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連載:“マッカートニー・シリーズ”とは?【第4回:1980年『McCartney II』が出来上がるまでの背景】
2020年12月18日に発売が決定したポール・マッカートニーによる新作アルバム『McCartney III』。第1作『McCartney』から50年、第2作『McCartney II』から40年目となる今年リリースされるこのアルバム、そして3部作となるシリーズについて、ビートルズについての著作を何冊も手掛けているビートルズ研究家、藤本国彦さんによる連載第4回です。
■連載第1回:【シリーズの特徴】
■連載第2回:【ビートルズの解散と『McCartney』ができるまで】
■連載第3回:【ビートルズ脱退宣言直後、元祖宅録アルバムの内容】
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連載4回目は、“マッカートニー・シリーズ”の2作目となる『McCartney II』について、2回に分けて紹介する。まずは、アルバムが出来上がるまでの背景について――。
『McCartney』からちょうど10年。ポールはなぜ、続編の『McCartney II』を発売することにしたのか。その理由を探る上で、今回も3つのキーワードを設け、話を進めてみる。
1. アルバム『Back to the Egg』の不評
2. ウイングスを続ける意欲の低下
3. 日本での現行犯逮捕と公演中止
では、キーワードをそれぞれ順に追ってみる。
1. アルバム『Back to the Egg』の不評
まず『Back to the Egg』は、ポールがウイングスを率いて1975年から76年にかけて全米ツアーで頂点に上り詰めた後、新メンバー2人を加えて制作したアルバムだった(イギリスでは1979年6月8日発売)。しかもポールは、アメリカではビートルズ時代から続いていたキャピトルを離れ、新たにコロムビア(CBS)と契約し、心機一転、新生ウイングスとして新たに羽ばたく心づもりでいた。『Back to the Egg』が、パンク、ニューウェイヴ全盛の1979年、流行りのサウンドを取り入れた意欲作となった背景には、そうした流れがあった。
『Back to the Egg』について、もうひとつ見逃せないことがある。「1979年」=70年代最後という年代だ。思えば1969年(60年代の最後の年)にビートルズはポール主導で『Get Back』を制作したが、それから10年後、『Get Back』と趣の近い『Back to the Egg』というタイトルのアルバムでポールは70年代を締めくくろうとしたに違いない。その意味では『Back to the Egg』は、ウイングス版“ゲット・バック・セッション”の結晶でもあったと思うし、ジョンが復活シングル「(Just Like) Starting Over」に込めた想いと、向かう先はどことなく似ているようにも思う。
しかもアルバムには、70年代に活躍したイギリスを代表するロック・ミュージシャンが一堂に会した「ロケストラ / Rockestra」(ロックとオーケストラの融合を意味したポールの造語)という豪華セッション(スーパー・バンド)による曲も収録された。
参加メンバーは、ウイングスの他に、ザ・フー、ピンク・フロイド、レッド・ツェッペリンなどのメンバー――具体的に言うと、ギターはデヴィッド・ギルモア、ハンク・マーヴィン、ピート・タウンゼント、ベースはジョン・ポール・ジョーンズ、ロニー・レイン、ブルース・トーマス、ドラムスはジョン・ボーナム、ケニー・ジョーンズ、パーカッションはスピーディ・アクウェイ、トニー・カー、レイ・クーパー、モーリス・パート、キーボードはトニー・アシュトン、そしてホーンは1976年のライヴでお馴染みのハウイ・ケイシー、トニー・ドーシー、スティーヴ・ハワード、サディアス・リチャードという豪華な顔ぶれとなった。演奏されたのは「Rockestra Theme」。70年代を締めくくるのにこれほどふさわしい曲はない。もちろん“70年代のロック・ミュージシャン”の頂点はポールである(と自分でも思っていたはずだ)。
と、このように話題性は十分だった。にもかかわらず、アルバムはイギリスで6位、アメリカでも8位までしか上がらず、70年代のポールのアルバムでは、ウイングスのデビュー・アルバム『Wild Life』以来最低の記録となった(それでもトップ10入り、ではあるけれど…)。
2. ウイングスを続ける意欲の低下
