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ヴァン・モリソンが放つ新作『Roll With The Punches』は、原点回帰のブルースアルバム
ヴァン・モリソンはこれまでに『Astral Weeks』や『Moondance』、『Veedon Fleece』といった神秘主義を有して独創性に飛びながら、フォーク、ジャズといったジャンルの曖昧な作品を発表してきた。けれども、彼の音楽へのの最初の愛はいつもブルースにあった。彼の37枚目となるニューアルバム『Roll With The Punches』でブルースへと原点回帰したのだ。
ベルファスト生まれヴァン・モリソンは、まだ青年だったころ、音楽教育では幸先の良いスタートを切っていた。50年代にデトロイトに移り住む前、彼の父親はヴァン・モリソンが子供の頃から幅広いアーティストに親しめるよう、チャーリー・パーカーからフォークの第一人者ウディ・ガスリーまでを揃え、アイルランド島北東部では有数のレコード・コレクターの一人だった。思春期に父親のレコード棚からヴァン・モリソンはいろんなサウンドを聴きながら、その中で彼が最も共感したのは草分け的なブルースのアーティストたちだった。
「幼少の頃から、私はブルースと結び付いていた。ブルースは考え方のひとつだったんだ」とヴァン・モリソンは振り返る。「例えば、ジョン・リー・フッカーや、ボ・ディドリー、リトル・ウォルター、モーズ・アリソンなど本物だった人たちと会えた私はラッキーだった。彼らと一緒にブラブラ過ごし、彼らがやっていたことを吸収することができた。彼らはエゴのかけらもない人たちで、私が沢山学ぶ手助けをしてくれたんだ」。
ヴァン・モリソンの長きにわたる優れた経歴は、リズム&ブルースに対する愛を示した「Here Comes The Night」や「Baby Please Don’t Go」、ジミ・へンドリックス、ザ・ドアーズ、パティ・スミスらがカヴァーした「Gloria」など60年代中旬のヒット曲を生み出したベルファスト出身のグループ、ゼムのフロントマンとして活動したことから始まっている。新しく作られたヴァン・モリソンのオリジナル曲をセレクトしたブルース曲集『Roll With The Punches』でアイルランド出身のスターは、元の場所に戻ってきたのだ。
ハングリー精神と熟練さを二等分した『Roll With The Punches』は、クリス・ファーロウ、ジョージィ・フェイム、ジェフ・ベック、ポール・ジョーンズ、ジェイソン・リベロなどを含む素晴らしいチームと共にレコーディングされた。ヴァン・モリソンが自ら作詞を手掛けた中でも最高の2曲、えも言われぬジェイムス・カー風の「Transformation」と好戦的なタイトル・トラック「Roll With The Punches」で、シカゴ・スタイルのブルースにヴァン・モリソンが万能なヴォーカル・コードを誇示する一方で、ボ・ディドリーの「I Can Tell」の粋で洗練されたヴァージョン、T-ボーン・ウォーカーの「Stormy Monday」とドク・ポーマスの「Lonely Avenue」の活発なメドレーなどが収録されている。
そのほかには、表現豊かなジェフ・ベックのギター・ソロによって未だ最高の曲であり続けるサム・クックの「Bring It On Home」をサザンソウル色の強くしたヴァージョンに仕立て、最高に肝の座ったヴォーカルが始まる前に21世紀のセレブリティの幻想性を中傷した「Fame」では、ヴァン・モリソンはコンテンポラリーの雰囲気を感じさせている。
リトル・ウォルターズの「Mean Old World」やモーズ・アリソンの「Benediction」、ニューオリンズ風にアレンジされたシスター・ロゼッタ・サープの「How Far From God」などのカヴァー曲だけでも『Roll With The Punches』はアルバムとしての持久力を持ち合わせている。これはただのヴァン・モリソンの素晴らしいアルバムではない。ジョン・リー・フッカーの『The Healer』やJ.J. ケイル & エリック・クラプトンのグラミー受賞作品『The Road To Escondido』といった同じ可能性があるクロスオーヴァーをアピールしたライバル作品なのだ。
Written by Tim Peacock