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エイミー・ワインハウスのベストソング20曲 : ソウルフル・ポップを切り拓いた唯一無二のアーティスト
自信に満ちた歌声と人々を魅了せずにはおかないパフォーマンスを披露するエイミー・ワインハウス(Amy Winehouse)は、同世代の最も才能あるアーティストのひとりだった。
1970年代のソウル・シンガーたちを彷彿させるヴォーカル、ふっくらと編み上げた髪型、厚い猫目のメイク。エイミーの存在感は圧倒的で、それも彼女を2000年代初頭のミュージック・シーンの一線に押し出した理由でもあった。またこの英国の歌姫はソウル、ジャズやヒップホップといった音楽の要素を、ポップ・ソングのフックと巧みにブレンドし、聴き手にインパクトを与えることができた。そして彼女のパブリック・イメージとそこに起因する論争によって、彼女の名前は広く知れ渡っていったのである。
個人的な諸問題と闘い、たびたびメディアを騒がせていたにも関わらず、ワインハウスがその短い生涯を通して音楽の世界に与えた衝撃は計り知れない。また、彼女の2007年のアルバム『Back to Black』が、その残酷なほどの誠実さと、自己批判的な作曲、表現力に富んだヴォーカルによって、最優秀アルバム賞を含む6つのグラミー賞を獲得したという事実にも触れないわけにはいかない。
自身の荒れ狂った恋愛事情について考察したものから、自身がリハビリ施設に入ろうとしない理由を力説した曲まで、ワインハウスはメランコリックで、セクシーで、自信に満ちたポップ・ソングの数々を生み出した。そしてそれらの楽曲の魅力は、時を経てもなお色褪せてはいない。そんな彼女のベスト・ソング20曲を紹介しよう。
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エイミーのヒット曲
1. Rehab
エイミー・ワインハウスは2003年にデビュー・アルバム『Frank』を世に出したが、このシンガーソングライターが初めてヒットチャートのトップ10にその名を連ねたのは、セカンド・アルバム『Back to Black』をリリースした2006年のことだった。
このアルバムに収録されているワインハウスの最初のトップ10入りシングル「Rehab」には、彼女がこれほど魅力的なアーティストになった理由のひとつである、どこまでも率直な姿勢がよく表れている。自身の薬物問題に対する熱烈な反抗と、甘いポップ・ソングのフックをひとつにした「Rehab」は、アメリカのシングル・チャートで最高位9位をマークしている。
2. You Know I’m No Good
ワインハウスの勢いはすぐに次のヒット「You Know I’m No Good」に引き継がれ、この曲は、そのリリースからほどなくラジオの定番曲のひとつになった。低音がうなるように鳴り響き、彼女の人間関係が悪くなっていくうちに自覚した惨めさや自己嫌悪を歌っている。その挑発的なヴォーカルと華やかなブラス・サウンドが認められ、米シングル・チャートで77位まで上昇した。
3. Back to Black
前夫との別離をもとに作られたシングル「Back to Black」では、ワインハウスは虚しさと自暴自棄に陥っているものの、1960年代のガール・グループ風のハーモニーとシンフォニックなストリングスに彩られた楽曲はそれを感じさせない。
4. Tears Dry On Their Own
モータウン・サウンドに傾倒したワインハウスは、アルバム『Back to Black』からの4枚目のシングルに当たるオリジナル・ナンバーを、マーヴィン・ゲイ & タミー・テレルがリリースした1967年の名曲「Ain’t No Mountain High Enough」を雛形に書き上げている。ミディアム・テンポの内省的な作品「Tears Dry On Their Own」がその曲だった。
5. Love Is a Losing Game
自身のシングルとしては最後になった「Love Is a Losing Game」は、彼女の苦悩が極限に達していることを印象付ける1曲だった。彼女の死から年月が経過してもなお、この曲の人気は衰えず、これまでにプリンスやサム・スミスといったアーティストたちにカヴァーされている。
エイミーがカヴァーした曲
6. Valerie
すべてのアーティストがオリジナルより優れているとは言えないまでも、上手くカヴァー曲を制作する技術を持ち合わせているわけではない。しかしワインハウスの飾り気ないエネルギッシュなヴォーカルと魅力はそれを可能にしている。
例えば「Valerie」は、UKのインディ・ロックバンド、ザ・ズートンズが2006年にレコーディングした楽曲のカヴァーだが、この曲がワインハウスのオリジナルではなく、しかも彼女はマーク・ロンソンのカヴァー・ヴァージョンに客演したものだ。ブルージーなヴォーカル・パフォーマンスが評価され、ワインハウスとロンソンによる「Valerie」は2007年にUKで大ヒットを記録。シングル・チャートの2位に達している。
