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2018年アカデミー賞作品賞候補作で使われたポピュラー音楽13曲
アカデミー賞の先頭に立つのが映画であり、その映画の音楽を通じて物語を解説するのは、その映画のために作られたスコアとポピュラー音楽の巧みなバランスである。オリジナル・スコアは映画の意図した物語をさらによくするために調整されるが、既存のポピュラー音楽の使用は、同じように重要ではあるが少し異なる役割を担っている。例えば『風と共に去りぬ』やミュージカルから映画化された『エビータ』のような不朽の名作のスコアを作曲家が作り上げる一方で、、フランク・シナトラからスティーヴィー・ワンダー、そしてエミネムまでの幅広いポピュラー音楽の楽曲たちは長い間、銀幕で重要な役割を果たしアカデミー賞のベスト・オリジナル・ソング賞を手にしてきた。
ときに、映画はバンドに極めて重要な機会を与え、いつの間にかスターの道を進む手助けをしてきた。大ヒット映画『 ブレックファスト・クラブ』や『フェリスはある朝突然に』、『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』で、シンプル・マインズやイエロー、オーケストラル・マヌヴァーズ・イン・ザ・ダークといったバンドを大成功に導いた映画監督のジョン・ヒューズには彼らは感謝しなければいけない。映画で使われるポピュラー音楽は、初めから終わりまで環境、そして物語の横糸に焦点を合わせるために使用されている。それでは今年度のオスカー栄光への候補者を通して、今年で90回目となるアカデミー賞作品賞にノミネートされた作品より、幾つかの注目すべき映画音楽を挙げてみよう。
■映画『ゲット・アウト』での、フラナガン & アレン「Run Rabbit Run」
この第二次世界大戦の子供の歌は映画のオープニング・シーンでかなり不気味な音色で登場する。映画の至る所で気付かされるように『ゲット・アウト』では次に続く話の展開の伏線を表現する際にこの音楽が使われている。
■映画『ゲット・アウト』での、チャイルディッシュ・ガンビーノ「Redbone」
ジョーダン・ピールの社会政治的なスリラー映画『ゲット・アウト』に登場するもうひとつの極めて重要なシーンでは、
They gon’ find you
Gon’ catch you sleepin’
Now stay woke
Stay Woke
奴らはお前を見つけるだろう
寝ているお前を捕まえるだろう
目を閉じるな
目を閉じるな
と歌うチャイルディッシュ・ガンビーノ(別名ドナルド・グローヴァー)によるグラミー賞で最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンスを受賞した楽曲が起用されており、映画の中でこれから起きる出来事に対する不気味な警告として役割を果たしている。今年度のオスカー4部門にノミネートされている曲。
■映画『スリー・ビルボード』でのモンスターズ・オブ・フォーク「His Master’s Voice」
マイ・モーニング・ジャケットのジム・ジェームスがヴォーカルをつとめるバンドのこの曲は、映画『スリー・ビルボード』の中で、サム・ロックウェル演じる問題を抱えた警官が怒りのなかで広告掲示板(ビルボード)の真相を探ろうとする非常に重要なシーンを彩っている。
■映画『スリー・ビルボード』でのアバ「Chiquitita」
今年度のオスカーにノミネートされた中でもより飛び抜けて素晴らしいサウンドトラックのひとつとして、映画『スリー・ビルボード』の音楽はサム・ロックウェルの見事な演技も加わり、おきまりの登場人物の枠に収まらない登場人物に深みを加えるという重要な役割を果たした。サム・ロックウェル演じるだまされやすい巡査は映画の中で、マーティー・ロビンスのカウボーイ・バラードを口ずさみ、ある時までアバの1979年のアルバム『Voulez-Vous』の中から最も象徴的な曲に合わせてバップダンスを踊るのだ。
■映画『君の名前で僕を呼んで』でのザ・サイケデリック・ファーズ「Love My Way」
1983年が舞台の映画『君の名前で僕を呼んで』は北イタリアで出会う2人の青年の間に生まれるロマンチックな関係を記録した作品だ。ザ・サイケデリック・ファーズの適切にタイトルが付けられた「Love My Way」は星空の下で揺らぐ恋人たちに芽生え始めた関係をとらえている。
■映画『君の名前で僕を呼んで』でのバンドレロ「Paris Latino」
ルカ・グァダニーノ監督による型破りなラヴ・ストーリーは、古典的な曲から、フランスのデュオ、バンドレロによる「Paris Latino」といった陽気な80年代ヨーロッパのシンセ・ポップ・ヒット曲と、振れ幅のある音楽監修のロビン・アーダンとスフィアン・スティーヴンスによるオリジナル曲のおかげで、えりすぐりのサウンドトラックと共に大ヒットとなった。
