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1967年のビートルズ・サウンドを再現した「彼らがファブだったころ / When We Was Fab」
「僕らがファブだったころ / When We Was Fab」――この台詞をリヴァプール訛りで言えば、それが指すものはひとつしかない。さらに言えば、どんな訛りで言ったところで、これはザ・ビートルズの話にしかならないだろう。このフレーズはジョージ・ハリスンが1988年にアルバム『Cloud Nine』から出した第2弾シングルの曲名(邦題: FAB)であり、サビの歌詞にもなっていた。この曲はザ・ビートルズ旋風が吹き荒れた時代を思い出させる作品だった。「The Fab Four(信じ難い四人組)」と呼ばれたあの愛すべきマッシュルーム・カットのグループが世界を制覇したあの時代、ザ・ビートルズは永遠に活動を続けるものだと誰もが思っていたのだ。
ジョージ・ハリスンとこの曲を共作したジェフ・リンは、アルバム『Cloud Nine』の共同プロデューサーも務めていた。ふたりはその後まもなく、トム・ペティ、ボブ・ディラン、ロイ・オービソンと共にトラヴェリング・ウィルベリーズを結成している。1967年のザ・ビートルズはシタール、弦楽四重奏、テープの逆回転エフェクトなどを駆使して独自のサイケデリック・サウンドを作り上げていたが、「When We Was Fab」はそのサウンドを再現したような曲だった。この曲についてジョージ・ハリスンは以下のように語っている。
「……僕が歌詞を完成させるまで、あの曲は‘Aussie Fab’と呼ばれていた。それが仮のタイトルだったんだ。どういう歌詞にするかなかなか決めかねていたけど、これが‘Fab’の歌になるということだけははっきりわかっていた。ファブをテーマにした曲で、オーストラリアのクイーンズランドで作ったから‘Aussie Fab’という仮タイトルになったわけ。そうして歌詞を練り上げていくうちに、‘When We Was Fab’になったんだ。あれをライヴで演奏するのは難しいよ。細かくオーヴァーダブで重ねた音がたくさんあるし、チェロや変な音や逆回転の声なんかも入っているからね」。
「When We Was Fab」はこの上なくキャッチーな曲であり、さらに言えば、楽曲のそこかしこにザ・ビートルズのさまざまな曲にちなんだモチーフが散りばめられているところも楽しい。ここで大きな働きをしているのがジェフ・リンだ。彼はエレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)で活動していたころ、明らかにザ・ビートルズに影響された作品をたくさん作り出していた――ちょうど、テイク・ザットのカムバック・アルバム『Beautiful World』がELOからの大きな影響を感じさせたのと同じように。
「When We Was Fab」の参加ミュージシャンの中にはリンゴ・スターも含まれていた。リンゴ・スターは、10ccのゴドレイ&クレームが監督したこの曲のプロモ・ビデオにも出演している。その他の出演者は、ジェフ・リン、エルトン・ジョン(カップにコインを入れる通行人の役だ)、ニール・アスピノール(ビートルズのロード・マネージャーだった人物で。ジョン・レノンのレコード『Mind Games』を抱えて通り過ぎる)がいた。またカートを押すポール・サイモンやパーカッション奏者のレイ・クーパーの顔も見えるし、セイウチ(walrus)の着ぐるみを着たベース奏者はポール・マッカートニーだという噂もある。1988年のインタビューで、ジョージ・ハリスンはこんな風に語っていた。「もうひとつヒントがある。‘Grass Onion’では『セイウチはポール(the walrus was Paul)と』歌われていたよね」。さてポール、そろそろ秘密を明かしてもいいんじゃないかな。あれは本当にあなただったのだろうか?
この曲は1988年1月末にシングルとしてもリリースされ、翌週の2月6日にはイギリスのチャートに初めてエントリーした。全英チャートでの最高順位は25位、また全米チャートでも最高23位に留まったが、それでもこの曲は今でもジョージ・ハリスンの人気曲のひとつとしてファンに親しまれている。ちなみにシングルのジャケットは、1966年にクラウス・フォアマンが描いたジョージ・ハリスンのイラスト(ザ・ビートルズのアルバム『Revolver』のジャケット)と、それから22年後にクラウス・フォアマンが描いたジョージ・ハリスンの”新しい”イラストを組み合わせたデザインが使用されていた。
Written by Richard Havers
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ジョージ・ハリスン『Cloud Nine』
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