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サム・スミス最新アルバム『Love Goes』全曲本人解説を掲載。ライヴ・アルバムも発売決定
英シンガー・ソングライターのサム・スミス(Sam Smith)が2020年10月に発売したサード・アルバム『Love Goes』。発売後1週間でアルバム・セールスは350 万枚以上に達し、70億回を超えるストリーミング再生回数を記録し、現在もロング・セールスを記録中となっているこのアルバムのオリジナル版に収録された全11曲の本人による解説を掲載。
また、サム・スミスは2021年3月19日にライブ・アルバム『Love Goes: Live At Abbey Road Studios』の発売も決定している。こちらはリリース直後に本人初となるオンライン・ライヴを英名門スタジオ、アビイ・ロードにて実施したパフォーマンスを収録した作品となっており、日本では特別にCDとして発売されます。
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皆さん、こんにちは。サム・スミスです。アルバム全曲の解説をして、それぞれの曲にまつわる背景や物語を皆さんに語るのは、アルバムのプロモーション活動の中でも、私の一番のお気に入りなんだ。
1. Young / 甘美に花開く青春
「Young」は新作の冒頭を飾る、スティーヴ・マックとロンドンで書いた曲で、私にとっては、これを1曲目にすることがとても重要だった。というのも、私はしばらくダンス路線を試してみたり、ダンス・ミュージックを書いて、世に送り出したりしていたでしょ。今回は、私がこのアルバムで大いに楽しんでいるんだってことを伝えるところから、まず始めたいと思ったんだ。
それと、この曲には憂いがある。このアルバムに哀愁が漂っているのは明らかだよね。でも私としては、「Young」はこのアルバム全体の方向性を打ち出していると同時に、今作を作っていた時に私は26歳だったってことを、リスナーの皆さんに思い出してもらう曲でもあるんだ。
ツアーばかりの生活を送っていたから、“青春時代”と呼ばれる日々を自分はあまり味わってないなと、私は感じていた。このアルバムでは、私が重要な実験期間を経験していた、ある時期のことが描かれていて、パーティをしたり、踊ったり、今まで以上に自分のコミュニティに関わったりすることを通じて、自分自身のことをもっと良く知ろうと思っていたんだ。でも有名になったせいで、そこにはいつも目に見えない障壁があった。この曲はそういったことを説明していると同時に、この後アルバムがどう展開していくか、リスナーに備えてもらってもいると思う。
2. Diamonds / 装飾品の魅惑
「Diamonds」は、元々はこのアルバムに入れる予定ではなかった曲なんだけど、ロックダウン(都市封鎖)期間中にとても気に入って、何度も聴き返していたんだ。この曲には軽快なノリがあって、思わず踊りたくなったんだよね。
歌詞は、2019年にロンドンでシェルバックやオスカーと曲作りをしていた時に、私が書いたもので豪邸に住んでいる大金持ちの女性に私はなり切っている。夫から別れを告げられたばかりで、独りぼっちになった彼女は、ダイヤモンドも洋服も、何もかも持って行かれてしまうことになっていて、ただ泣いているんだ。要するに、私は悲劇のヒロインになり切っているってこと、小さなことでいちいち大騒ぎする、メロドラマの主人公ぶっているというわけ。
3. Another One / 無視は禁物という警告
「Another One」は正直な話、今のところ私が一番大好きな曲。この曲は、私にとって本当に大切なんだ。この曲を書いた時はLAにいて、その日の朝、私にとって個人的な、私生活に関するある知らせが届いた。それからスタジオ入りしたんだけど、私にはそれが完全な癒しの役割を果たしてくれて、私たちはこの曲を書いたというか、これが自然と生まれた。
私とヌーニー(・バオ)とライナス(・ウィルクルンド)とで、丘を見渡せる一軒家で過ごしながらこの曲を書いて、それから外のバルコニーでシャンパンを片手に、これを聴きながら踊っていたんだ。おかげですごく解放的な、自由な気持ちになれた。これは悲しい曲だし、辛い曲。「私はもう吹っ切った。私はもう乗り越えた」と言いつつ、本当は吹っ切れていないんだよね。
4. My Oasis feat. Burna Boy / 憶えていてほしいという切なる願い
「My Oasis」は、ロックダウン期間中に書いた曲で、すごく楽しんで曲作りをした。私とジミー(・ネイプス)で手がけたんだけど、ボーカル的には、歌メロを書くのが本当に楽しかった。ボーカル・マイクを手にして自宅のリビングにただ座っていたら、自然と美しいメロディが湧いてきたんだ。曲の仕上がりにも、すごく満足していたしね。