■映画『アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル』でのダイアー・ストレイツ「Romeo And Juliet (邦題:ロミオとジュリエット)」
『アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル』は作品賞にノミネートされていないが、その多様なサウンドトラックはヒット曲に満ちている。名を成したあとロミオを捨てた女性について歌ったダイアー・ストレイツの「Romeo And Juliet」は、不祥事を起こしたオリンピックのフィギュア・スケーター、トーニャ・ハーディングと元夫のジェフ・ギルーリーの話に適切すぎるほどの選曲である。ジェフ・ギルーリーと15歳だったトーニャが初めてのキスを交わす映画の冒頭でこのクラシックなラヴ・ソングが聞けるだろう。
■映画『アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル』でのハート「Barracuda」
映画『アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル』の本当の音楽的は見所は、1977年のハートのヒット曲「Barracuda」が、国際舞台に向けたカムバックのためにトレーニングを行うマーゴット・ロビー演じるトーニャ・ハーディングのモンタージュ写真の回転速度を上げる場面だ。
■映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』でのクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル「Green River」
カントリー・ジョー・マクドナルド・アンド・ザ・フィッシュのような音楽と連動して、クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルの音楽はベトナム戦争の代名詞となった。同じくクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルの「Fortunate Son」が望ましい選曲になりがちだが、映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』はクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルの「Green River」で始まり、1966年の戦争で疲弊し、分裂したアメリカの雰囲気を決定づけた。
■映画『ファントム・スレッド』でのオスカー・ピーターソン「My Foolish Heart」
映画『ファントム・スレッド』は、オスカー・ピーターソンが歌う感情的なスネアブラッシングのバラードの長い演奏と共に始まる。この映画でジャズが使われるのはこの曲だけ。他のサウンドトラックはクラシック・ミュージックとレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドによるオリジナル曲が大部分を占めている。
■映画『レディ・バード』でのアラニス・モリセット「Hand In My Pocket」
アラニス・モリセットの「Hand In My Pocket」は、芸術的才能のある17歳少女の周りで展開するこの青春映画にしっくりとくる。この曲は物語の主人公、シアーシャ・ローナンを学校へと送り届ける途中の家族の車でラジオから流れてくる曲として使われている。
■映画『レディ・バード』でのデイヴ・マシューズ・バンド「Crash Into Me」
グレタ・ガーウィグが監督したデビュー作の中で紹介されたもうひとつの90年代中盤のヒット曲「Crash Into Me」はプロムのシーンと、ミュージカル後とシアーシャ・ローナンが演じるレディ・バード・マクファーソンにとって2度起こった変革の瞬間のサウンドトラックとして使われている。
■映画『シェイプ・オブ・ウォーター』でのグレン・ミラー「I Know Why (And So Do You)」
ギレルモ・デル・トロ監督による最高傑作の中に、厳重な警備の政府機関で働く言葉の不自由な女性用務員が人間の形をした両生類と水中でバンドリーダーのグレン・ミラーが歌うこのバラードに合わせてつま先でクルクルと回るシーンがある。この映画の中で最も美しい瞬間のひとつである。
Written by Theresa Lopez
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