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ウータン・クランのGZAのソロ作『Liquid Swords』:“最高のヒップホップ・アルバムの一つ”
1990年代にウータン・クランがヒップホップに仕掛けた攻撃はどこまでも高圧的だった。1993年のデビュー・アルバム『Enter The Wu-Tang (36 Chambers)』では、際立つ個性をそれぞれのメンバーを紹介しつつ、同時にプロデューサー兼リーダーであるRZAによるソロ作品のベース作りをした。全体的な印象として、彼らがスーパーヒーロー集団のように登場し、それぞれがユニークなパワーを発揮している。RZAにはプロダクションの抜け目のなさがあり、ソウルのサンプルと格闘技映画からの台詞を交えて独特な雰囲気を作り出している。そしてGZAのまたの名がザ・ジーニアス(天才)であったことも理解できる。今回紹介するGZAのソロ作品『Liquid Swords』がその証拠だ。
1995年11月7日に発売されたウータン・クランのメンバーとしては4作目(その年発表された関連作品は3作あった)のソロ・アルバム『Liquid Swords』は正真正銘の名盤であり、RZAの客観的なプロデュースが功を奏して、グループ史上最もシネマティックな作品に仕上がっている。グループの関連作品において前にも後にも、これほどまでにゾクゾクさせる映画の台詞を掘り出しているものはないだろう。レトロでキッチュな要素を消すためにソウルのサンプルをゆがませたり(「Cold World」の姿なきサビのヴォーカルは頭から離れない)、シンセは更に脅威効果を増強し、特にオープニングのタイトルトラックでは、そこにスタッカートが突き刺さってくる。結果、どこまでも不吉なトラックとなり、GZAのヴォーカルが重ねられた氷の寝床のように聴こえる。
GZAはベストを尽くし、その熟慮された物語の流れはアルバム全体を駆け巡る。彼はそのことを“液体金属のように流れる”と表現している。アルバム・タイトルは「頭を切り落とされても、刀の切れ味があまりにも良くて、頭部がそのまま肩の上に乗っている」ほどに鋭い刀を意味して、映画『Legend Of The Liquid Sword』からつけられた。グループとしてウータン・クランのメンバーたちは最高のポジションを狙うため、格闘家のように闘って自分たちの存在価値を証明するために張り合った。しかしメンバー全員が再び集まって『Liquid Swords』に参加はするものの、明らかにそれはGZAのステージであり、彼のゲットーなリリックには格闘技とチェスというテーマ(アートワークでも使用されている)が散りばめられており、紛れもなくグループのグランドマスターであることを示している。しかも彼は控え目なのだ。「Shadowboxin’」ではメソッド・マンに最初と最後のヴァースを譲っているかもしれないが、GZAはその間も細かく動きながら破壊的に的を得ている。
ある意味、アルバム『Liquid Swords』が他のもの全てを台無しにしてしまった。全米チャートのTOP10入りを果たし、イギリスでも『Enter The Wu-Tang』以来初めてアルバム・チャートに登場した。グループでもソロでもウータン・クランはその後もネタと才能の宝庫ではあったが、翌年に発売されたゴーストフェイス・キラの『Ironman』を筆頭に、その後ウータン・クランの作品発表のペースが落ちたのは、『Liquid Swords』を超える作品を作ることがいかに困難だったのかをそれとなく伝えていたのかも知れない。
GZA自身もソロ・アーティストとして4年間の沈黙を守り、満を持して1999年に発表した『Beneath The Surface』は、アウトキャスト、ティンバランド、そしてネプチューンズといった新世代が牽引する南部が注目を集め、ヒップホップが再び変貌を遂げていく中で、苦労して作り上げた価値のある作品となっている。しかし『Liquid Swords』は今でも不朽の作品であり続け、その偉大さはGZAがアルバムの再現ライヴを行なっている事実に反映されている。それはクラシック・ロックやプログレッシブな作品で得ることのできるような恩恵だ。しかし『Liquid Swords』は新境地を切り開き、“最高のヒップホップ・アルバム”の一つに常に選ばれるだけではなく、ジャンルは関係なく史上最高の音楽作品にも挙げられている。
Written By Jason Draper
『Liquid Swords』