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実の弟でマネージャーが語るロリー・ギャラガー。ブルースからパンク、自由なライヴの在り方まで

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Rory Gallagher live at London’s Hammersmith Odeon, 1977. Photo courtesy of the Rory Gallagher Estate

猛烈な激しさでエレキ・ギターを弾いているときのロリー・ギャラガー(Rory Gallagher)は、もはや常人の手には負えない存在だった。彼はあらゆるものからの影響を取り入れ、ほかにはない独自のギター・サウンドを作り上げていた。特に、生涯に亘って薄れることのなかったブルースへの愛は、2019年にリリースされた『Blues』という直接的なタイトルの編集盤にもよく表れている。だが、『Blues』に収められた驚異的なライヴ・パフォーマンスの数々が示す通り、彼は実に意外なところからも影響を受けていた。

1970年代後半に、それぞれシェフィールドとニューカッスルで実況録音された『Blues』収録のライヴ音源で、激しい演奏が繰り広げられる「Messin’ With The Kid」や「Tore Down」などのトラックは、エネルギーや刺激に満ち溢れている。これを聴けば、一流のロック・ミュージシャンにはめずらしく、ロリー・ギャラガーがパンクスたちにも好まれていた理由がよく分かるだろう。この世を去ったことがいまなお惜しまれるロリーのマネージャーを長年務めてきた弟のドーナル・ギャラガーが、そのあたりについてuDiscover Musicに語ってくれた。

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Heaven's Gate (Live At The Town & Country Club, London, UK / 1990)

ロリー・ギャラガーとパンク

「確かに彼はパンクから刺激を受けていました。少なくとも精神的な面ではね。当時ロリーは、サンフランシスコで行っていたエリオット・メイザー(ザ・バンドやニール・ヤングらとの仕事で知られるプロデューサー)とのアルバム作りに苦戦していたんです(このときの音源は、彼の死後に発表された『Notes From San Francisco』に纏められている)。その期間中の1978年1月に、彼はウィンターランドでセックス・ピストルズのライヴを観ています。彼らのライヴはロリーにとって印象深かったみたいですね」

「彼は、“いままで観た中で最高のライヴだったのか、最悪のライヴだったのか分からない”と言っていました(笑)。彼の話では、アメリカの観客は敵意むき出しで、(ピストルズの面々は)演奏すらままならなかったらしい。だけどそれと同時に、その混乱ぶりや空気感が彼に強い印象を与えたんです」

「ロリーはパンク・ファッションにはまるで興味を示さなかったけど、彼の中にはエディ・コクランのような1950年代風の精神がずっと息づいていました。つまり、“上手いか下手かは気にせず、とにかく音楽を作り出せ”っていうガレージ・ロック的な考え方です。実際、彼はそれより前に“Brute Force And Ignorance”(『Photo-Finish』収録)という曲を書いています。この曲には、3ピース・バンドで色んな町に繰り出して、大混乱を巻き起こしたいというロリーの考えが表れているんです。ロリーはそういう自由さも大切にしていたから、考え方の面で、パンクは彼にとって理にかなっていたんでしょうね」

ロリー・ギャラガーとパンクについて、強い影響力を誇るロンドンのパンク・バンド、ラッツDCのギタリストであるリー・へガーティはこう語る。

「パンクが“大袈裟で気取った現代のロックへの反抗”なのだとしたら、ロリーは誰よりもパンクだった。彼ほど地に足のついたミュージシャンはほかに思い浮かばない。彼はいまでも、俺が見てきた中で最高のギタリストだ」

Brute Force And Ignorance

 

スパイ小説や探偵小説からの影響

『Blues』には、これまで未発表となっていた「Secret Agent」のアコースティック・テイクも収められている。そして、ジョン・リー・フッカーの作品を思わせるこの1曲には、1950年代のとあるアメリカ文化へのロリー・ギャラガーの愛が込められていた。シンガー/ギタリストであるロリーがスパイ小説や探偵小説の愛好家だったことはよく語られている通りだ。

Rory Gallagher – Secret Agent – Live At Montreux Jazz Festival 1977

その「Secret Agent」や『Top Priority』収録の「Philby」がそうであるように、彼のキャリアにおける重要曲がそうした小説をヒントに書かれることも少なくなかった。ドーナル・ギャラガーはこう語る。

「あとは、(アルバム『Defender』のハイライトに挙げられる)“Continental Op”も忘れちゃいけないですね。あの曲はダシール・ハメットの同名の小説を題材にしているです」

Rory Gallagher – Continental Op (Live At The Cork Opera House, Ireland / 1987)

「確かに、彼はスパイ小説や探偵小説の大ファンでした。ロリーは元来、本を読んで、それを自分の中に吸収するのが得意だったんです。それに彼は、あらゆる面で映画 ―― 特にB級映画や、ハンフリー・ボガートの出演作 ―― も大好きでした。フランス映画やポーランド映画などについてもよく知っていて、いろいろなことを話してくれましたね」

「それらはすべて、少年時代に彼が親しみ、夢中になっていた1950年代のアメリカ文化の一部でした。映画と文学は、どちらもロリーにとって本当に大切なものでした。だけどそのせいで、ツアー中に俺が大変な思いをしたこともありましたね。彼はグローブ・トロッターのスーツケースをいくつも持っていて、空港で荷下ろしをするときは特に用心しなきゃならなかったんです。彼の荷物を持ち上げてギックリ腰になったことが何度かあるんです。つまり、その中はいつも本でいっぱいだったんですよ!」

