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ザ・ローリング・ストーンがフランス移住の前に行ったツアー
ザ・ローリング・ストーンズのアルバム『Sticky Fingers』は難産だった。制作が始まったのは1969年12月初旬、アラバマ州のマッスル・ショールズ・サウンドでのこと。1970年に入ってからはロンドンのスタジオやミックの自宅で延々とレコーディング・セッションを続け、1971年初頭にミキシングを完了。そうしてようやく発売にまでこぎつけている。
ストーンズは今も昔も変わったバンドだった。コンサート・ツアーといえば、たいていはアルバムの発売後に宣伝目的で行うもの。しかしこの『Sticky Fingers』のとき、ストーンズはアルバム発売1カ月前の1971年3月にイギリス・ツアーを行っている。これは必ずしも本人たちが望んだツアーではなく、むしろこれは「税金対策」のツアーだった。税制上の新年度が4月第1週から始まるため、その前にイギリスを離れてフランスに移住する必要があったのだ。
こうしてストーンズは、1971年3月4日、ニューカッスル市公会堂でツアー初日を迎えた。イギリス・ツアーを行うのは1966年秋以来。そのあいだのストーンズは、1969年7月に有名なハイド・パーク・コンサートを行ったのを除けば、1968年に‘NME’誌のポール・ウィナーズ・コンサートにしか出演していない(しかも、そのとき演奏した曲は2曲のみ)。それゆえ、ライヴを待ち望んでいたファンのあいだには大変な期待が膨らんでいた。
このときのイギリス・ツアーは9カ所で16回のライヴをこなすという日程になっていた。初日ニューカッスル公演のチケットを買うために、ファンは徹夜で列を作った。中には16時間も並んでいた者もいたという。3月にイングランド北部の屋外で長時間を過ごすのはさぞかし苦痛だったはずだ。ストーンズのニューカッスルまでの移動手段は鉄道だった。ロンドンから北へと向かう3時間半の旅。しかし全員が鉄路で来たわけではない。キースは列車に乗り遅れたため、友人のグラム・パーソンズ(フライング・ブリトー・ブラザーズのメンバー)が運転する車でニューカッスルまでやって来た。着いたのは、あとほんの数分でライヴが始まる頃合いだった。
この初日のステージでは、「Dead Flowers」、「Bitch」、「Can’t You Hear Me Knockin’」、「Wild Horses」、「Brown Sugar」といった『Sticky Fingers』の収録曲が演奏された。しかしそれ以降は、「Can’t You Hear Me Knockin’」と「Wild Horses」がツアーのレパートリーから外されている。このときのストーンズは非常に良い状態だった。加えて、サポート・メンバーとしてホーン・セクションのボビー・キーズとジム・プライスが参加。またニッキー・ホプキンスもステージ上でピアノを弾いている(ニッキーがツアーを通して参加するのはこれが初めてだった)。一方イアン・スチュワートは、マイナー・コードのない曲でブギウギ・ピアノを披露していた。
このツアーを通して、ストーンズは毎晩2ステージをこなしている(ただしブライトンとリーズは1ステージのみ)。チケットの値段は1ポンド、85ペンス、75ペンス、65ペンスという設定になっており、会場によっては50ペンスのチケットも販売された。前座には主にブリティッシュ・ブルース・ロックのバンド、グランドホッグズが出演していたが、ラウンドハウス公演ではノワールというバンドが前座を担当している。
もはや恒例行事だったが、メディアの側はストーンズのライヴ評を嬉々として発表していった。ここではその中でも特に面白いものをいくつか紹介しよう。うちふたつは、1971年当時はとてもこのバンドを取り上げそうになかった高級紙に掲載されたものだ。まず最初は‘フィナンシャル・タイムズ’紙に載ったライヴ評から。「白人の名ポップ・エンタテイナーはこれまでいろいろいたが、ミック・ジャガーはその最後のひとりかもしれない。その涙で潤んだ目は、まるで水族館の水槽にいる魚のように観客を見つめていた。ストーンズのショーマンシップは、このあとイギリスでは語り草となっていくだろう。特に今後このバンドがイギリス・ツアーをやらなくなるのであれば、なおさらだ。ストーンズは社会史の重要なヒトコマである」。
また‘スペクテーター’紙はこんな記事を載せていた。「ストーンズは、今まで同様に気合いと興奮にあふれた演奏をしている。そしてミック・テイラーを除くメンバーは、みなもう30歳に手が届く年齢になった(50歳になったミックの姿などは、奇妙なことにとても想像もつかないが)」。
一方‘レコード・ミラー’紙(こちらはストーンズの記事が載っていたとしても何も不思議はない)は、こう書いている。「ローリング・ストーンズは、やはりイギリスで一番のロックンロール・バンドだということをまたもや証明した」。
それは今でも変わらない……。
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