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ラッシュの「スターマン」を創り上げたデザイナー、ヒュー・サイム独占インタビュー
ヒュー・サイムの名前、そして彼が生み出してきたアートは、彼がアートワークを担当した1975年のラッシュの3枚目のアルバム『Caress Of Steel』以降、プログレッシヴ・ロックの生きる伝説であるラッシュと同義として捉えられてきた。1976年のラッシュの名作『2112』に彼がデザインした「スターマン」のエンブレムが初めて登場して以降、このエンブレムは数え切れないほどの作品に使用されている。ちなみにヒュー・サイム自身の姿も『Permanent Waves』のアートワークで登場している。
2015年、ヒュー・サイムは『Art Of Rush』を出版。このアートブックには、彼がグループのために40年にわたって創り上げてきたアートワークやイラストレーションに加えて未公開の作品も含まれており、本の前書きはドラマーのニール・パートが寄稿している。音楽史の中でも素晴らしいアートワークのコレクションであるこの本のハードカバー版はバンドの公式サイトから購入できる。その年の12月、uDiscoverは幸運にもヒュー・サイムと話す機会があり、”通常から逸脱したバンド”との仕事の思い出を語ってくれた。
Q:最初にラッシュと仕事をするようになったきっかけは?
私はザ・イアン・トーマス・バンドでキーボードやシンガー、アレンジャーをやっていたんだけど、その時のバンドのレーベル、そしてマネジメントのSROアンセムがラッシュと同じだったんだ。ある時、彼らのマネージャーのレイ・ダニエルスの部屋に呼ばれて、ラッシュのカヴァーのデザインを考えてみないかと持ちかけられて。一瞬考えてから引き受けたけど、まさかそれが『Caress Of Steel』に始まって40年も続くことになるなんて思ってもみなかったよ。
Q:これだけ長く仕事の関係を続けてこれた秘訣は?
お互いに同じようなダイナミクスから来ているのが長年続いたきっかけだと思う。普通や常識を逸脱しようとするバンドはまさに私にピッタリのクライアントだよ!しかも彼らとはクライアント以上に友人でもあるよ。
Q:アートワークを制作する際はお任せされますか、それともバンドから何か要望があるのですか?
最初はほとんど自由にやっていたよ。でも、ニールの歌詞がよりテーマ性を帯びるようになってからは、ジャケットのアートワークはそのテーマを表現する役割にもなったから、具体的な要望もあればざっくりとしたアイデアレベルを聞いてから作業をしているね。どんな要望でもいつもエンタテイメントな作業になることが願っているね。
Q:ラッシュのように多作かつ多様なバンドとの仕事で大変なことは?
大変なことより喜びの方が多いね。アート・ディレクターとしては多作で多様でバラエティー豊富なんてこれ以上のことはないよ。スタイルでもテーマでもね。
Q:仕事が一番楽しかったアルバムは?
正直に言うと本当に全部が楽しかった。でも『Power Windows』のカバーを描いたのは特別な経験で、あれは自分の人生の中でも特別な時間だったよ。
Q:ヴィュアル的に表現するのが最も難しいと思ったアルバムは?
『Signals』かな。コンセプトとしては特に制限がなかったものだったから恐れ多かったよ。方向性を決めるのが難しくて、意味や隠喩を込めたものにするか、それとも変わった風に見せておかしくするか。後者を選んだよ。スタジオでパフォーマンスしているメンバーを脳波計につなげて演奏中の脳波や心音の計測表を使って独特なグラフィックとしてジャケットにしようなんていう崇高な計画もあったりしたんだ。でも最終的にバンドは犬と消火栓のコンセプトが気に入っていて、それに比べたら脳波計のアイデアはシリアスすぎるということになったんだ。直感を信じてよかったと思っているよ。
Q:振り返ってみて、違うことをやれば良かったなと思う作品は?
違う風にやってればと思い返すことはないけど、今持っているスキルで作り直せるのであれば…多分『Hemispheres』かな。
Q:「スターマン」のエンブレムはどうやって考えついたんですか?
「スターマン」での星と人との組み合わせっていうのは、多分僕とニールの最初の本当のコラボレーションなんだ。(アルバム『2112』のコンセプトに登場する)太陽系連合のレッド・スターっていうのは自由な考えやクリエイティヴィティと真逆の物を意味していて、そして一人の男が我々のヒーローになるだと簡単に説明されて。単純にその二つを組み合わせたんだ。バンドのブランドやロゴにするつもりは全くなくて、まさかこんなにラッシュと深く結びつくものになるとは思ってなかったよ。
Q:合計で何枚のアルバムに使用されていますか?