そしたらバーナ・ボーイが参加してくれると聞かされた。私たちは、というか私自身、彼にコラボしてもらえるかどうか話を持ちかけていたんだけど、彼がそれを受けてくれて、信じられないくらい素晴らしい仕事をしてくれたんだ。とにかくビックリしたし、スゴいことだよ。私は彼の大ファンだから。でもこれは、このアルバムの中でも特にセクシーな曲なんだ。
5. So Serious / 危険な悦び
「So Serious」は、個人的なお気に入りだね。大好きだ。私の家族はあまりこれを好きじゃないんだけどね。この曲が好きじゃない人もいる。緩やかで快い曲だよ。元はアルバム収録候補から外していたんだ。内容的にあまり聞こえが良くなかったから。でもアルバムに取りかかってから、頭の中で小さな声が聞こえたんだよ、「落ち込んでいる時には、ちょっとしたポップ・ソングで乗り越えられる時もあるよ」って。私にとっては、この曲が正にそれにあたる。
裏には深い意味があって、憂鬱や精神面での健康問題や悲しみがテーマなんだけれど、そういった重苦しい感情を、あまり深刻ではない遊び心のあるものに変換しようとした。落ち込んだ気分の時には、そういったものが私を元気付けてくれるから。その日スタジオ入りし、自分の気持ちについて深く考えていたら、明るい気分になりたくなったんだ。この曲は、本当にとても好きだよ。これもヌーニーとライナスと一緒に書いた曲で、本当に創造性に満ちた瞬間、空間を味わえたね。
6. Dance (‘Til You Love Someone Else) / 見捨てられるということ
「Dance (‘Til You Love Someone Else)」はロンドンで、エイミー・アレンと、あの素晴らしいトゥー・インチ・パンチと一緒に書いた曲。そう、お互い会ったばかりだったんだよ。エイミーとはその前に初めて正式に会っていて、ものすごく馬が合ったんだ。彼女のことはアーティストとして大好きだし、一緒に語り合っていると、私の素の部分を素晴らしい形で引き出してくれる。
この曲は本当に楽しくて、Aメロは少しペット・ショップ・ボーイズっぽくしてみようとしたんだ。そしてサビは、ホイットニー・ヒューストンとシェールがちょっと融合したみたいな感じにね。でもこの曲は、やっていて楽しかったし、これから先もずっと、特別な曲であり続けるよ。実際にこの曲を仕上げたのはLAだったんだけど、正にそれは、私が自分の代名詞をノンバイナリーにすると公表した日だったんだ。だからこの曲を聴くたびに、いつもその日のことを思い出すだろうな。
7. For the Lover That I Lost / 終焉、挽歌、死
「For the Lover That I Lost」、この曲はとても興味深いな。これまでじっくり吟味したことがないから。これはこのアルバムのために書いた曲だったんだけど、当初は収録していなかったんだ。その後、セリーヌ・ディオンが歌うことになって、セリーヌ・ディオンのアルバムに収録された。それからそのアルバムが出て、私はすごく気に入ったんだけれども、彼女がこれを歌うのを見た瞬間、もう一度、この曲に惚れ直したんだ。そして私はセリーヌのためにこの「For the Lover That I Lost」を書いていたんだなと、改めて実感したよ。
それで、新型コロナウイルスの感染拡大によるステイホーム期間が明けた後、不定期にジミーとスタジオに入っていた時に、試しにこれをやってみたくなり、歌ってみたんだ。この曲は、セリーヌへの賛歌として今作に入れたんだよ。去年、セリーヌ・ディオンをライヴで観て、このアルバムの制作中、実際に彼女の音楽をたくさん聴き返していた。彼女はとにかく信じられないほど素晴らしいからね。そう、これはセリーヌに捧げる賛歌なんだ。
8. Breaking Hearts / あなたに対する宣戦布告
「Breaking Hearts」もまた、私がこれまで時にそうしていたように、そして今度は間違いなく次のアルバムでそうするように、気持ちや感情を深く掘り下げている曲で、時にそれが耐えがたいほど辛い場合もある。メロディやサウンドと戯れながら、高く上がり過ぎることもなく、低く下がり過ぎることもなく、一つの場所に腰を落ち着けて色々と構想を練るのは楽しいものだった。
このアルバムの曲作りをしていた時、ジュリア・マイケルズの曲をかなり聴き込んでいたんだ。「Breaking Hearts」を聴いたら、それが少し分かるんじゃないかな。あれはとても良い天気の日だった。この曲はすごく気に入っているよ。顔面にパンチを食らわせるような曲ではなく、友達のように黙って寄り添ってくれる曲なんだ。
