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スティーヴィー・ワンダー『Where I’m Coming From(邦題:青春の軌跡)』
スティーヴィー・ワンダーの70年代の信じられないような数々の画期的アルバムと息を呑むようなクリエイティビティは、1972年の『Talking Book』で始まったと多くの人が思っている。多くのこのモータウンの天才のファンはその数か月前に彼が極めて重要な『Music Of My Mind(邦題:心の詩)』をリリースしたことを知っているであろう。しかし、彼のクリエイティヴな自立は、『Where I’m Coming From(邦題:青春の軌跡)』から始まっており、われわれは、それを成熟したスティーヴィー・ワンダーとして紹介したい。
このアルバムは、既にモータウンから発売された13枚目となるアルバムであり、多くのヒットを生んだ1962年の彼のデビュー作から9年がたっていた。1970年代の夜明けと共に、彼の作品は、今まで以上に単なるヒットメイカー以上の深みを見せるようになる。スティーヴィー・ワンダーは、彼のレーベルメイト、マーヴィン・ゲイがそうしているように、契約の拘束から自由になることを望むだけでなく、必要だと気が付いていた。
またスティーヴィー・ワンダーは21歳になれば、モータウンと彼が未成年の時代にサインした契約によって、自信を縛ることができないことを知っていた。モータウン創業者のベリー・ゴーディは初めはその考えは気に入らなかっただろうが、スティーヴィー・ワンダーは自身の進むべき道を決意しており、モータウンは彼が与えるものをすべて受け入れざるを得なかった。
そして、1971年4月、彼の重要な誕生日の数週間前に『Where I’m Coming From』がリリースされた。それは彼が新たに発見した自由へ向かう果敢なアナウンスであり、過去の制約のもとでは実現不可能な作品あり、その後彼のトレードマークのひとつとなる熱烈な社会的な解釈に満ちていた。
絶えずモータウンの成長を助けてきた中道保守派の感情を損なわないように気にしているゴーディがオープニングの「Look Around」や「Think Of Me As Your Soldier(邦題:あなたの兵士)」や「I Wanna Talk To You(邦題:打ち明けたい)」のような自然な現実主義を容認するとは思えない。しかし、彼らは自らの声をもったマルチ・インストゥルメンタリストの新たなるサウンドを容認したのだ。
当時のスティーヴィーの妻であり、非常に才能あるモータウンのスター、シリータ・ライトと共作しつつ、スティーヴィーはまた、易々と勝利のメロディを作りあげていった。キャッチーな「If You Really Love Me(邦題:愛してくれるなら)」はこのアルバムからのシングルとしてリリースされ、R&Bチャートで4位を獲得、POPチャートでは8位、そしてイギリスでは20位を獲得した。アルバムは、想像力に満ちたアレンジメントや楽器法が満ちており、ゴージャスなバラード「Never Dreamed You’d Leave In Summer(邦題:夏に消えた恋)」や、魅力的な「Something Out Of The Blue(邦題:悲しみの中から)」も収録されていた。
このアルバムに対する反響は、モータウンでもより広い世界でも必然的に慎重なものとなった。『Where I’m Coming From』はR&Bチャートで10位に入るが、POPチャートでは62位にとどまり、世界的な前進は失敗に終わった。しかし、今から思えば、これがスティーヴィー・ワンダーに世界征服を許す気運の始まりであった。