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ウィリー・ネルソンの掛け値なしの傑作『Healing Hands Of Time』
ウィリー・ネルソンは、多くのアーティストよりもずっと長いキャリアを保ち続けてきた。テキサス州アボットで1933年に生まれた彼は、1956年に最初のシングルを発売してから、60枚以上のアルバムをリリースしている。途中ミュージシャンとしてのキャリアに進歩を感じなかったウィリー・ネルソンは音楽業界を離れ、聖書や掃除機の訪問販売をしていた時期もあったにも関わらずだ。
1960年になるとウィリー・ネルソンは音楽業界に復帰。あのレイ・プライスがウィリー・ネルソンの「Night Life」をレコーディングし、ウィリー・ネルソンはベース奏者としてレイ・プライスのツアー・バンドに加わった。レイ・プライスとチェロキー・カウボーイズとの演奏を続ける中で、彼が書いた他の曲も違うアーティストたちのヒットとなった。ビリー・ウォーカーによる「Funny How Time Slips Away」、ロイ・オービソンによる「Pretty Paper」、そして最も有名なパッツィー・クラインによる「Crazy」。
ウィリー・ネルソンは1961年にリバティ・レコードと契約を結び、数え切れない程のカントリー・ナンバー・ワン・ソングと傑作アルバムを発売した。その一例をあげるとすると1975年の『Red Headed Stranger』から3度連続してアルバムはカントリー・チャート1位を獲得している。翌年にはカントリー・チャート4枚目の1位となる『Stardust』がリリースされた。80年代と90年代初期にも更なるヒット・アルバムを発売し、1994年にはキャピトル・レコードと契約。今回紹介する作品は、このキャピトルとの契約からの最初の作品。掛け値なしの傑作だ。
最も心を打つトラック「Funny How Time Slips Away」が最初に収録されている。この曲は初期の頃の楽曲で、デヴィッド・キャンベルの美しいアレンジとオーケストレーションで新しい命が吹き込まれている。彼が作り出す音の感情は非常にパワフルで、インストルメンタルの前奏が1分続いてもそれが許されてしまう。ウィリー・ネルソンがやっと“こんにちは、久しぶりだね”と歌い始める頃にはきっと心を奪われるだろう。
そして次に収録されている「Crazy」はパッツィー・クラインがカバーした曲と同様に決定的な名作である。シンガー・ソングライターたちは自分で書いた曲に特別な何かを注ぎ込むことができ、ウィリー・ネルソンは正にこの曲でそれを証明している。自身によるわずかなアレンジを通して更に特別な曲となっているのだ。これほど素晴らしい自身の楽曲の再録音の音源はなかなかあるものではないだろう。
ウィリー・ネルソンの声は苦労の多い人生が作り出したものであるが、もしかしたら夜遊びの影響も受けているのかも知れない。「Night Life」を聴けば分かるだろう。ここで聞けるエルヴィス・プレスリー、ダスティ・スプリングフィールド、ジョニー・キャッシュ、ジェリー・リー・ルイス、そしてマール・ハガードなどとギターを演奏してきたレジー・ヤングのソロは完璧だ。
アルバムの中で最もずば抜けた曲であるタイトル・トラック「Healing Hands Of Time」はウィリー・ネルソンが作詞作曲しており、他の作品でもそうであるように痛切で魅力的なヴォーカルに合わせてウィリー・ネルソンの素晴らしい歌詞が歌われる。
他の曲も最高だが、もう1曲だけ取り上げたい。初期の頃のスタンダード・アルバムには収録されていないが、その曲は1976年のアルバム『Stardust』へと我々を連れ戻してくる。その曲とはジェローム・カーンとオスカー・ハマースタイン2世作曲の「All The Things You Are」で、1939年の無名ミュージカルの曲であるが、1940年代にフランク・シナトラとジョー・スタッフォードなどがカヴァー、50年代と60年代にはエラ・フィッツジェラルドやバーブラ・ストライサンドを含む数多くのジャズ・アーティストたちがカヴァーをしている。それでも私たちはウィリー・ネルソンのヴァージョンが断トツで一番だと自信を持って言える。単純に素晴らしいのだ。
だからぜひ明かりを暗くして、今夜愛する相手と一緒にこの完璧なアルバムを聴いてもらいたい。人生は最高だと思える瞬間になるだろう。
Written By Richard Havers
ウィリー・ネルソン『Healing Hands Of Time』