New Releases
メガデス、新作アルバム『The Sick, The Dying And The Dead』9月に発売。バンドが語る内容とは?
スラッシュ・メタルのパイオニア・バンドのメガデス(Megadeth)が2022年9月2日に、16作目となる待望のスタジオ・アルバム『The Sick, The Dying…And The Dead!』を発売すること発表した。
このアルバムの発売と合わせて先行曲「We’ll Be Back」の配信とオフィシャル・ビデオが公開となった。
<関連記事>
・メガデス(Megadeth)のベスト20曲
・メガデス『Countdown To Extinction』解説
6年ぶりの新作アルバム
メガデスのリーダーでありサウンドの要でもあるデイヴ・ムステインは、16枚目となるスタジオ・アルバム『The Sick, The Dying…And The Dead!』についてこう語った。
「自分達が必要とするもの全てがあるべき所に収まっているアルバムが出来たのは、本当に久しぶりだ。世の中の人達がこれを手にする日が待ちきれないね!」
2022年9月2日にリリースされる『The Sick, The Dying…And The Dead!』は、結成以来、ヘヴィ・メタルを定義すると同時に再定義を繰り返してきたメガデスをさらに確立。また本作は、メガデスにとって、1992年の『Countdown to Extinction』以来のチャート最高位となる全米アルバムチャートで3位を記録した2016年のグラミー受賞作『Dystopia』に続くアルバムだ。
メガデスが作り上げたのは、本能的なエネルギーとヘヴィネスに満ちた、また時として、これ以上殆ど何も証明する必要のない経験豊富なバンドからはほぼ誰も予想していないような、超常的速度で疾走するアルバムだ。『The Sick, The Dying…And The Dead!』は、彼らの革新的な初期作品が放っていた超獰猛なリフと、激しくも複雑なソロ、そして冒険精神を、90年代のソングライティングの音楽性や豊かなメロディ性と融合。
その全てに彼らの特徴である卓越した技巧と正確さが織り込まれており、さらに言うまでもなく、ムステイン独特の唸るヴォーカルと、「やられたらやり返す」という、皮肉のこもった舌鋒鋭い歌詞がそこに加わっている。
ムステイン咽頭癌との闘い
先年ムステインが咽頭癌との闘いに果敢に挑んだこと、そして彼が病に打ち勝ったことを祝う『The Sick, The Dying…And The Dead!』は、彼の闘病生活と新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によってツアーが延期またはキャンセルされた事態を、逆手に取って糧とした。 アルバムとしては今回から参加することになった元ソイルワークのドラマーのダーク・ヴェルビューレンはこう語る。
「制作にたっぷり時間をかけられたことが、曲にとっては結局プラスに働いた。曲は進化し続けていたからね。部分部分に磨きをかけ続けたんだ。いわゆる”耳への心地良さ”だとか細かいディテールが、どんどん良くなっていったよ」
ムステインとメガデスの歴史
メタリカの最初の2枚のアルバムに収録されることになる曲の多くを共作しながらも脱退させられた、当時21歳のハングリー精神旺盛なムステインは、新バンドのメガデスを結成。ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタルの技巧を凝らした楽曲を、徹底的に速いテンポと、高度な技術による敏捷性、複雑なアレンジ、そしてパンクの原始的な攻撃性と融合させようと考えた。ムステインはこう振り返る。
「当時の自分が考え得る中で、最もヘヴィで超激情的なバンドだった。俺達が出てきた時、同じようなことをやっているバンドは、そんなに多くなかったんだ。俺達と同じようなことをやっているバンドは、今も多くはいないけどね」
ムステインの類い稀なギターの才能(2009年発行の書籍『The 100 Greatest Metal Guitarists / 最も偉大なメタル・ギタリスト100選』で1位にランクイン)と、時代に先駆けた音響に対する野心、そして超人的な意欲により、メガデスは“ビッグ4”として知られるスラッシュ・メタルの伝説的パイオニアの一つに数えられるようになった。
メガデスの伝説的なデビュー作『Killing Is my Business…And Business Is Good』のリリース後、すぐさまその地位を確立した彼らは、間を置かずしてリリースした一連のアルバムでプラチナを次々と獲得。一躍その名は有名となる。現在までに、ダブル・プラチナを達成した『Countdown to Extinction』を含め、全世界で5000万枚以上のアルバムを売り上げてきたメガデスは、グラミー賞にも12回ノミネート。激しくも細心の注意が払われた、妥協を知らない彼らのライヴは、世界中のヘヴィ・メタル・パフォーマンスの基準となっている。
だが、このような高く積み上げられたレガシーと膨大な作品群の中にあっても、今回の最新作『The Sick, The Dying…And The Dead!』は、多種多様なレベルで際立っていると言える。ムステインの癌が発見されたのは、プリプロダクションの開始直後のことだったが、それによってレコーディング計画を頓挫させることを彼は許さなかった。ギタリストのルーレイロがこう振り返る。
「彼は戦士だよ。だって、(毎週の)化学療法を受ける日以外、彼はいつもそこにいたからね!」
また、本作は、『Dystopia』から加わったキコ・ルーレイロと、ドラマーのヴェルビューレン、そしてこのアルバムのため暫定的に参加したベーシストのスティーヴ・ディジョルジオ(テスタメント)という顔ぶれで制作したメガデス初のアルバムでもある。メガデスの新たなツアーの開始に伴い、元メンバーのジェイムズ・ロメンゾがメガデス・ファミリーに再加入し、現在は正式なベース奏者となっている。
アルバムの制作
ムステインはナッシュビルで、再びクリス・ラケストロー(ダンジグ、パークウェイ・ドライヴ)とアルバムを共同プロデュースすることを決意。これにより、44万枚以上を売り上げ、表題曲で2017年グラミー賞の最優秀メタル・パフォーマンス賞を受賞した『Dystopia』の勝利チームが再結成された。ムステインはこう説明する。
