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ウィーザー『Everything Will Be Alright In The End』解説:ルーツに回帰して成功したアルバム

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Cover: Courtesy of Republic Records

ウィーザー(Weezer)にとって2014年に発売された9作目のスタジオ・アルバム『Everything Will Be Alright In The End』は、彼らの残した作品の中でもっとも真摯に自分たち自身と向き合ったアルバムの一つとなった。オルタナティヴ・ロック界のレジェンドである彼らは、同作で自らのルーツに回帰したのだ。きわめて率直な内容の収録曲には、フロントマンであるリヴァース・クオモ自身の女性との関係や、父親との関係、そして何よりファンとの関係などが歌われていた。

しかし、『Everything Will Be Alright In The End』を制作するまでの数年間、グループは1990年代に名を上げるきっかけとなった”オタク的な”オルタナティヴ・ロックからすっかり離れてしまっていた。そのため2008年の『Weezer』 (通称”レッド・アルバム”) や、『Raditude』 (2009年) 、『Hurley』 (2010年) といったアルバムの作風はリスナーを困惑させ続けていたのである。

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自らの過去を掘り下げるというミッション

ウィーザーの面々は『Hurley』を発表したあと、次の年に新作アルバムをリリースする想定で新曲作りに着手。だが創造的な面で壁にぶつかった彼らは、制作した音源をお蔵入りにして活動を休止した。

そのあと静養期間を設けて瞑想に励んだことでクオモが次作への突破口を見つけ出したというのは、実に彼らしいエピソードといえよう。彼はそのとき、非常に内省的な作風の『Everything Will Be Alright In The End』に結実する作品の構想を思いついたのである。

こうしてメンバーたちはスタジオに戻り、カーズのリック・オケイセックと再会。オケイセックはマルチ・プラチナに認定されたウィーザーのデビュー・アルバム『Weezer』(通称”ブルー・アルバム”) や、批評家から高い評価を受けた2001年作”グリーン・アルバム”のプロデュースを手がけた人物だ。メンバーたちは彼とともに、アルバムを通じて自分たちの過去を掘り下げるというミッションに挑んだのである。

『Everything Will Be Alright In The End』のリリースに関する公表文には、次のような約束が記されていた。「バンドの初期のようなサウンドで、2014年に新たなストーリーを伝える」。この言葉通り、彼らはかつてのウィーザー・サウンドの復活を待ち望むファンの声をしっかりと聞き入れた。そしてアルバムが発表される1ヶ月前にリリースされた同作からの1stシングル「Back To The Shack」は、まさにそうした声に応えた作風になっていた。

力強いギター・リフやアンセム調のコーラス・パートを特徴とするこの「Back To The Shack」で、クオモはファンたちに許しを求めた。この曲の中で彼はこんな風に歌っている。

Sorry, guys, I didn’t realize that I needed you so much
I thought I’d get a new audience, I forgot that disco sucks
I ended up with nobody and I started feeling dumb
Maybe I should play the lead guitar and Pat should play the drums
みんなごめん、こんなにもみんなが必要なんだってようやく気付いたんだ
どうせ新しいファンがつくだろうと思っていたし、ディスコがクソだってことも忘れていた
結局は誰もついてきてくれなくなって、自分でもバカだったと気づき始めた
僕がリード・ギターを弾いて、パットはドラマーに専念すればいいんだよね

この「Back To The Shack」はまた、『Everything Will Be Alright In The End』におけるユニークなテーマ構造への導入としても機能しており、実際クオモはこうも歌うのである。

I finally settled down with my girl and I made up with my dad
I had to go and make a few mistakes so I could find out who I am
I’m letting all of these feelings out even if it means I fail
‘Cause this is what I was meant to do and you can’t put that on sale
ようやく恋人とも結婚したし、父親とも和解した
本当の自分を知るためには、いくつか失敗を重ねなきゃならなかったんだ
たとえ上手くいかなかったとしても、気持ちを全部さらけ出そう
それが僕の使命だし、誰もが世間に伝えられるものじゃないから

Weezer – Back To The Shack

 

複雑な構造

『Everything Will Be Alright In The End』に収録されている楽曲群は、それぞれに異なる三つのテーマに分類される。まず一つめはメンバーたちが”ベラドンナ / Belladonna”と呼んでいるもので、これはクオモの女性関係を主題にした楽曲群を指している。