もう数はわからなくなってしまったよ。最初に登場したのはもちろん『2112』で、その後はほとんどのベスト盤とかライヴ盤に使用されているかな、『Archives』、『Retrospectives I』、『Retrospectives II』、『Exit…Stage Left』と『Moving Pictures』かな。あと『All The World’s A Stage』はニールのベース・ドラムにも使われているね。
Q:『Permanent Waves』のアートワークはコラージュ・アートの傑作だと思いますが、あれが出来上がったきっかけは?
褒めてくれてありがとう。あれは暗室で昔ながらのフィルムや現像の手法を使いブリーチやリタッチをして作ったんだ。出来には満足しているよ。このジャケットは初めてヴィジュアルで言葉遊びをしたんだ。そのアイデアが浅いとしても洗練されたものになっていればと思ってるよ。アルバムタイトルの『パーマネント・ウェイブ』を髪と波、そしてシカゴ・トリビューン紙の厚かましくて早まった見出し(*1948年11月3日の1面で “大統領選でデュイーがトゥルーマンに勝利”という見出しを打ち出したが、実際はトゥルーマンが大統領選を勝ち抜いた)、そして波の下に立っている愚か者にも象徴させているんだ。
Q:アーティストとして影響を受けた人は?
いっぱいいるけど、フェルメール、ダリ、ジョエル=ピーター・ウィトキンかな。
Q:アルバム・ジャケットを手掛けるアーティストで凄いなと思う人はいますか?
初期のムーディー・ブルースのファンだったので、フィル・トラヴァーズの作品は好きだし、もちろんイエスのカヴァーのロジャー・ディーンの作品も大好きなんだ。それと、ヒプノシスの作品は特にピンク・フロイドのものが好きだよ。
Q:アルバムのアートワークの制作は昔とどのように変わりましたか?テクノロジーの面でも、またLPからCD、デジタルへと時代が移り行く中でサイズ自体も変わっていると思うのですが。
テクノロジーはほとんど変わらないよ、紙にインクを使うだけ。サイズが縮小したことで新たに考えなければならないことがあって、それは挑戦でもあれば機会でもあるね。最初はデザイナーとしては12インチのキャンバスがなくなるのは悲しくて、受け入れたくない変化だったけど。でもレコードの扉が閉まっていくのと引き換えに、CDのブックレットという新しい扉が開いたんだ。あんなにアートを取り入れられるページがあるなんて、それはそれで悪いことではなかった。そして最近のレコードの復活もあって、また全部使えるようになったよね!CDのジャケットについては、デザインをよりシンプルにし、新しい小さいフレームに合わせる必要があったね。70年代の複雑で挑戦的だったレコードのジャケットをCDでリイシューする時にうまく表現できなかったものもあったよ。
Q:どのアーティストでも、どの時代でもいいですが、ご自身でデザインしたかったアルバムは?
ザ・ビートルズの『Sgt Pepper’s Lonely Hearts Club Band』だね。
Q:ファンが知らないラッシュの未発表の音源はたくさんありますか?
そういう意味ではラッシュは特殊なバンドだと思うんだけど、他のアーティストみたいに40曲書いて、アルバムに12曲選ぶというスタイルではなくて、すべてのプロジェクトを一つの作品として音楽にも歌詞にも高い集中力を持って制作していたよ。ただ、僕のジャケットのラフデザインとか違ったアイディアのデザインは別問題だけどね!
Q:R40ツアーはヨーロッパに来ませんでした。ヨーロッパのファンが今後またライヴを見るチャンスはあると思いますか?
それはラッシュに聞いてみて。でも自分の意見を言うなら、クリエイティヴものは、いつか自然とまた創造しなければならない時が来ると思う。そのうちね。時が経てば分かることさ。でもいつかラッシュがまたスタジオ・アルバムの制作に入っても不思議ではないよね。過去のようなツアーまではいかないにしても、もしかしたら有料放送やサイマル放送、ファソム・エンタテインメントがニューヨークのメトロポリタン・オペラでやるような国際的なシアターのイベントとか。マルチ・カメラのショーが全国で5.1で観れるとか…お近くの劇場で!みたいなね。
Q:アーティストとして次の展望は?
いつも色んなプロジェクトで忙しくしているよ、商業的なものも個人的なものも。そして要望がある度に、アルバムの制作も続けていくよ。
Written by Jason Draper
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