「クリスと俺は、メガデスのアルバムはどのようなサウンドであるべきかってことを、お互いに理解しているんだ。それに彼の労働倫理は、俺のとよく似ているんだ。俺達は熱心に取り組んだ。彼は身を粉にして、もっと熱心に取り組んだ、ってわけさ」
他のメンバーとのコラボを含む、ムステイン史上最強のソングライティングが呼び物となっている『The Sick, The Dying…And The Dead!』には、メガデスならではの爽快感と個性とが全て集約されている。アイス-Tをフィーチャーした「Night Stalkers」から、第1弾シングル「We’ll Be Back」、ミドルテンポのメロディアスな「Soldier On!」 、そして、とても個人的な内容の表題曲まで、魅惑的な展開の曲揃いだ。
メガデスにとってはいつものことだが、どのリフも絶えずクレッシェンドするよう念入りに作られており、新たな和声的要素が際限なく現れ、一つ一つの細部に至るまでが音楽的・感情的効果を最大限に活かすために構築されている。だが、本作全体を通じて、多彩な雰囲気を醸し出しながら様々な変化を遂げつつも、バンドのメンバー同士を結びつけ、4人と聴衆とを繋げ合う重要なグルーヴを、メガデスが失うことは決してない。
『The Sick, The Dying…And The Dead!』は、技術的に卓越した能力と、野心的なアレンジ、驚異的なギター・ソロ、そしてニヒリスティックでありながら雄弁な歌詞から成る、カフェインとリフが苛烈なまでに充満したアルバムだ。さらにアコースティックによるイントロと間奏、プログレッシヴな冒険感覚、そしてムステインのトレードマークである社会的・政治的な論評によって、このアルバムは完全なものに仕上がっている。
「このアルバムは、『Countdown to Extinction』と『Rust In Peace』の間に置いてもあまり違和感がないかもしれないな。『Countdown to Extinction』の頃から俺達がメガデスの曲に加え始めた音楽性が、このアルバムにはかなり染み渡っているけれども、その一方で『Rust In Peace』の攻撃性もまだ相当あるからね」(デイヴ・ムステイン)
そのような歴史的アルバムを発表して以降、メガデスは無数のサウンドや、ソングライティング・スタイル、リフ・アレンジの実験を行い、我々がヘヴィ・メタルとして知るものの既成概念の枠を絶えず超え続けてきた。しかし、このバンドがここまで息の長い存在となった理由ともいうべき要素を、より新たに加入したメンバー達がほぼファンと同様の視点から注入している『The Sick, The Dying…And The Dead!』は、メガデスという“絶えず動き続ける、多彩な音楽性を備えた九頭の怪物ヒドラ”を、これまでにないほどの濃さで1枚に凝縮したアルバムとなっている。
全体として1つの芸術作品となるアルバム
本作は、メガデスのコンサートで何千人ものファン仲間と一緒にいるような、同族的な結び付きが持つ魔法を余す所なく捉えており、一人で家で聴いていても、イヤホンで聴いても、同じ気分が味わえる。我々が何かを行う際、最大の成果を挙げてみせるという意欲を掻き立ててくれるサウンドトラックであり、史上最低に落ち込んでいる時は慰めてくれる——あるいは、退屈な通勤時間に聴いていると、どこか別の場所に逃避させてくれるような、聴き手を元気にしてくれる爽快なアルバムでもあるのだ。 ムステインはこう説明する。
「人々は昔みたいなやり方でアルバムを作らなくなった。全体として1つの芸術作品となるアルバムを作らないんだ。でも、メタル・コミュニティは、それそのものに敬意を払いたいと考えているし、俺達には独自の何かがあると思う——それが俺達を他と分けているものであり、このコミュニティの人々の努力や忍耐、そしてお互いへの忠誠心に報いるものとなっているんだ」
ラム・オブ・ゴッドと共に回った〈メタル・ツアー・オブ・ザ・イヤー〉を経て、ヨーロッパの有名フェスティバルに多数出演した直後、そしてファイヴ・フィンガー・デス・パンチを従えた北米ツアーの真っ最中にリリースされるこの『The Sick, The Dying…And The Dead!』は、常に挑戦と驚きの連続であったメガデスのキャリアにおける、衝撃的かつ感動的な最新章を確固たるものにするアルバムとなっている。
「終わりが近づいているなんて思ってないよ、これっぽっちもね」と、話を結ぶムステイン。「この数十年で、一番エネルギッシュな気分なんだ」。
いみじくも、本作は「ウィル・ビー・バック」=「俺達はきっと戻って来る」と題した曲で締めくくられている。
Written By uDiscover Team
メガデス『The Sick, The Dying…And The Dead!』
2022年9月2日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Amazon Music
<収録楽曲>
1. The Sick, The Dying… And The Dead!
2. Life In Hell
3. Night Stalkers (Feat. Ice T)
4. Dogs Of Chernobyl
5. Sacrifice
6. Junkie
7. Psychopathy
8. Killing Time
9. Soldier On!
10. Celebutanté
11. Mission To Mars
12. We’ll Be Back
13. Police Truck *Bonus Track
- メガデスのベスト20曲:ヘヴィ・メタル界で最も革新的かつ重要なバンドの歴史
- メガデスのデイヴ・ムステインが昨年患った咽頭がんは“100%完治した”ことを報告
- メガデス『So Far, So Good…So What!』:最も興味深く、最も辛辣な歌詞のアルバム
- メガデス『Peace Sells…But Who’s Buying?』毒のようなリリックと巧妙な音楽
- 狂気のスラッシュ感染:発言から読み解くスラッシュ・メタル史