7. Will You Still Love Me Tomorrow?
ワインハウスは、どんな楽曲のカヴァー・ヴァージョンであっても、フィル・スペクターのプロデュースを得たかのように見事に仕上げることができたが、彼女はそのスペクターが全盛期に手がけた一連のアーティストと同時期に活躍したガール・グループの名曲もリメイクしている。
ザ・シュレルズの「Will You Still Love Me Tomorrow?」が、その曲。エイミー・ワインハウスはそのカバーを2004年に発表している、楽曲のエッセンスだけを残したかのような彼女のヴァージョンを聴くと、過去の名曲を自分のものにしてしまうワインハウスの才能にあらためて気づかされる。
8. Cupid
アルバム『Back to Black』のデラックス・エディションには、サム・クックが1961年に作曲した「Cupid」を、じわじわと盛り上がるスカ・ナンバーにアレンジしたカヴァーが併録されている。ワインハウスが得意とした一連のR&Bタッチのポップ・ソングとはまた一味違ったトラックだ。
9. It’s My Party
彼女が参加した生前最後のシングル「It’s My Party」は、レスリー・ゴーアの1963年のヒット・ポップ曲をアレンジしたもので、これはクインシー・ジョーンズのコンピレーション・アルバム『Q: Soul Bossa Nostra』で聴くことができる。秀逸なブラス・セクションをバックにワインハウスはこの曲をドラマティックに歌い上げている。
人間関係のもつれを歌った楽曲
10. Between the Cheats
誰かに別れを切り出すという内容の歌はいくらも存在するが、エイミー・ワインハウスは、その短かったキャリアを通じ、そうした歌の中でも最上の部類に入る作品を残し続けた。
浮気した元ボーイフレンドや他の誰かが彼女に何をすべきか教えてこようとも、彼女は決して自分の感情を抑えることをしなかった。彼女の死後に作られたコンピレーション・アルバム『Lioness: Hidden Treasures』に収録されている「Between the Cheats」は、自身を裏切った恋人への軽蔑と、破滅的なまでの絶望を滲ませた情熱的なトラックで、これには伝統的なドゥワップの影響が色濃く感じられる。
11. Stronger Than Me
一方で、「Between the Cheats」がリリースされる数年前、ワインハウスは痛烈な「Stronger Than Me」でその年齢に似つかない賢さを証明していた。これは、彼女のことを思いやってはくれない年上の恋人について嘆いた作品だった。
12. You Sent Me Flying
そして「You Sent Me Flying」は、その「Stronger Than Me」と対照を成す1曲で、ワインハウスはその年上の男性に会ったとき、自身のエゴが傷つけられたことを認めている。「You Sent Me Flying」はヒップホップの要素を取り入れたビートが印象的な仕上がりになっており、伝統的なピアノ・バラードをワインハウス独自のやり方で表現しているという点で特筆すべきトラックに数えられよう。
13. Some Unholy War
くすんだムードのゴスペル調の作品「Some Unholy War」は、ワインハウスの夫が自身の深刻な精神状態と向き合っていたときに感じた彼女の無力感が詳細に綴られた作品で、ここでは、ワインハウスの意識の流れがそのまま楽曲に表現されている。
14. In My Bed
これら一連の作品の対極に位置するのが、UKでシングルとしてリリースされた「In My Bed」だった。NASの2002年のヒット曲「Made You Look」をサンプリングし、ブラスを加えたこのR&Bタッチのトラックは、ベッドを共にしているときにしか互いに共感しあうことのできない恋人同士について歌ったものだ。
15. Me & Mr. Jones
