Stories
最も偉大なクリスマス・ソングはユダヤ人が作曲:ビング・クロスビーの「White Christmas」
数あるクリスマス・ソングの中で、これ以上にあの季節を思い起こさせるものはあるだろうか?
1942年にビング・クロスビーが「White Christmas」のオリジナル・ヴァージョンを発表してからというもの、ありとあらゆるアーティストとソングライターがビング・クロスビーよりもいいものを作り出そうと頑張ってきた。ビング・クロスビーの「White Christmas」は今もありとあらゆる場所で流れており、歴史に残る大ヒット・シングルとなった。現在までの総売り上げ枚数は5,000万枚にも及んでいる。驚くべきことに、この曲を作ったのはユダヤ人のウェイター兼歌手、つまりキリスト教の行事であるクリスマスを祝う習慣などない人物だった。
この曲の冒頭で、ビングはこんな風に歌っている
“I’m dreaming of a white Christmas, just like the ones we used to know…”
(夢見ているのは雪に包まれたクリスマス、みんなが覚えているクリスマス……)
そして毎年、その甘美な調べを初めて耳にするたびに、人はこの世が平穏であることを実感するのである。
「White Christmas」には面白いエピソードがいくつもある。1942年5月にデッカ・レーベルで吹き込まれたビングのオリジナル・ヴァージョン(ほとんどのクリスマス・ソングは夏期に作られている)は、今私たちが聴いているヴァージョンではない。ビングは1947年にほぼ同じヴァージョンを録音している。というのも、再プレスが度々繰り返された結果、オリジナル・ヴァージョンのマスター・テープが擦り切れてしまったからである。
この曲の作者イジー・ベイリンはベラルーシでイスロエル・ベイリンとして生まれ、ニューヨークのチャイナタウンでウェイター兼歌手として働いていた。やがて彼はアーヴィング・バーリンと名乗り、アメリカを代表する偉大なソングライターの1人となった。「God Bless America」の作者でもあるバーリンは、譜面の記録係を雇っていた。というのも、自分では譜面の読み書きができず、せいぜいピアノの黒鍵でメロディを弾くくらいしかできなかったからだ。たいてい彼は曲をハミングし、歌詞を書き留めていたのだ。
「White Christmas」を作ったあと何年も経ってから、彼はこんな質問を受けた。「ユダヤ教徒なのに、どうして”White Christmas”を作ることができたのですか?」彼はこう答えた。「私は、あの曲を1人のアメリカ人として作ったんです。」バーリンは1893年、5歳のときに家族と共にアメリカに移住してきた。
ビングのヴァージョンは録音にわずか18分しかかかっていないが、それでもこの曲の究極のヴァージョンだと考えられている。それにもかかわらず、この名曲のカヴァー・ヴァージョンのレコーディングに挑戦する人は実に数多い。たとえばボブ・マーリー、スティッフ・リトル・フィンガーズ、ウィリー・ネルソン、ボブ・ディラン、U2、エルヴィス・プレスリーといった具合だ。アーヴィング・バーリンは、当時卑猥であると批判されていたロックン・ロールを演奏していたエルヴィスのヴァージョンを放送禁止にしようと法的措置を執ろうとさえした。彼の気持ちはよくわかる。なぜならこの曲を思いついた日、バーリンはブロードウェイの自分のオフィスに入ってきて、こう語ったほどなのだから。「これは私がこれまでに作った中で最高の曲だ。それだけじゃない。これは人類がこれまでに作った中で最高の曲だよ」。
「White Christmas」が初めて電波に乗ったのは、1941年のクリスマス・イブのこと。ビング・クロスビーのラジオ番組の中で放送されたのが最初だった。それは、ハワイの真珠湾が日本の奇襲攻撃を受けてからほんの数週間という時期だった。おそらくそれが理由で、「White Christmas」はアメリカ国外にいるアメリカ軍兵士にとって非常に大切な曲になったのだろう。この曲は兵士たちや彼らが祖国に残してきた人たちの心に語りかけ、もっと安全で平穏だった時代のことを思い出させてくれたのである。
「White Christmas」に匹敵しそうな最も有力な対抗馬というと、メル・トーメの「The Christmas Song」になる。メルはソングライターであるだけなく、素晴らしい歌手として優れたアルバムをヴァーヴ・レーベルで何枚も吹き込んでいる。とはいえ、最初にヒットになったのは作者本人のヴァージョンではない。ナット・キング・コールはレコード会社の意向に逆らってこれを1946年に録音し、ヒットさせた。彼はその後この曲を3回録音している。こちらの曲もたくさんのカヴァーがあり、カヴァーした歌手の数は100人を超える。たとえばダイアナ・ロス、ポール・マッカートニー、スティーヴィー・ワンダー、カーペンターズなどもこの曲をレコーディングしている。
しかし今後何が起ころうとも、ビング・クロスビーの「White Christmas」はいつまでも史上最高のクリスマス・ソングであり続けるだろう。
Written By Richard Havers
- ウールでロック!最高のクリスマス・セーター12選
- 最高なロック・クリスマス・ソングのプレイリスト
- 全90曲!史上最高の洋楽クリスマス・ソングのプレイリスト
- 全33曲!ヒップホップとR&Bのベスト・クリスマス・プレイリスト
- “沈黙の次に最も美しい音”:ECMレコード入門
- 長年愛され続けるジョン&ヨーコの「Happy Christmas」
- クリスマス関連記事一覧