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伝説的ギタリスト、スティーヴ・ハケットが語るお気に入りプログレッシヴ・ロックのレコード11選

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Photo: Neil H Kitson/WireImage

プログレッシヴ・ミュージックにはさまざまな形式がある。スティーヴ・ハケット(Steve Hackett)は、1970年代のジェネシスの快進撃を支えた伝説のギタリストであると同時に、大胆不敵な音楽の探求者でもあり、これまでに何度もプログレの定形を打ち破ってきた。

1975年にデビュー・アルバム『Voyage Of The Acolyte』をリリースして以来、彼はプログレッシヴ・ロックのさらなる高みを目指し、クラシックやブルースを深く掘り下げ、2012年にはイエスのベーシストである故クリス・スクワイアとスクアケット(Squackett)を結成。それ以外にも、数々のコラボレーション・プロジェクトに携わってきた

今回ハケットは、uDiscoverのためにプログレッシヴ・ロック・アルバムを代表する作品11点を選んでくれた。そして、その中からお気に入りの曲を集めた特別なプレイリストも作成してくれた。このリストに並んだ曲を聞くと、さながら心を融かす旅をしているような気分になる。ここには、「船乗り/seafaring」のようなプロコル・ハルム、「プログレッシヴ・ミュージック」の原型を作り上げたザ・ビートルズ、マイルス・デイヴィスの無調ロック、そして1970年代半ばに活躍したジェネシスの「パワフルなコンビネーション」までが並んでいる。ここからは、ハケットにアルバムを1枚ずつ紹介してもらおう。

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1. プロコル・ハルム 『A Salty Dog』(1969年)

私はプロコル・ハルムを船乗りのグループだと思っている。キース・リードの歌詞とゲイリー・ブルッカーの厭世感に満ちたヴォーカルが、美しいオーケストレーションを伴った海賊の襲撃の雰囲気を見事に表現しているだ。

-このアルバムを代表するトラック「A Salty Dog」-

これは本当にいい雰囲気の曲だ。まるで幽霊が自分の人生で起きた大切なことを歌で教えてくれているように聞こえる。曲のコード進行全体が醸し出す緊張感と陰鬱な雰囲気を私は気に入っているよ。

Procol Harum – Salty Dog (1969)

 

2. ザ・ビートルズ 『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』(1967年)

これはまるで、テレビ番組『コロネーション・ストリート』とインド最大の宗教都市ヴァーラーナシーをひとつにしたような作品だ。『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』は、その後のプログレッシヴ・ミュージックの原型となった。それはつまり、「どんな人でも、どんな楽器でも参加できる大規模な音楽パーティー」を意味している。ビートルズの強みは、さまざまな文化や思想、音楽のジャンルを混ぜ合わせながら、普通の人々の生活の中にある一触即発の状況を浮き彫りにするところにあった。ピーター・ブレイクのジャケット・アートワークは、この色彩と音の乱れ舞う多様性をたくみに表現している。

– このアルバムを代表するトラック「Lucy In The Sky With Diamonds」-

この曲は、夢のようなヴァースと、目の覚めるような明るいサビのコントラストが楽しい。サビでは、想像力豊かな歌詞を反映して色彩が爆発する。これを聞くと、回転する万華鏡の中に入ったような気持ちになる。サイケデリックな’60年代を形作った曲があるとすれば、それはこの曲だろう。

Lucy In The Sky With Diamonds (Remastered 2009)

 

3. ザ・ビートルズ『Abbey Road』(1969年)

私は昔からずっと『Abbey Road』のアルバムB面のメドレーに刺激を感じてきた。このいくつもの曲が繋がっていくメドレーは、ジェネシスの『Foxtrot』に収録された「Supper’s Ready」に影響を与えている。ヴォードヴィルとR&Bの融合、ウクレレとヘヴィ・メタルの融合 ―― ジャンルの組み合わせによる実験は、どんどんと発展していった。限界などなかった。

– このアルバムを代表するトラック「Something」

これは聴く者の心を揺さぶる美しいラブ・ソングだ。ジョージがソングライターとして独り立ちしようとしていた時期の最高傑作と言える。この曲には言葉では言い表せないすばらしさがある。ギターがヴォーカル・ラインを引き立てているところは特に気に入っている。