 

大物司会者ジョン・ピールとのエピソード

実の弟ドーナルのこの言葉からも想像できる通り、ロリー・ギャラガーはキャリアの大半をツアー生活に費やしていた。そして、シングルを作ることを好まなかったロリーにとっては、ラジオへの出演が一般大衆との最大の接点になることが多かった。

2018年には、ロリー・ギャラガーがBBCに残した録音を纏めた素晴らしい編集盤『BBC Sessions』がリイシューされた。そして、2019年にリリースされた『Blues』にも、アイルランド放送協会RTÉの番組「Dave Fanning Show」で披露されたライヴ音源や、オハイオ州クリーヴランドのWNCRで1972年に放送された名演など、さまざまな番組向けに録音された選り抜きのトラックが収録されている。

Rory Gallagher – 'Secret Agent' Me And My Music RTE 1977

ドーナルによれば、ロリーはそうしたメディア露出の機会をいつも有り難く感じていたし、ラジオ向けのライヴ録音で彼が本領を発揮することも少なくなかったという。ドーナルはこう話す。

「初期のころの話になりますが、テイストとしてUKにやってきたとき、一般大衆に知ってもらうにはジョン・ピールに紹介してもらうしかないと俺たちは思っていたんです」

「実際、テイストがヘンドリックスの前座としてウォバーン・アビーを訪れた1968年当時、彼は“司会者といえばジョン・ピール”というほどの存在だったんです。それから時が経ったある日、俺たちはスクラッチウッド・サービシズ(高速道路のサービス・エリア)で紅茶を一杯買うべきか、ガソリン代のためにそのお金を取っておくべきか頭を悩ませていました。結局、寒くて凍えそうだったので紅茶を買うことにしたんですが、なんとその店で俺たちの前にジョン・ピールが並んでいたんです。彼はロリーに自分から自己紹介をして、飲み物を奢るとまで言ってくれたんです。そうして、俺たちはロンドンまで戻るお金を残しておくことができました。それから少しして、初めてのジョン・ピール・セッションのオファーがあったんです。ジョンはロリーの音楽を心から支持してくれるようになってくれました」

「それに、BBCセッションズの自由さもロリーにとっては魅力的だったんだと思います。たった2時間ほどの仕事なのに、ロリーは何人かのエンジニアとすごく仲良くなっていました。フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドをプロデュースして有名になったトレヴァー・ホーンも、もともとはエンジニアとしてBBCで働いていて、ロリーと意気投合していました。スタジオに戻って録音をやり直すようなことをほかのエンジニアは許してくれなかったけど、トレヴァーはそのときからスタジオという場所の可能性を理解していたんだと思います。彼自身の責任で、少しだけ例外を認めてくれたんです」

 

ロリーはライヴ感を重要視していた

ロリー・ギャラガーがキャリアを通して大切にしてきたアナログ盤のアプローチが近年、再び脚光を浴びている。デジタル時代の到来を物ともせず、アナログ・レコードの人気が再燃しているのだ。ロリーがまだ生きていたとしたら、ブルースのような素朴な音楽でさえもストリーミングやダウンロードで聴くことができるこの世の中をどう思うだろうか? ドーナルは言葉を選びながらこのように話してくれた。

「俺にはどう答えればいいか分からない。ロリーはCDというフォーマットでさえ、味気ないと言って好まなかったんです」

「彼は昔ながらのアナログ式の(ミキシング・)コンソールが大好きでした。だからオリンピックや、クイーンズウェイにあったレダンを含め、彼のレコーディングを最後に閉業したロンドンの古いスタジオはたくさんある。その点が、彼の多くのアルバムの共通点の一つにもなっているんです。例えば『Deuce』のレコーディングでは、ジョー・ミークが造ったタンジェリンという古いスタジオを使っています。そこはダルストンにあるビンゴ・ホールの隣に作られた16トラックの古いスタジオで、そのときすでに使う人がほとんどいなくなっていたんです。それに70年代前半には、あの辺りに行くだけで命がけだったんです」

「だけどロリーはいつだって、できる限りライヴ感を(アルバムで)表現しようとしていました。だからコンピューターが導入される以前の、真空管を使ったコンソールが残っている数少ないレコーディング・スタジオを好んで利用していたんです」

「彼はアナログ・レコードや、アナログ式の作品作りの価値を理解していました。そしてご存知の通り、最近ではその価値を認める人がまた増えている。ロリーは自然であることを好んでいたし、それが彼にとって何より重要でした。ちょっとしたノイズやフィードバックが入ってしまっていても、それは彼にとって楽曲に彩りが加わったようなものだったんです」

このインタビューは2019年に行われたもので、今回はロリー・ギャラガーの誕生日を記念して再掲載した。

Written By Tim Peacock



1990年の未発表ライヴ音源
ロリー・ギャラガー『All Around Man – Live In London』
2023年7月7日発売
国内盤CD / LP


ロリー・ギャラガー『Deuce (50th Anniversary Edition)』
2022年9月30日発売
CD&LP

ロリー・ギャラガー『Blues』
2019年5月31日発売
CD




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