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テイラー・スウィフト『Lover』:決して飽きさせることがない2019年最高のポップ・アルバム
テイラー・スウィフト過去作品深堀レビュー
- 『Taylor Swift』: 他とは違う存在であることを証明した天才カントリー少女のデビュー作
- 『Fearless』: メインストリームに飛び出した2枚目のアルバムとタイトルが持つ意味
- 『Speak Now』: 最もパーソナルな感情を歌った音楽的に冒険心に溢れた3rdアルバム
- 『Red』: かつてないほどポップに近づいた変化過渡期のアルバム
- 『1989』: ポップという芸術の並外れた頂点
- 『reputation』: その伝説を挑戦的に突き進める理由
- 『Lover』:決して飽きさせることがない2019年最高のポップ・アルバム
- 『folklore』解説:コロナ禍でどう生まれ、何が込められ、過去作と何が違うのか
世界一のスターになったテイラー・スウィフトが私たちを驚かせるために何をすべきだろうか? わかりやすい選択肢としては、人々の期待をリセットした2017年のアルバム『reputation』でみせた大胆なエレクトロポップの方向性を推し進めていくことだろう。しかし2019年8月に発売となった最新作『Lover』はまた違った角度から私たちを驚かせた。これこそまさにテイラー・スウィフトが今までやってのけたことがなかったことだったのかもしれない。この作品は、彼女が世界的アイコンとしての地位を確立した2014年の『1989』をさらに明るくした世界観に逆戻りしたかのようにも感じさせる。
大衆に訴えかける楽曲
ここ最近のテイラー・スウィフトが比較的満たされていることは新作からも容易に推測できる。アルバム『Lover』は間違いなく祝賀モードに溢れ、収録されている18曲は、その歌詞を生んだインスピレーション、そして甘美でポップなメロディと共にピュアなのである。そのひとつ「London Boy」を例にとってみよう。一体これは誰について歌った曲なのだろうか? テイラー・スウィフトを掻き立てるシンプルな思考は、ドキドキするような3分前後の楽曲に詰め込まれた普遍的テーマと共に、何百万という人々の心に訴えかける曲作りのために、彼女を最善の場所へと導いているように思える。
「Cornelia Street」は良い例だ。恋愛に浸っている時にこそ心に刻まれた過去の思い出が濃厚に蘇るという馴染みのある感情について、舞い上がるようなシンセ・バラードに乗せて歌ったものだ。また、アルバム『Lover』は、80年代の音楽からも多大なるインスピレーションを受けている作品でもある。それは作風の模倣というよりは、“大は小を兼ねる”といった意味合いで音楽的アイデアが惜しみなく注がれている。
先行公開されたシングル「The Archer」やアルバム収録曲の「Daylight」が比較的軽いタッチの楽曲である一方で、「False God」は深掘りしたプロダクションが創り出す魔法のような演出によって強い印象を残している。それ以外にも、テイラー・スウィフトが過去最高のヴォーカル・パフォーマンスを披露している壮大なスタジアム・アンセム「Afterglow」がある。この曲は、アルバム後半の15曲目に収録されており、先行公開されていた2つのシングル「ME!」(16曲目)と「You Need To Calm Down」(14曲目)に挟まれて一見埋もれているように見えるかもしれないが、この曲こそがこの作品全体の質の高さについて多くを語っている。
いともたやすくジャンルを越える
ディクシー・チックスをゲストに迎えた優雅なカントリー・バラード「Soon You’ll Get Better」は、彼女が自身の音楽的ルーツから今までにどれほど長い道のりを歩んできたのかを証明するもので、彼女はいとも簡単にそのジャンルを越える方式を完成させた証明のようでもある。その対極にある作品として、名曲になりうる繊細なエレクトロ・ポップ「The Man」は、現在の自然体なテイラー・スウィフトに近い楽曲のように思える。ロビンやカーリー・レイ・ジェプセンといったアーティストも、このスタイルを極めていたが、テイラー・スウィフトのスタイルは、大衆へと語りかけているのだ。
アルバム『Lover』は2019年のテイラー・スウィフトの新たな一面を物語っているのだろうか? 彼女が持ち前の独立心を失っていないことは明らかである。パニック!アット・ザ・ディスコのブレンドン・ユーリーをフィーチャリングした「ME!」では、彼女が今までに作り上げた映像作品と賢く連結させながら愉快な風刺画のようなミュージック・ビデオを作り上げ、「You Need To Calm Down」ではヒット曲についてあれこれと討論されることへのわずらわしさについて歌っている。
では「ME!」のような歌詞の中に、私たちと直結するものを見出すことができるのだろうか? テイラー・スウィフトが私たちに差し伸べるものの中には、何かしら共感できる要素があることだけは確かである。彼女のカリスマ性溢れる誠実さが、ファン自身の思い出の中にこそ物事の真髄があるのだと思わせてくれるのだ。
ライバルたちより大きく抜きん出た実力
ジャック・アンティノフをはじめ、フランク・デュークスやジョー・リトルといったプロデューサーによるベルベットのように豊潤なプロダクションにどっぷりと浸かることで、18曲収録されたアルバム『Lover』の惜しみない収録時間は、決して私たちを飽きさせることはない。
パンチの効いたポップなオープニング曲「I Forgot That You Existe」でいきなりポップスの一斉射撃を受けたあとに、ドリーミーでもどかしい「Cruel Summer」へと繋がる。つまり序盤からリスナーの高い期待に応えることができているのだ。アルバムのタイトル・トラック「Lover」は、ラナ・デル・レイの作品を思わせるループするようなグルーヴを伴い、「Paper Ring」はわかりやすいカントリー・ポップの魔法の一振りによって生まれ変わった失われたブロンディの名曲のようである。
今年(2019年)、この『Lover』を上回るポップ・アルバムはおそらく出てこないだろう。現在のテイラー・スウィフトは、溢れんばかりのソングライティングへの自信、そしてその繊細な感覚をどう伝えるべきかにおいて、彼女のライバルたちより大きく抜きん出ているのだ。これこそ見事な成功といえよう。
Written By Mark Elliott
テイラー・スウィフト『Lover』
2019年8月23日発売
CD&限定版 / iTunes / Apple Music / Spotify
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