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T.レックス「Get It On」解説:バンド2度目の全英シングル1位曲の制作秘話

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1971年の3月、プロデューサーのトニー・ヴィスコンティがロサンゼルスに到着した。そこにはマーク・ボラン率いるT.レックスが同行していた。彼らの次のシングルであり、1971年7月24日にバンド2度目のUKチャート1位を飾ることになる「Get It On」を含む新曲のレコーディングに来たのだ。トニー・ヴィスコンティが、その時のストーリーを語った。

「僕は、サングラスに汗まみれのTシャツ姿でサンセット大通りを歩いていた。当時、世界一大きなレコード屋だったタワーレコードに入ると、スピーカーから爆音で(トニー・ヴィスコンティがプロデュース&ベース演奏で参加していた)デヴィット・ボウイの‘The Man Who Sold The World(邦題:世界を売った男)’がかかっていたんだ。すると、ガラガラの店内で店員が次もボウイの‘She Shook Me Cold’をかけて、僕がその曲で弾いていたベース・ラインに合わせてベースを弾く真似をし始めたんだ。もう僕は我慢できなくなって、店員に駆け寄って“僕はトニー・ヴィスコンティだ。この曲のベースを弾いているのは僕で、プロデュースもしたんだ”と告げると”そんなバカな!”って僕が免許証を見せるまで信じてくれなかったんだよ」

Get It On

トニー・ヴィスコンティとマーク・ボランは、1967年に「Happy Together」で世界的ヒットを飛ばしたザ・タートルズのヴォーカルであるハワード・カイランとマーク・ヴォルマンとレコーディングする為にLAにやってきたのだ。ザ・タートルズを離れた2人は、元のレーベルとの契約の都合上改名を余儀なくされ、フロー&エディの名になった。2人はデュオとして今日まで活動している。マーク・ヴォルマンはこう語る。

「初めてマークと会ったのは、彼がまだティラノザウルス・レックスとしてフライ・レコードにいた頃だった。彼らがフロー&エディの前座を務めてくれて、それで一緒になったんだ。僕らがフランク・ザッパとUKツアーをした時にも彼のところに会いに行ったんよ。確か彼は“Seagull Woman”や“Hot Love”なんかを演奏していたと思う。マークとは結局何曲もレコーディングしたんだけど、僕らは高い声で参加したんだ。それ以降T.レックスでは高い声のハーモニが多用されるようになったんだ。他にも『Electoric Warrior (邦題:電気の武者)』の“Jeepster”にも参加して合わせて10〜12曲のレコードに参加したよ。“Bang A Gong”も含めてね」

T.レックスのシングル「Get It On」は、既に同名のR&Bシングルが存在したことから、混乱を避けるためにアメリカでは「Bang A Gong」と名付けられた。この時のレコーディングの様子をトニー・ヴィスコンティが思い出しながら語った。

「スタジオに入る前に、僕たちはハワード・カイランのハリウッドのローレル・キャニオンにある家で新曲のリハーサルを行ったんだ。窓もドアも全て開けて、彼のプールの周りに植えてあるオレンジの木の香りが部屋を満たしていたんだ。僕はそれまで、自宅の裏庭にプールがある人に出会ったことがなかった。新曲の”Get It On”のバック・コーラスをレコーディングする前に、プールサイドにてスローモーションで銃撃戦のふりを繰り広げているミッキー・フィンとスティーヴ・カーリーを8ミリ・カメラで撮影したりしていたよ」

19710731 Get It On No.1 (Disc)

「プライヴェート・プールが目の前にある豪邸でリハーサルをすると言うのは、なかなかシュールな体験だったよ。マーク・ボランは多作なソングライターで、びっちりと歌詞とコード譜が書き込まれたノートを持っていた。レコーディングをするときにはその本を開いて、アルバムに充分な17曲くらいをレコーディングすると、彼はその本を閉じるんだ。“Get It On”は、その時彼の本の中にあった50〜60曲の中の1曲に過ぎなかったんだ」

「僕が初めて“Get It On”を聴いたのは、レコーディングの前日だったんだけど、これはヒットするだろうと思った。次の日、“Get It On”をレコーディングする為に、何マイルも何マイルもかけて(LAの典型的な距離感だね)ウォーリー・ハイダー・スタジオに向かう車内にいたら、大気汚染で常にグレーなロンドンの蛆虫のような僕たちには、こっちの日差しの強さが耐えられなかったよ。担当してくれたエンジニアのリック・ペッコニンはとても協力的で情熱的だったし、彼の名は様々なレコードで見たことがあった。レコーディングはフロー&エディのバッキング・ヴォーカルも含めて、その日の午後に全て終わらせたんだけど、その時点でこの曲がシングルになる確信があったよ」。

「ロンドンに戻って、トライデント・スタジオで僕がアレンジした“Cosmic Dancer”のストリングスをレコーディングしている時に、ふと気がついた。『マーク、過去2枚のシングルには全てストリングスが入っているけど、今度の“Get It On”には入ってないけど大丈夫?』」

「彼の顔色は即座に悪くなった。『トニー、それはダメだ。今すぐ何か書いてくれないか?』って。ストリングス奏者たちが辛抱強く待ってくれる中、僕はサビで使われる3つの音をストリングス用に構成した。楽譜に起こす時間もなかったから、僕が直接どのタイミングでその3音を鳴らしてどう繰り返すかを奏者達に指揮したんだ。サビごとに繰り返しの回数が違うので、奏者は僕の指揮に注意しなければならなかったよ」

「“Get It On”がリリースされた7月を境に、T.レックスの仕事はより集中力を求められるようになった。それが(熱狂的なマニア達として知られる)T.レクスタシーの始まりだった。それまでの2つのヒットで、マークとバンド・メンバーはハシゴの高いところまで昇っていたけど、“Get It On”は世界的に最も有名なT.レックスの曲となり、別次元へと彼らを連れて行ったんだ」

最後にいくつかのトリビアを。「Get It On」の最後のフレーズにある“Meanwhile, I’m still thinking…”はチャック・ベリーの「Little Queenie」で同じフレーズが歌われおり、それが元になっている。レコードで聴けるサックスはキング・クリムゾンのイアン・マクドナルドによる演奏である。また、このレコーディングのピアノ奏者がリック・ウェイクマンであったと言われる噂を我々は払拭したいと思う。実際はブルー・ウィーヴァーというピアニストで、彼はエイメン・コーナー、フェアウェザーで活動後にストローブスに在籍し、その後長年に渡りビー・ジーズのバンドで活躍した。彼は我々との2014年の取材に対しこう語った。

「それは事実だ。リックが演奏したとよく語られるが、トニー・ヴィスコンティは私が弾いたと証言してくれているし、‘Telegram Sam’のピアノ・グリスも私によるものだよ。一番面白かったのは、”Top Of The Pops”で私の真似をエルトン・ジョンをやっているのをテレビで観た時だったよ」

Written by Richard Havers

*トニー・ヴィスコンティの発言はすべて彼の自伝『Tony Visconti: The Autobiography: Bowie, Bolan and the Brooklyn Boy』が出典元である。


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T・レックス『Electric Warrior(邦題:電気の武者)』
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