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連載:“マッカートニー・シリーズ”とは?【第2回:ビートルズの解散と『McCartney』ができるまで 】
2020年12月18日に発売が決定したポール・マッカートニーによる新作アルバム『McCartney III』。第1作『McCartney』から50年、第2作『McCartney II』から40年目となる今年リリースされるこのアルバム、そして3部作となるシリーズについて、ビートルズについての著作を何冊も手掛けているビートルズ研究家、藤本国彦さんに解説いただいた連載第2回です。
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連載2回目は、“マッカートニー・シリーズ”の1作目となる『McCartney』について、2回に分けてご紹介する。まず今回は、アルバムが出来上がるまでの背景について触れてみたい。
『McCartney』を語る上で欠かせないキーワードは3つある
①アルバム『Let It Be』
②アラン・クラインとフィル・スペクター
③ビートルズ解散
である。
ここでのポイントは、なぜポールは初ソロ・アルバム『McCartney』を作ることにしたのか? である。言葉を換えるなら、ビートルズが変わらずグループとして存続していたら、ポールは初ソロ・アルバムを作っていなかっただろう、ということだ。
キーワード順にみていくことにすると、まずは『Let It Be』の存在が、『McCartney』制作とリンクしていることが挙げられる。
ファンはすでにご存知のように、『Let It Be』は1969年1月のゲット・バック・セッションの“最終形”として、紆余曲折を経て映画『レット・イット・ビー』とともにまとめられたものだ。『Let It Be』は、映画公開に合わせ、そのサウンドトラックしてまとめられたものでもあったが、ここで問題になるのは発売時期だ。
『Let It Be』は1970年5月8日発売で、映画公開は5月20日の予定だった。一方、ポールの初ソロ作『McCartney』は、1970年4月17日発売予定で制作が進められていた。ポールのソロ作が出てからビートルズの最後のオリジナル・アルバムが出る――それを嫌ったのが、ビートルズのビジネス・マネージャーに就任していたアラン・クラインだった。アランを推していたのがポールを除く3人=ジョン、ジョージ、リンゴだったことも、話をややこしくしていた。
そしてアラン・クラインは、『Let It Be』の発売を優先するために、『McCartney』の発売延期を決めたのだ。ポールは当然その決定に反発した。ポールが頑なに拒んだのには、もうひとつ理由があった。
グループとしてもう一度原点に“ゲット・バック”したいという思いで、ポールはデビュー・アルバム『Please Please Me』のような“一発録り”を基本にした音作りを目指していた。だが、アランが連れてきたプロデューサーのフィル・スペクターは、『Let It Be』を完成させる際に、ポールのピアノによる名曲「The Long And Winding Road」に女性コーラスやドラマチックなオーケストラを加えたのだ。
それはポールの意図したイメージとは程遠い仕上がりだった。そこにきて、アラン・クラインからの通達である。ポールが反発するのも当然と言えば当然だった。『McCartney』は、当初の予定どおり4月17日に発売されたが、プレス用の見本盤には、ポールみずからまとめた質疑応答形式の資料が付いていて、そこにはこう書かれていた。
「ビートルズの活動休止の原因は、個人的、ビジネス上、および音楽的な意見の相違によるもの」
「“レノン=マッカートニー”の共作活動が復活することはない」
こうして4月10日にポール脱退のニュースが世界中を駆け巡り、ビートルズ解散は公になった。
12月30日、ポールは、アラン・クラインを訴えられないために(仕方なく)他の3人のメンバーとアップルに対し、ビートルズの解散とアップルでの共同経営の解消を求める訴えをロンドン高等裁判所に起こした。ビートルズ脱退の理由として、「アラン・クラインが『McCartney』の発売を延期させようとしたこと」「許可なく〈The Long And Winding Road〉に手を加えたこと」などが挙げられた。
ところで、ポールが『McCartney』を制作する大きな動機となったと思われるより重要な出来事があった。1969年9月、『Abbey Road』発売直前に飛び出した、ジョンの脱退発言である。アラン・クラインをまじえ、アメリカのキャピトル・レーベルでのビートルズの売り出しに関する会議の場での出来事だった。ライヴ活動の再開を呼びかけたポールに対し、こう返したとジョンは後に語っている。
「お前はアホだ。言うつもりはなかったけど、俺はグループを抜けるよ。そのほうがさっぱりする。離婚みたいなもんだ」
ビートルズよりもプラスティック・オノ・バンドとの、あるいはポールよりもヨーコとの活動に軸足を完全に移行させたジョンは、『Abbey Road』が出来上がった後には、ビートルズでもうこれ以上やる意味を見出せなかったのだろう。
おそらくポールは、ジョンの発言を耳にして愕然としたにちがいない。ジョンの気持ちをビートルズに“ゲット・バック”できなかったことはすでに感じていたとは思うが、それでもビートルズ=自分の生きる道だと思っていたポールは、ショックでスコットランドの自宅のある農場へと引きこもってしまったのだ。
「リンダが支えになってくれてよかった」と後にポールは語っているが、まるでヨーコと別居して「失われた週末」を過ごしていたジョンと同じような状態に陥ってしまっていた。しかしポールは、ジョン脱退とビートルズ解散を受け入れ、酒とドラッグの自堕落な日々を乗り越えるために、行動を起こした。
「行動」とはもちろん、音楽を続けることである。演奏することで、ポールは、“ビートルズの呪縛”から解き放たれようとしたのかもしれない。マルチ・プレーヤーのポールは、すべての楽器を一人でこなす。歌では、時にリンダの助けを借りながら。
そうして生まれた曲の数々がひとつの作品としてまとまった。それが最初のソロ・アルバム『McCartney』である。
…と、こうして制作背景や動機や意図やポールの思いを書き記してみると、『McCartney』は、ポールが世に公表するのを目的として制作したアルバムではなく、あくまで自身のリハビリのために作った(作らざるを得なかった)アルバムだったということがわかる。その意味では、ジョンの初ソロ・アルバム『John Lennon/Plastic Ono Band(ジョンの魂)』と対になる作品と見てもいいだろう。
次回は『McCartney』の内容や、発売後の動きについて紹介する。
Written by 藤本国彦
ポール・マッカートニー『McCartney III』
2020年12月18日発売
CD / 限定赤LP / LP / iTunes / Apple Music
ポール・マッカートニー『McCartney』
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