他に類を見ない存在だ。それを思い出させてくれるのがこのアルバム『The Marshall Mathers LP』なのだ。
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エミネム『The Marshall Mathers LP』
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