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名曲中の名曲、ディープ・パープル「Smoke On The Water」は最初はシングル曲ではなかった
ディープ・パープルの「Smoke On The Water」は、ハード・ロックを代表する名曲のひとつだ。バンドの面々がスイスのモントルーでレコーディングを行っていたときに近くのカジノが火事で全焼し、それをヒントにしてこの曲ができた……という実話は、若きロック・ファンにとっても必須のトリビアとなっている。しかしこのエピソードが伝説のように広まっている一方で、この曲がチャートでは意外な展開を見せていたことはあまり知られていない。
ディープ・パープルの黄金期と言える第二期メンバー全員が共作したこの曲は、アルバム『Machine Head』に収録され、1972年3月に発表された。しかしこれがアメリカでシングル化されたのはそれから1年以上後のことで、それまでは単なる”アルバムの中の1曲”でしかなかった。さらに驚くべきことに、イギリスではアルバム発表後5年間もシングル化されなかったのである。
イギリスで『Machine Head』からシングル・カットされたのは「Never Before」のみ。これはアルバムと同時に発売されている。この曲がシングルに選ばれたとき、アルバムの中で最も短い曲だった(4分未満)ということが大きな決め手になったはずだ。このシングルは最高35位にまで達している。しかしパープルの代表曲となった他のアルバム収録曲、つまり「Smoke On The Water」や「Highway Star」や「Space Truckin’」は、お昼のメインストリーム・ラジオで流すには長すぎる曲だのだ。
やがてバンド内での対立が深まるなか、契約上アルバムをもう1枚作る必要がでてきた。そうしてできたのが痛烈なアルバム『Who Do We Think We Are』(1973年3月発表)だった。そのあとの段階で、アメリカでの契約先だったワーナー・ブラザーズ・レーベルがシングルを出すことにした。しかし選ばれた曲は新作アルバムの収録曲ではなく、「Smoke On The Water」のライヴ・ヴァージョンとスタジオ・ヴァージョンを編集したものだった。
このシングルは、1973年5月26日のビルボード誌のシングル・チャートで初登場85位を記録。ロック系のラジオだけでなくポップス系のラジオでも人気を集めた。そうして初登場から5週間のうちにトップ20入りを果たし、それからもじりじりと順位を上げて7月下旬には最高4位にまで到達。ディープ・パープル最大のヒット・シングルとなった。これは、南アフリカ、カナダ、オランダ、ドイツ、オーストリアでも大ヒットになっている。
「Smoke On The Water」がイギリスでシングル化されたのはようやく1977年3月のこと。そのシングルは3曲入りで、この曲は1曲目に収められていた(他の2曲は「Child In Time」と「Woman From Tokyo」)。これは7週間チャート入りし、最高21位を記録。ただしそのころには、「Smoke On The Water」は既にロック史に残る名曲として評価が定まっていた。
Written By Paul Sexton