ワインハウスのナズに対する好意は、彼女のキャリアを通して一貫していた。そして「Me & Mr. Jones」で、ワインハウスは、自身もまたこのラッパーの数多い愛人たちのひとりだったことを認め、それでもまだNASに対して誠実であり続けようとしている。
ヒップホップ・アーティストとのコラボ
16. B Boy Baby
ワインハウスは明らかにジャズとヒップホップに強い関心を寄せており、それらのジャンルの音楽に対する情熱は、彼女の遊び心溢れる言葉遣いにも反映されていた。そして、彼女のジャズに感化されたフレージングと反抗的な精神性は、ヒップホップの世界にも多くのファンを生み出すことになった。
その点は、モス・デフ、ゴーストフェイス・キラー、ジェイ・Zといったラッパーたちが、挙ってワインハウスの作品に参加していることや、『Lioness: Hidden Treasures』のトラックリストが示している通りである。
また公式にはクレジットされていなかったものの、ワインハウスは、元シュガーベイブスのムティア・ブエナの2007年のシングルでザ・ロネッツの「Be My Baby」からメロディーと歌詞を借用した「B Boy Baby」にもヴォーカリストとして協力している。
この「B Boy Baby」が収録されているブエナのデビュー・アルバム『Real Girl』のプロデュースを手がけたのは、彼女とワインハウスの双方と仕事をしているサラーム・レミだった。
17. Cherry Wine
ワインハウスのしなやかなヴォーカルは、彼女の没後にリリースされたNASの2012年の作品「Cherry Wine」にもフィーチャーされている。ミュージック・ビデオの中ではワインハウスの映像がバーの壁に映し出されるという演出が施されていた。この「Cherry Wine」は2013年のグラミー賞の最優秀ラップ/サング・コラボレーション賞にノミネートされている。
18. Like Smoke
意外なことではないが、ワインハウスの作品を死後集めたアルバムからの最初のシングルはNASとのまた別の曲「Like Smoke」だ。ラッパーがミッド・テンポのヒップホップ・トラックをリードする一方、コーラス部分ではワインハウスはシアトリカルな歌唱を披露している。
遊び心あるトラック
19. Addicted
エイミー・ワインハウスのベスト・ソングの多くは失敗した恋愛、共依存や依存症について歌っているが、彼女は自虐的な歌詞の多くの中に透けて見えるような、いたずらっぽいユーモアのセンスも持ち合わせていた。
ドラムが特徴的な曲「Addicted」では、彼女の大麻に対する愛を自ら茶化している。自身の欲望をマリファナやセックスと混同しているところに機知が感じられ、そうすることによって、ワインハウスは自分自身のことをそれほど深刻にとらえないようにしていた。
20. F__k Me Pumps
弾むようなリズムの「F__k Me Pumps」は、クラブでサッカー選手を追いかけるために着飾っているすべての女たちを非難することを何度も考えてしまう彼女が、その思考から少し脱け出すためにジャジーで軽快な曲に仕立てたものだ。
同曲はレミとワインハウスの共同制作によるもので、彼女は冗談交じりに、この曲は「ふたりの意地悪い奴がひとつの部屋に集まった」結果だと述べている。ワインハウスはある程度の器用さをもって詩的に辛辣な言葉を浴びせることができたが、歌詞に関しては自らをその攻撃に巻き込んでしまうこともしばしばあった。
彼女の短い生涯とキャリアの中で、ワインハウスはソウルフル・ポップのテンプレートを作り上げ、数えきれないほどの模倣者を生み出してきた。しかしなお、エイミーが唯一無二の存在であることに変わりはない。
Written By Ilana Kaplan
エイミー・ワインハウス『Live at Glastonbury 2007』
2022年6月3日発売
LP
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