一所懸命作っても売れない作品はもちろんある。だが『Back to the Egg』は、70年代の最後を飾る、それこそビートルズの『Abbey Road』のような力作として仕上がったのに、思ったほどの評判にならない。ポールの心境やいかに?である。まるでポールの失意の思いを象徴するかのような動きがアルバム発売後にあった。
新作発売後、メンバーを一新したにもかかわらず、ポールはアルバム発売記念のツアーを行なわなかったのだ。そればかりか、ツアーをやる代わりに、夏の6週間を費やして、自宅で気ままなレコーディングに没頭したのである。
バンドよりも個人――。その動きは、ビートルズの『Let It Be』よりも自分の『McCartney』に力を入れた1970年の状況に相通じるものがある。ただし、今回の方が事態はより深刻だ。
まさか70年代を締めくくるためにはツアーは12月にやるのがいいとポールがハナから思っていたわけはないだろうけれど、ウイングスのUKツアーは、結局、アルバム発売から半年近くも経った11月25日のリヴァプールから12月17日のグラスゴーまで8都市で行なわれた。
さらに12月29日に開催された“カンボジア難民救済コンサート”に、ウイングスはトリで出演した。ザ・フー、クイーン、クラッシュ、エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズ、イアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズ、プリテンダーズ、スペシャルズ、ロックパイルなどが出演したこのチャリティ・ライヴでは、ライヴ版ロケストラも結成され、「Rockestra Theme」の演奏で70年代の最後は華々しく締めくくられた。ここでも主役はもちろんポールである(と自分でも思っていたはずだ)。
3. 日本での現行犯逮捕と公演中止
そして1980年。大麻の前科を理由に幻に終わった1975年の来日公演中止を乗り越え、ポールは1966年のビートルズの日本公演以来、13年半ぶりに日本にやって来た。だれもが待ち焦がれていたウイングスの日本公演がついに!である。…だが、ポールは日本に「やって来た」だけで終わってしまった。まさかの大麻不法所持による現行犯逮捕である。
興味深いことに、2011年に発売された『McCartney Ⅱ』のアーカイヴ・コレクションのインタビューで、ポールはその時のことを、こんなふうに語っている。
「僕にとってはすごく変な時期だった。このバンドで日本に行くのが嫌だったからね。それにリハーサル不足だと思っていた。そういうのは好きじゃない。僕は大抵いいライヴができると自信が持てるようになるまでリハーサルするんだ。その場合は喜んでツアーに出るよ。でも公演が決まっていて、東京でリハーサルするという話だったから“うーん、ちょっとギリギリだよね……”って感じだった。それで動揺していたんだ。で突然逮捕されてしまった。分かんないけど、すごく奇妙だな、と思うんだ。まるで演奏しなくて済むようにわざと逮捕されたかのような。今でも謎だよ。“僕が逮捕されるように、誰かがそこに置いたのか?”とも思ったりする。分かんない。サイコ・ドラマみたいだよ」
日本公演が、たとえば半年ぶりのライヴだったとしたら、まだ頷ける発言だが、来日の3週間前にはUKツアーを行なっているし、日本公演のリハーサル映像も残されている。あれだけ前向きの(そう思える)ポールにしては、珍しく後ろ向きの物言いには、どこか歯切れの悪さも残る。
そして、この逮捕劇が尾を引き、ウイングスは活動停止=解散へと向かってしまうのだ。その代わりに、というわけではないものの、先に触れた「夏の6週間を費やして、自宅で気ままなレコーディングに没頭した」曲を厳選したアルバムを、ポールは公表することに決めた。もともと発表する予定ではなく、車の中であくまで自分のために流して楽しもうと思っていたという作品集――それが『McCartney Ⅱ』だった。
次回は『McCartney Ⅱ』の内容や、ジョンの死について紹介します。
Written by 藤本国彦
ポール・マッカートニー『McCartney III』
2020年12月18日発売
CD / 限定赤LP / LP / iTunes / Apple Music
ポール・マッカートニー『McCartney II』
CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music
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