The Beatles – Something

 

4. マイルス・デイヴィス『Live-Evil』(1971年)

このアルバムで印象的なのは、それぞれの楽器同士が融合した結果、無調の音楽がロック的なエネルギーで演奏されていることだ。この作品はプログレッシヴ・ロックに影響を与え、フュージョンの先駆けとなった。これに続いて、マハビシュヌ・オーケストラやウェザー・リポートがシーンに登場してきたというわけだ。マイルスはアルバムを出すたびに、いつも新たな自分を創造していた。

– このアルバムを代表するトラック「Sivad」-

この曲はさまざまな要素が入り混じったハイブリッド的な性格があり、気に入っている。見事なくらい常道から外れた曲だ。軽やかなリズムが一風変わった雰囲気を醸し出し、才能あるミュージシャン達のおかげで、名人芸のような無調性が実現している。うまく行くはずのないものが、うまく行っている!

 

5. レッド・ツェッペリン『Physical Graffiti』(1975年)

2007年、私は今は亡き偉大なる友人、クリス・スクワイアと一緒にO2アリーナでレッド・ツェッペリンを見た。そうして、「Kashmir」がツェッペリンの最高の名曲だということでふたりとも意見が一致したんだ。この曲は、ラヴェルの「ボレロ」のように聴く者を惹きつける執拗さで、トランスのような原始的な盛り上がりのグルーヴを醸し出している。歌詞も興味深いけれど、この曲のパワーはどういうわけかリズム・セクションから生まれている。たったの1曲の名曲が含まれているおかげでアルバムが大のお気に入りになることが時々ある。

– このアルバムを代表するトラック「Kashmir」-

この曲では、原始的な深遠から湧き上がるような盛り上がりがとても魅力的だ。つっかえるようなリフのおかげで、ドラムスが自由に活躍することになる。またこの曲には、心にこびりつくような東洋的な性格もある。それはあたかも、砂漠の地下の神々が語りかけているかのようだ。

Kashmir (Remaster)

 

6. ジョニ・ミッチェル『The Hissing Of Summer Lawns(夏草の誘い)』(1975年)

このころのジョニは、ソフトフォーカス・ジャズにのめり込んでいた。「The Jungle Line」ではアフリカのドラマーを起用し、そこにシンセサイザーを被せたうえで、わざとハーモニーのないアレンジにしている。繊細なサウンドの混合カクテルも相まって、この曲はアルバムの多様性を示す典型例となっている。このアルバムは、彼女が真のプログレッシヴ・アーティストであることを証明する実験的な作品だ。

– このアルバムを代表するトラック「Shadows And Light」

この曲は、幾重にも重ねたヴォーカルとキーボードが特徴になっている。私はこの曲の空間感覚が気に入っている。大事なのは、実のところ省かれている部分だ。心がその隙間を埋めてくれる。はっきりとしたリズムがないことで、この曲には浮遊感が生まれている。

Shadows and Light

 

7. ピンク・フロイド『The Dark Side Of The Moon(狂気)』(1973年)

ピンク・フロイドの『Dark Side Of The Moon』は、傷を抱えた人たちに訴えかける。私は特に「Us And Them」が気に入っている。これは実にすばらしい雰囲気に満ちた曲で、感情的な面で聴く者を惹きつける。この曲は、双眼鏡の反対側からこちらに手を伸ばしてくる。つまり、反対側の視点から人類を見つめているのだ。このアルバムは、人間の内面や深い感情をたどっていく興味深い旅と言える。そうして通常は潜在意識の中に押し込められているものまで探っていく。このアルバムには催眠性があり、それもまた魅力の一部となっているんだ。

– このアルバムを代表するトラック「Money」-

レジの音で始まるこの「Money」は、パンチのあるひねりが効いていて、一風変わったイントロになっている。デヴィッド・ギルモアの奏でるギター・ソロはもはや伝説の域に達している。いってみれば、変化を持たせたブルースというところだろう。この曲を聴けば、ブルースがプログレッシヴ・ミュージックに変身できるということがはっきりとわかる。

Pink Floyd – Money (Official Music Video)

 

8. キング・クリムゾン『In The Court Of The Crimson King(クリムゾン・キングの宮殿)』(1969年)

