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“ラスト・アルバムにするべく作った”ザ・フーの『Quadrophenia /四重人格』
「このアルバムが情緒的な作品に仕上がった理由は、なんて言うか、ザ・フーのラスト・アルバムにするべきだという思いがあったからだよ」
これは1973年10月の末にNME誌のインタビューにおけるピート・タウンゼントによる物騒な発言だ。彼がその時話していたそのアルバムは、その年の11月17日イギリスでヒット・チャート入りした。それが『Quadrophenia(四重人格)』だ。
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やがて同タイトルで映画も製作されることになるアルバムだが、10月19日にアメリカのメディア攻略を狙って主要なラジオ局28社に向けて全曲分のサンプルとピート・タウンゼントの録音メッセージが配布。またBillboard誌は「大傑作である」と絶賛していた。
11月10日、エルトン・ジョンの『Goodbye Yellow Brick Road(黄昏のレンガ路)』がアルバムチャート1位確定と目されていた頃、ザ・フーは週間セールスの最高記録とともに、その週の初登場順位としては最高位となる24位でヒット・チャート入りを果たし、その後2位まで上昇を続けた。これはアメリカでの彼らの歴代アルバムで最高位だ。1978年に『Who Are You』が再び2位の座に就くことになるが、しかし彼らは現在までアメリカでの1位獲得には至っていない。
1973年11月17日に母国イギリスでもチャート入りを果たすが、その頃の彼らは2年ぶりとなるアメリカ・ツアーの最中だった。11箇所の主要アリーナを訪れ、『Quadrophenia』に収録された全曲にザ・フーの定番曲を織り交ぜて披露していた。そして同じく母国イギリスでも、アルバムに対しての熱い期待の声は高まっていた。
その週のイギリスのヒットチャートの1位は相変わらずデヴィッド・ボウイによるカヴァー集アルバム『Pin Ups』のままであったが、ザ・フーは1位にこそ届かなかったものの、エルトン・ジョンのアルバムを3位に追いやり2位に躍り出たのだった。『Quadrophenia』は、その週のトップ40に新たにエントリーした2枚のアルバムのうちの一枚で、もうひとつははるか下方の32位でチャートに入ったロリー・ギャラガーの『Tattoo』のみだった。
ピート・タウンゼントはNME誌でのインタビューで、このアルバムはモッズ・ムーブメントに対するある種の墓碑銘なのか?についてこうコメントしている。
「より現実的な意味で”My Generation”みたいな曲は墓碑銘的なものになったと思う。今度のアルバムでは、個人の思惑とか、ザ・フーの10年来のイメージとか、世代の意識を代表するザ・フー、みたいなバンドの幻想に終止符を打ちたいね」
Written by Paul Sexton
ザ・フー『Quadrophenia(四重人格)』
1973年10月26日
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