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シャバカ・ハッチングスが語る『BLUE NOTE RE:IMAGINED』UKアーティストによる名曲カバー集
英国のデッカ・レコードと、伝説的なジャズ・レーベルのブルーノートがタッグを組み、2020年10月2日に国内盤CDが先行リリース(輸入・配信は10月16日配信)されたコンピレーションアルバムで、ブルーノートの歴史を代表する名曲をUK現代ジャズ・シーンの才能溢れるミュージシャン達が新たにカヴァーした作品「BLUE NOTE RE:IMAGINED(ブルーノート・リイマジンド)」。
この作品に参加しているシャバカ・ハッチングス(Shabaka Hutchings)のインタビューを掲載します。
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――まず今回の『BLUE NOTE RE:IMAGINED』に参加することになった経緯ですが、ブルーノートのレコードの中から好きな曲を選んでレコーディングしてほしい、という依頼だったんですか?
シャバカ:そうです。もう決まっていた曲もあったので、それ以外で選んでほしいということでした。
――あなたがサックス奏者の楽曲ではなく、ヴィヴラフォン奏者であるボビー・ハッチャーソンの楽曲を選んだのは意外でした。サックス以外の他の楽器奏者からもインスピレーションを受けているのでしょうか?
シャバカ:そうだと思います。楽器ごとに、サウンドへのアプローチは異なるものだと思うんです。ヴィヴラフォン奏者によるコードのヴォイシングのアプローチの仕方は、ピアノとはまた違っています。そして楽器が出す音の性質の違いもあり、生まれる雰囲気は異なるものになります。
どこか謎めいて、フツフツと沸き上がるような秘めたパワーはヴィヴラフォンという楽器ならではの音の資質なんだと思います。同じことを弾いても、ピアノのサウンドではああいうエフェクトは生み出せないんです。
――今回の『BLUE NOTE RE:IMAGINED』では、ウェイン・ショーターとジョー・ヘンダーソンという二人の偉大なサックス奏者の曲が数多く採り上げられています。彼らの音楽や演奏の魅力についてお聞かせいただけますでしょうか。
シャバカ:ジャズの言語に、それぞれの独自のパーソナリティを加えて、発しているという点じゃないでしょうか。僕の場合、音楽を聴いてユニークだと感じられるのは、そのプレイヤーのパーソナリティまでがはっきりと見えてくる音楽です。アーティスト性という観点からそれは重要な要素だと思います。
そのアーティストが現実をどう見て、それを一貫した描写で表現しているか…。ジャズの進化性と伝統をその人間ならではのパーソナルな形でポエトリーにします。ジョー・ヘンダーソン やウェイン・ショーターからはそういった強烈なアイデンティティ、そして自分だけのやり方で伝統を解釈している姿が聴こえるんです。
――今年一年はシャバカ・アンド・ジ・アンセスターズが中心の予定されていたかと思います。
シャバカ:そうですね。それはなくなったけど、他にもやらなきゃならないことはいっぱいあります。今は方向転換を図らなきゃならないってことですね。一番力を入れているのはクラリネットの練習。クラリネットのスキルをあげたいので毎日のように練習しています。作曲もブリテン・シンフォニアの委託を受けてクラシック楽曲を作っているところなんです。ギグも予定されていますよ。クラシックの領域でのギグというのはこれまでとは違うディテールの部分での練習が要求されるんです。
あとはモバイル・レコーディング(自宅での小規模の録音)を行なうことを見据えて新しいテクノロジーを勉強中です。ニュー・アルバムにも取りかかり始めようと思っています。ただし、自分以外のアーティストを使わずに。ミュージシャンとしてツアー以外のところで何ができるか、そのための新しいスキルや方法を学ぶ時間にしています。もはやギグを中心に生計を立てるという概念は安定性を失ってしまいました。もともとノンストップでツアーを続けるプレッシャーは、体力との引き換えのようなところもあって、年齢を重ねるにつれミュージシャンにとっては辛くなってくるものです。僕もミュージシャンとしてツアーに追われるだけの生活ではないものにするにはどうすれば良いかを考える良い機会になりました。
――そのブリテン・シンフォニアとのコンサートはいつ頃行われるのですか? 来年とか?
シャバカ:いえ、11月ですね。バービカンでソーシャル・ディスタンスをとっての限られた観客向けのコンサートになり、ライブストリーミングもされます。アーロン・コープランドのクラリネット協奏曲、あと何かソロもやる予定です。もう一つ、ロンドン・シンフォニエッタからも委託されているんですが、こちらの方は会場が再開してからなので、演奏自体が行われるのは来年半ば頃になるかもしれません。
――残念ながら今年8月の来日公演は中止となってしまいました。日本のファンはあなたの来日公演を見ることが出来る日を心待ちにしています。日本のファンに向けてメッセージがあればぜひお願いします。
シャバカ:“I’ll be back!”かな(笑)。日本に戻るのをほんとうに楽しみにしています。初めて日本に行ったのはフジロック・フェスティバルの時。フルートのような楽器を買ったんです。また戻って楽器も買いたいし、カルチャーを本当の意味で体験したい。初めて訪れる国ではカルチャーショックというかその違いにあっけに取られているうちに終わってしまいます。2度、3度といくうちに、そのカルチャーから何を受け取れるか、よりニュートラルな視点から理解できるようになると思うんです。だから僕も日本に行けば行くほど、日本のことが分かるようになると思います。ただ漠然とした印象だけでなくてね。
さっき言っていた楽器の名前を思い出しましたよ、尺八だ。日本で買ったんです。最近、またちょっと練習を始めて、少しまともな音が出るようになってきました。僕の場合、どんな楽器も短期間で習うのではなく、時間をかけて学ぶタイプなんです。少し吹けるようになったからこそ、また日本に戻りたいですね。さらに学べることがあるんじゃないかと思いますし。
――どうもありがとうございました。
Interviewed by 丸山京子
Various Artists 『BLUE NOTE RE:IMAGINED』
2020年10月2日CD発売 / 配信・輸入盤10月16日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify
1. Jorja Smith – Rose Rouge
2. Ezra Collective – Footprints
3. Poppy Ajudha – Watermelon Man (Under The Sun)
4. Jordan Rakei – Wind Parade
5. Skinny Pelembe – Illusion (Silly Apparition)
6. Alfa Mist – Galaxy
7. Ishmael Ensemble – Search for Peace
8. Nubya Garcia – A Shade of Jade
9. Steam Down feat Afronaut Zu – Etcetera
10. Blue Lab Beats – Montara
11. Yazmin Lacey – I’ll Never Stop Loving You
12. Fieh – Armageddon
13. Mr Jukes – Maiden Voyage
14. Shabaka Hutchings – Prints Tie
15. Melt Yourself Down – Caribbean Fire Dance
16. Emma-Jean Thackray – Speak No Evil / Night Dreamer
17. Kan Sano – Think Twice
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