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T. レックス改名後1発目のシングル「Ride A White Swan」
1970年秋、マーク・ボランの人生は劇的に変わり始めた。それ以前の彼のグループ、ティラノザウルス・レックスは音楽界で注目の存在ではあった。しかし2年間に出したシングルのうち、全英チャートのトップ30に入ったのは1968年にリリースした「One Inch Rock」のたった1曲だけ。それより前に出た「Debora」は最高34位、また1969年の「King Of The Rumbling Spires」はトップ40圏外の44位という結果に終わっている。しかし1970年の秋、マーク・ボランは新たなスタートを切った。グループ名をティラノザウルス・レックスからT.レックスへと改名し、新しいレーベルと契約し改名後1発目のシングル「Ride A White Swan」で1970年10月24日に全英チャート入りを果たしたのである。
「Ride A White Swan」は、マーク・ボランとミッキー・フィンのコンビがT.レックスと改名してから出した初めてのシングルであり、フライ・レーベルの設立第1弾シングルでもあった。フライ・レーベルはドイツ生まれのイギリス人デヴィッド・プラッツが設立したレーベルで、ザ・フーのマネージメント・チーム、キット・ランバートとクリス・スタンプのトラック・レコードの後援を受けていた。そして「Ride A White Swan」という曲そのものも、新たな方向性に踏み出した第一歩だった。ここではサウンドがよりポップ志向になり、強力なギター・プレイが曲の骨格となっていた。またいったん仕上がった曲にプロデューサーのトニー・ヴィスコンティがストリングスをオーヴァーダビングしたことで、完成度が飛躍的に高まっていた。
この曲はBBCラジオ1で何度か取り上げられた結果、売り上げがグンと伸びた。やがてラジオのプレイリストに定着し、T.レックスがテレビ番組の『Top Of The Pops』に出演すると、あとはひたすら上り調子だった。T.レックスが成功したもうひとつの理由は、シングル発売の翌週に始まったコンサート・ツアーにあった。このツアーはチケットの値段が最高でも10シリング(50ペンス)という低価格に抑えられていた。
ツアーは年末まで続き、チケットは完売。12月には、T.レックスは新メンバーのスティーヴ・カリーが加入して三人組になることを発表した。「Ride A White Swan」は全英シングル・チャートの2位にまで上昇。ここまで来ると、’ボランマニア’(熱狂的なボラン・ブーム)の到来はすぐそこにまで迫っていた。
Written by Paul Sexton
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T.レックス『T.Rex』(Deluxe Edition)