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ザ・ビートルズが「Ticket To Ride」で行った“乱暴”で“過激”なアプローチとは?
ポール・マッカートニー曰く“乱暴”で“過激“なアプローチを行ったザ・ビートルズの新曲が1965年の4月15日に、全英シングル・チャートに入った。そしてその曲「Ticket To Ride(邦題:涙の乗車券)」はその年の5月22日には、全米チャートで1位を獲得する。”
このレノン&マッカートニーによる作品はアビイ・ロードのスタジオ2で2月15日に録音されている。プロデュースはジョージ・マーティンが担当。エンジニアはノーマン・スミスが務めている。アメリカで「Eight Days A Week」が発売されたこの日、ザ・ビートルズは午後のレコーディング・セッションで「Ticket To Ride」を含む3曲を録音している。この日録音された3曲は、どれも2本目の主演映画『ヘルプ!』の挿入歌になった。
「Ticket To Ride」がアメリカで発売されたとき、発売元の米キャピトルのプレス・リリースではこの曲が「ユナイテッド・アーティスツ映画“エイト・アームズ・トゥ・ホールド・ユー”の挿入歌」だとうたわれていた。これは映画の制作中ずっと使われていた仮題だったが、完成した作品は『ヘルプ!』という題名になっていた。この映画は7月下旬に公開され、それからまもなく同名のニュー・アルバムも発売された。
映画の中では、「Ticket To Ride」はオーストリア・オーバータウエルンのスキー場のシーンで使われている。撮影が行われたのは、曲の録音から1カ月後のこと。そこでは、被写体のありのままの姿を映し出すシネマ・ヴェリテの手法が用いられていた。そうした手法は、1980年代に大流行したミュージック・ビデオに明らかに影響を与えている。
「Ticket To Ride」で、ザ・ビートルズのシングルは大きな転換点を迎えた。3分を超える曲をシングルにしたのはこのときが初めてだった。また曲の面でも歌詞の面でも、以前のシングルよりずっと凝った内容になっている。特にリンゴのドラム・パターンは、通常のポップ・シングルで聴けるものとはずいぶん異なっていた。
これ以前のザ・ビートルズのレコーディングでは、1曲ごとに何テイクも録音する場合、それぞれのテイクにテイク1、テイク2……という通し番号が付けられていた。しかしこの時期に録音された「Ticket To Ride」などの曲では、基本的なリズム・トラックを録音したあと、全員が満足するまでそのトラックにオーヴァーダビングを繰り返すという手法が採られていた。「Ticket To Ride」は記録上は2テイクしか録音されていないが、だからといって単に2テイク録音しただけでマスターが完成したわけではない。この曲が完成するまでには、もっとたくさんの時間が費やされていた。
「Ticket To Ride」のプロモーション・フィルムは、他の4曲のフィルムと一緒に1965年11月にトウィッケナム・スタジオで撮影された。撮影が行われた日は関係者全員にとって長い1日になった。スタッフは監督のジョセフ・マクグラス、カメラマン4人、録音技師1人、照明技師1人という顔ぶれ(マクグラスはその後1969年にピーター・セラーズ、リンゴ・スター出演の映画『マジック・クリスチャン』を監督している)。撮影は11月23日の午後に始まり、翌24日の早朝まで続いた。最終的には5つの曲に対して合計10本のプロモーション・フィルムが完成。これらは世界中で宣伝用に使われることになった。
アビイ・ロードでの「Ticket To Ride」のレコーディングでは、エンディングにも工夫が凝らしてあった。ポールはこう語っている。「エンディングは前のヴァースと同じ風にするのではなくて、テンポを変えてみた。歌詞の”My baby don’t care”というところを繰り返しているけれど、メロディは完全に違うものになっている。これはフェードアウトの部分のために書き下ろしたメロディで、とても効果的だった。でも、あれはかなり乱暴だったね。テンポも速くしたし。当時としてはかなり過激だった」。
Written by Paul Sexton
ザ・ビートルズ『Help!』