9. Forgive Myself / 傷ついた心の治し方
「Forgive Myself」は恐らく、このアルバムで最も悲しい歌。多分、私が恋人と別れて一番最初に書いた曲なんじゃないかな。そして、そうだね、私はとにかく悲しくてたまらなかった。これは悲しい曲だよ。この曲には絶望感が漂っている…。
この曲を書いた当日に歌を入れ、デモをレコーディングをしたんだ。だけど、それを変えたくなかったんだよね。そこにしかない魔法があったから。確か季節はクリスマス、もうすぐクリスマスっていう時期で、私はロンドンにいて、この曲を書いた。この曲もまた、私にとってとても大きな癒しとなってくれたんだ。こういったことを表現した曲は、書いたことがなかったから。そしてこれを実際に書いた時、頭ではまだよく理解できていなかったことを説明できたような気がした。だから後で聴き返してみて本当に良かったと思ったし、当時の自分が感じていた想いがうまくまとまっていると思う。
10. Love Goes feat. Labrinth / いつまでも、この心に
「Love Goes feat. Labrinth」は、言うまでもなくアルバムのタイトル曲で、何にも増してこの曲が大好きだよ。一風変わっていて、他の曲とは大きく異なっている。旅に出ている曲なんだ。愛とは何か、愛の意味とは何か、問いかける旅路にね。「愛とはそういうもの」という歌詞の一節がある。その旅路は、このアルバム作りをしていた全期間にわたっていた。そして私は初めて、愛とは奪うものではないと理解したんだよ。愛とは自然に生まれ育っていくものだと分かったんだ。それは私にとって、とても大きな人生の教訓だった。そのことが、この曲に集約されていると思う。
ラビリンスとのコラボについてだけれども、ラビリンスと初めて会ったのがこの日だったんだ。とにかく魔法のようだった。すごくスピリチュアルな体験だったんだよ。そうとしか説明できないな。彼と合流して、お互い…二人とも、腹を割って話し合って。そうだね、私にとっては正に夢の実現だったんだ。私は本当にラビリンスの大ファンだから。だからこれから先もずっと、あの日のことには感謝し続けるよ。
11. Kids Again / 子供時代の無邪気な輝き
「Kids Again」は、アルバム本編の最後のナンバー。この曲は今作の他のどの曲とも全く異なっている。これで終わりとなる、最後の部分で、振り返ってみると、完璧な締めくくりとなっているね。「Young」と「Kids Again」で、ちょうど両端をブックエンドのように挟み込む形になっている。このアルバムを振り返りながら、曲作りをしていた時の恋愛関係について振り返り、若いということ、そして子供であるということ、楽しい時を過ごし、若さを謳歌し、楽しむことに身を任せても自己嫌悪に陥ったりしないということ。
また、この「Kids Again」は、この次のアルバムで私が目指したい方向により傾いている曲でもある。素朴で、よりオーガニックなサウンドに立ち返っているんだ。それは新型コロナウイルスの感染拡大やそれによって様々な事態が引き起こされて以来、私がずっと求めていたものなんだよね。だから、この曲は大好きだし、特別なんだ。
これは、アンドリュー・ワットと、アリ・タンポジ、ルイ・ベル、ライアン・テダーと一緒に、皆で一つの部屋に集まって書いた。まるで闘いのようだったな。メロディ同士のせめぎ合いだ。
このアルバムについて一つ言えるのは、私がシーアを聴いて育ち、メロディ・トップライナーに憧れながら成長してきたってことで、私自身メロディ・ライターとして、その分野で自分の旗を掲げたいと強く思っている。ライアンやアリをはじめとする、こういった人々と同じ部屋にいられるということだけで、私にとっては本当に光栄だった。ポップ・ミュージック界の最高峰に位置するトップライナー勢だからね。彼らと一緒にいられたことも、それが「Kids Again」という曲として結実したことも、心から嬉しいよ。
この曲には、魂と真実と誠実さが詰まっている。大好きな曲だよ。皆さんも気に入ってくれたら嬉しいな。解説を楽しんでもらえたら嬉しいです。きちんと説明できていたらいいんだけど。もっと喋ってもいいくらいだよ。ではいつか、皆さんと直接会ってお話できる日を楽しみにしています。
サム・スミス『Love Goes』
2020年10月30日発売
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サム・スミス『Love Goes: Live At Abbey Road Studios』
2021年3月19日発売
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