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ハウリン・ウルフの特徴が1枚に凝縮された『Moanin’ In The Moonlight』

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彼は、21代目の大統領チェスター・アラン・アーサーから名前をとりチェスター・アーサー・バーネットとして生まれたが、プロの歌手になるとハウリン・ウルフへと名前を変更した。ブルース界の伝説的存在のジョン・リー・フッカーは彼について効果たる「強大なウルフは、ドラゴンの尾を持ち、声は天使のようだった」。相応しいタイトルが付けられたデビュー・アルバム『Moanin’ In The Moonlight』(月に向かって吠える)はそんな彼の言葉を実証している。

ハウリン・ウルフは堂々とした男だった。身長190cm、体重127kgで、もしその歌声が天使の声だと言うのならば、それは荒れたデルタ・ブルースの天使だろう。その激しいうなり声としゃがれ声で歌う彼にかなうアーティストはまだどこにも登場していない。

ハウリン・ウルフの特質は1951年~1959年までの間に発売されたシングルが収められている1959年にチェス・レコードから発売されたアルバム『Moanin’ In The Moonlight』に集結されている。この中には、1910年6月10日にミシシッピで生まれた彼が幼い頃に、列車を見ながら良く歌っていたという素晴らしい楽曲「Smokestack Lightnin’」が含まれている。ハウリン・ウルフは40歳でミュージシャンになるまでは農家で働いており、よく仲間のミュージシャンたちに大豆の価格について話していたそうだ。

サン・レコードの創立者であるサム・フィリップスは、アイク・ターナーの薦めで初めて1951年にハウリン・ウルフを聴き、その力強い歌声に感情を揺さぶられた。「決して死なない魂を持った男に違いない、と僕は思った」と、フィリップスは過去を振り返りコメントしている。

サン・レコードからのシングル「Moanin’ At Midnight」はハウリン・ウルフにとっての最初のヒットとなった(後にサン・レコードはチェス・レコードに曲の権利を貸与)。それは不気味でパワフルな曲で、最初は記憶に残るハウリン・ウルフの重苦しい雰囲気のハミングから始まり、次に勢いよくハーモニカと「誰かがノックしている」との歌声が飛び出す。彼の声は催眠術のように強烈で、本人はいつもそれについて自分を卑下するように話していた。「ヨーデルができないから、ハウリングをするしかなかった」と彼は冗談を言う。「そしてそれは僕にぴったりだった」

Chess Records – A Brief History

 

『Moanin’ In The Moonlight』は聴いた者に満足感を与えてくれる作品である。ギタリストのウィリー・ジョンソンは独創的で洗練されたプレイヤーで、ハウリン・ウルフのヴォーカルに色調とリズムを加え、ドラマーのウィリー・スティールは絶え間ないエネルギーで力強く演奏する。サニー・ボーイ・ウィリアムソンIIからハーモニカを学んだハウリン・ウルフは正真正銘の情熱を込めて演奏する。

数曲でリード・ギターを弾いているヒューバート・サムリンは、ピアニストのオーティス・スパンと尊敬される作曲家でベースを担当したウィリー・ディクソンと共に、殆どすべてのセッションに参加している。小さな役割で参加したミュージシャンでさえも一流の演奏者たちばかりだった。マディ・ウォーターズの作曲を多く手掛けているオーティス・”ビッグ・スモーキー”・スマザーが「I Asked For Water (She Gave Me Gasoline)」でギターを弾いている。チャック・ベリーの「Johnny B Goode」でドラムを担当したフレッド・ビロウが「All Night Boogie」でゲスト演奏している。

アルバムに収録されているカヴァーで特に素晴らしいのがルーズヴェルト・サイクスの「Forty-Four Blues」だ。ルーズヴェルト・サイクスはその他にもブルースの傑作「Goin’ Down Slow」を作曲した人物である。1920年代にルイジアナ州で生まれた「Forty-Four Blues」は、ローウェル・ジョージのお気に入りで、リトル・フィートと一緒にカヴァーをレコーディングしている。

Howlin' Wolf – How Many More Years

 

アイク・ターナーがピアノを弾くミッドテンポのブルース「How Many More Years」は、本当に革新的な曲だ。ロバート・パーマーは、ジョンソンの“ディストーションを効かせたパワー・コード”は初めての試みだったと話しており、著名なプロデューサーであるT-ボーン・バーネットもその意見に同意している。「ある意味では、ハウリン・ウルフの“How Many More Years”は最初のロックンロール・ソングなんだ。なぜなら曲の中のギターのリフは後にロックン・ロール音楽の主要なギターのリフとして広まったからで、ディストーションを効かせたギターが使用されるのはこの曲が初めてなんだ。もとは古き良きビッグバンドのものなんだけど、全く違う新鮮なサウンドへと生まれ変わっているんだ」。

「Evil」(又は「Evil (Is Going On)」)は優れた作曲家ウィリー・ディクソンが作曲を手掛け、ハウリン・ウルフの凄みのある演奏に適していた。彼が、ドアーズ、クリーム、そしてザ・ローリング・ストーンズなど、多くのミュージシャンにインスピレーションを与えてきたことは驚くことではない。

Howlin' Wolf – Evil (Is Going On)

 

印象的なジャケット・デザインは今は亡きドン・ブロンスタインによる作品で、彼は後にプレイボーイの初の専属カメラマン、そしてチェス・レコードのアート・ディレクターとなった人物でもある。

その後もハウリン・ウルフは華やかなキャリアを積み、何度もヨーロッパを訪れた。しかしロンドンで『The London Howlin’ Wolf Sessions』のレコーディングを行う前に心臓発作を経験しており、1971年に交通事故にあってからハウリン・ウルフの健康は着実に衰えていった。ハウリン・ウルフは1976年にこの世を去り、ブルース界で伝説的な存在となり、特にローリング・ストーン誌の史上最高のアルバム500枚のランキングで『Moanin’ In The Moonlight』は154位となり、そのスケール感のある傑作は彼が亡くなった後も大きな存在感を保ち続けている。

Written By Martin Chilton


ハウリン・ウルフ『Moanin’ In The Moonlight』

♪ プレイリスト『Blues For Beginners


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