ドゥーム・ロックの最高傑作。実に美しいが、身も凍るような冷たさがある。このアルバムでメロトロンを使った楽曲は、今も心に響き続けている。「Epitaph」では「音の壁(ウォール・オブ・サウンド)」のパートと音数の少ないパートが好対照を成しており、このアルバムで最もパワフルな瞬間を作り出している。「21st Century Schizoid Man」のキュービズムもそれと同じくらい魅力的で、その鋭角的なサウンドは以後のプログレッシヴ・ミュージックの中でずっと続く重要な要素となっている。このアルバムには、エドヴァルド・ムンクの「叫び」のようなインパクトがある。

– このアルバムを代表するトラック「Epitaph」-

この曲はイアン・マクドナルドのお気に入りの曲で、私も彼と同じ意見に傾いている。歌詞はある種の予言的メッセージに満ちており、グレッグ・レイクのオペラ的なヴォーカルと相まって、曲に力強さをくわえている。また、メロトロンを雰囲気たっぷりに使った演奏も注目に値する。

King Crimson – Epitaph (Including "March For No Reason" and "Tomorrow And Tomorrow")

 

9. ジェスロ・タル『Broadsword And The Beast』(1982年)

アルバム・タイトル曲は、戦いへの呼びかけと共に、聴く者を別の世界にタイムスリップさせる……そして血と剣と神話の世界を呼び起こし、祖先との強い精神的なつながりを持つ呪われた世界に引き込んでいく。プログレッシヴ・ミュージックはストーリーを語る場合が多々あるが、特にジェスロ・タルの場合、ロックとフォークの融合が説得力のあるかたちで実現している。

– このアルバムを代表するトラック「Broadsword」-

この曲には多くの英雄的な性格がある。私は冒頭の戦いのドラムがとても気に入っているんだ。この曲は、ヴァイキングや異教徒の戦士たちが自らの故郷を守っていた時代に聴く者を引き込む。まるで映画のような雰囲気があり、私が楽しんでいる多くの曲と同じようにストーリー性がある。ここでは、黒い帆の下から迫る脅威と、死を覚悟した戦いに臨む英雄的なキャラクターが存在感たっぷりに描かれている。イアン・アンダーソンのフォーク色の強い声質のヴォーカルは特に印象的だ。

Broadsword (2005 Remaster)

 

10. ジェネシス『Selling England By The Pound(月影の騎士)』(1973年)

このアルバムは、ジェネシスの作品の中で私が昔からずっと気に入っている作品だ。スコットランドの聖歌、エルガー、モーツァルト、そして複雑な変拍子を含むヘヴィ・ロックといったさまざまな要素がすべて1曲目に収められており、こうした異質なアイデアを非常に巧みなドラミングが結びつけている。このアルバムに私はギターと作曲で参加しており、その点も誇らしく感じている。このアルバムで、私たちはパワフルなコンビネーションを発揮した。ジェネシスの力がピークに達したのはこの時だったと私は感じている。

– このアルバムを代表するトラック「Dancing With The Moonlit Knight」-

ここでは、バンド・メンバー全員が曲を力強く表現できている。そのことが特に誇らしい。この曲を聴くと、タイムトラベルを体験したような気分になる。イギリスの丘の中腹で聞こえたひとりぼっちの寂しげな声から、企業に支配された現代社会まで、情景は目まぐるしく変わっていく……。この曲のパワーはいつまでも私の中に残っている。

Genesis – Dancing With The Moonlight Knight (Official Audio)

 

11. イエス『90125』(1983年)

このアルバムは巧みに作られており、非常に繊細なアレンジになっている。これは80年代のイエスだ。売れ線の作風と緻密な構成を両立させており、音作りも力強い。プログレッシヴでありながら、ポップスのような歯切れの良さがある。ビートルズと同じように、アイデアが次々と生まれては消えていき、そうしたアイデアが互いに切れ目なく組み合わされている。

– このアルバムを代表するトラック「Cinema」-

この短い曲はとても楽しめる。というのも、とても親近感が感じられる要素が含まれているからだ。素早くてダイナミックなリズムの上で、ゆったりとした印象的なメロディーが奏でられていく。イエスのアイデアがジェネシスに最も近づいたときにできたのがこの曲だと私は思う。

Cinema

Written By Sam Armstrong



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