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エラ・フィッツジェラルド『Ella Fitzgerald Sings the Cole Porter Songbook』
エラ・フィッツジェラルドの初のヴァーヴ・レコードとのセッションから2週間後、1956年2月7日にエラはバディ・ブレグマンとオーケストラと共に再びスタジオを訪れ、彼女のキャリアを決定づけると言っても良い作品のレコーディングを行い、1950年代にヴァーヴ・レコードを真髄のジャズ・レーベルにする手助けをした。
エラ・フィッツジェラルド、ノーマン・グランツ、そしてバディ・ブレグマンはハリウッドにあるキャピトル・レコードのスタジオで3日間レコーディングをし、後に『Ella Fitzgerald Sings The Cole Porter Songbook』となる作品を制作した。エラ・フィッツジェラルドとコール・ポーターのコンビネーションは非常に魅力的で、アップテンポだろうがスローテンポだろうがエラ・フィッツジェラルドの3オクターブのヴォーカルはやすやすと上昇し、すべての曲に命が吹き込まれている。ロサンゼルスのセッション・プレイヤーたちと、24年のキャリアを遥かに超える洗練されたバディ・ブレグマンのアレンジの手助けもあり、それは完璧なアルバムとなった。
「ボップスだけが音楽じゃないってわかったの。ノーマンは私に色々試すべきだと言ってくれ、私のために『Cole Porter Songbook』をプロデュースしてくれた。それは私の人生の転機となったわ」―エラ・フィッツジェラルド
ノーマン・グランツは最初ネルソン・リドルにエラ・フィッツジェラルドのアレンジを頼もうと思ったが、断られてしまった。恐らく当時はフランク・シナトラのレコーディングに全力を注いでいたからだろう。バディ・ブレグマンに賭けてみたノーマン・グランツは、バンドのアレンジは気にしていなかったと後に伝記作家のテッド・ハーショーンに明かしている。エラ・フィッツジェラルドの声がすべてだったのだ。
「エラをレコーディングする時は、いつも彼女を前面に置いて、演奏に溶け込ませようとはしなかった。なぜなら、率直に言うと僕にとって音楽はどうでもよかったんだ」―ノーマン・グランツ
そのような考えはバディ・ブレグマンのアレンジに対して失礼でもある。アレンジはコール・ポーターの素晴らしい楽曲に完璧な伴奏を提供し、そのメロディを際立たせている。ウェスト・コースト・セッション・ミュージシャンからの粒選りであり、そして当時フランク・シナトラの素晴らしいレコーディングにも参加したメンバーとして、トランペット奏者ハリー・“スウィーツ”・エディソン、トロンボーン奏者ミルト・バーンハート、クラリネットとサックスの両方を演奏したハーブ・ゲラー、テッド・ナッシュとバド・シャンク、そしてトランペット奏者メイナード・ファーガソンがいた。エラ・フィッツジェラルドと「I’ve Got You Under My Skin」をレコーディングする2週間前にハリー・エディソンとミルト・バーンハートはフランク・シナトラと一緒にネルソン・リドルのアレンジをレコーディングしており、トロンボーン奏者の素晴らしいソロが含まれた。
32曲が収められた『Ella Fitzgerald Sings The Cole Porter Songbook』は1956年5月15日に2枚組みアルバムとして9.96ドルで発売された。ヴァーヴ・レコードがエスクワイア誌、ニューヨーカー誌、ハイ・フィデリティ誌、そして全米の日曜日に発刊される新聞紙を通じて広範囲に及ぶ広告を行ったことで、7月になる頃にはBillboardベストセラーで15位にランクインした。9月にエラ・フィッツジェラルドはアメリカで行われた秋のジャズ ・アット・ザ・フィルハーモニック・ツアーでトップを飾った。年の終わりに『Ella Fitzgerald Sings The Cole Porter Songbook』はサウンドトラック作品が支配していたその年のベストセラー・チャートに18位にランクインされた。
何らかの理由でまだこのアルバムを聴いていないと言うなら、20世紀の最も素晴らしい作品のひとつを聴いていないことになる。聴いたことがあると言うなら、聴いたことのない人たちがもったいないことをしていると思うはずだ。
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