「Ain’t Got Nobody」「Lonely Girl」「Return To Ithaka」「Go Away」(ベスト・コーストのベサニー・コセンティーノがヴォーカリストとして参加している) のほか、シングル・カットされた「Cleopatra」と「Da Vinci」も、同じく”ベラドンナ”に分類される。

Weezer – Go Away

“ザ・パノプティコン・アーティスト/ The Panopticon Artist”と名付けられた二つめのテーマの中心にあるのは、グループとファンとの関係だ。”パノプティコン”というのは、18世紀の哲学者であるジェレミー・ベンサムが囚人たちを常時監視するために考案した刑務所の構造のことだが、これは21世紀における有名人のあり方にも通じる概念といえよう。

このカテゴリーに属する楽曲には、「I’ve Had It Up To Here」 (ダークネスのジャスティン・ホーキンスとクオモが共作したナンバー) 、「The Waste Land」、そしてもちろん「Back To The Shack」も含まれる。

I've Had It Up To Here

最後のテーマである”ペイトリアーキア / Patriarchia”は、父親のような人物との関係を描いたものだ。「Eulogy For A Rock Band」「The British Are Coming」「Foolish Father」「Anonymous」がこの分類に当てはまる。

とはいえ、クオモが親との関係について歌ったのは、このときが最初ではない。彼は”ブルー・アルバム”に収録された「Say It Ain’t So」でも、離れて暮らす父との複雑な関係を取り上げていたのである。しかしこのアルバムを制作したときは、クオモ自身が親の立場になっていた。そのため「Foolish Father」などでは、彼が自分の子どもたちに向けて自身の振る舞いを詫びているように感じられるのである。

Eulogy For A Rock Band

このような複雑な構造を持つアルバムには、最後の見せ場が必要になるものだ。そして実際、『Everything Will Be Alright In The End』は”フューチャースコープ・トリロジー / The Futurescope Trilogy”と名付けられた三つの楽曲 (各テーマの楽曲が1曲ずつ含まれる) で幕を下ろす。

この”三部作”を構成するのは「II. Anonymous」のほか、「The Waste Land」と壮大な曲調の「Return To Ithaka」という二曲のインストゥルメンタル・ナンバーである。

II. Anonymous

 

効果的なセラピーのような合唱

謙虚な気持ちで自分たちの現実を見つめ直したウィーザーの姿勢は見事に報われた。2014年10月7日にリリースされた『Everything Will Be Alright In The End』は、ファンと批評家の双方から好意的に受け入れられたのである。実際、同作はカルト的な人気を得た1996年のアルバム『Pinkerton』以降の作品の中でもっとも高い評価を得ている。そして『Everything Will Be Alright In The End』は、ビルボード200チャートでも最高位5位をマーク。ウィーザーのアルバムが同チャートのトップ5入るのはこの作品でちょうど5作目となった。

ウィーザーは確かに、初期のアルバムでも私的な題材を扱っていた。特に『Pinkerton』は、名声の暗部や、グルーピーとの関係、アイデンティティを模索する苦しみ、恋愛関係の破綻といったテーマを含んだ作品としてよく知られている。

他方、『Everything Will Be Alright In The End』には、年齢を重ね、賢くなり、精神的に成熟した彼らの姿が投影されている。クオモは自身の欠点をきちんと認めた上で、自らの過去と折り合いをつけ、解決策を見つけ出す。そして、ウィーザーのファンも同じプロセスを辿るのである。

このアルバムの中でも、クオモが自分自身ともっとも真摯に向き合った楽曲を選ぶとすれば、おそらく「Foolish Father」ということになるだろう。この曲の最後のコーラス・パートでは、グループの熱心なファンが”Everything will be alright in the end / 最後にはすべてうまくいく”というフレーズを合唱する。その歌声はまるで効果的なセラピーのように、聴く者の心を穏やかにしてくれる。そしてアルバムが幕を下ろすころには、関係するすべての人にとってあらゆることが本当にうまくいくような気がしてくるのである。

Foolish Father

Written By Sam Armstrong



ウィーザー『Everything Will Be Alright In The End』
2014年10月7日
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