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パルプのメンバーたちがリスニング・パーティーで語った名作『Different Class』
新型コロナウイルスの感染拡大による行動制限期間中、シャーラタンズのフロントマンであるティム・バージェスは”ティムズ・ツイッター・リスニング・パーティー”を立ち上げた。これは、音楽ファンたちが好きなアーティスト本人と一緒になって、その名盤について語り合うことのできる場だ。
バージェスは2020年4月、パルプ(Pulp)のドラマーであるニック・バンクスと、同じくキーボーディスト/ギタリストのマーク・ウェバーを招いて、バンドが1995年に発表したブリットポップ界屈指の名作『Different Class』について語り合った。
マーキュリー賞にも輝いたパルプの5thアルバム『Different Class』には、「Disco 2000」「Mis-Shapes」「Sorted For E’s & Wizz」、そしてブリットポップを代表するアンセム「Common People」など象徴的な楽曲の数々が収められている。結果として同作は全英1位を獲得し、4xプラチナにも認定されたのだ。
フロントマンのジャーヴィス・コッカーのほか、キャンディダ・ドイル、ラッセル・シニア、スティーヴ・マッキーは不在だったものの、バンクスとウェバーは当時のプライベート写真やスタジオでのエピソードを交えながら、同作の知られざる裏側を次々に明かしてくれた。このリスニング・パーティーの全編はウェブサイトからいつでも聴き直すことができるが、ここでもその内容をかいつまんで紹介しよう。
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アルバム写真の意味とは?
まず、結婚パーティーの写真にメンバーたちの等身大パネルが紛れ込んだアルバムのジャケットについて、バンクスはこう話した。
「あれは、パルプの歌詞が“観察者の視点から描かれている”と言われることから生まれた。曲の主人公が“閉ざされたドアの向こうで繰り広げられるドラマ”や、些細な日常の出来事を観察しているようだとよく評価されるのさ。つまり僕らは、目の前で起こる日常の出来事を見つめる“白黒の観察者”なんだ」
バンクスはまた、この等身大パネルが「Disco 2000」のビデオの中で再利用されたことも明かしている。
「 (そのおかげで) あのビデオの制作は一番楽だった……僕ら自身が出演する必要さえないんだからね!!」
シングル「Disco 2000」とアン・ダドリー
さらに「Disco 2000」のシングルに関して、バンクスはこう話す。
「あれは、クリフ・リチャードの名曲の数々やA-haの作品を手がけたアラン・ターニーによるリミックス・ヴァージョンなんだ。最高に俗っぽいよね!!まさに僕らの好みの音だ!僕自身は、もっと無骨な感じのあるアルバム・ヴァージョンの方が気に入っているんだけどね」
一方のウェバーは、ロンドンのAIRスタジオで行われたストリングスのレコーディング時に撮られた写真をシェア。その上で「I Spy」「Something Changed」「F.E.E.L.I.N.G.C.A.L.L.E.D.L.O.V.E」の3曲ではアン・ダドリーがオーケストラ・アレンジを手がけたことを明かした。するとバンクスもこの話に嬉しそうに加わって、ダドリーが「たくさんの有名作のサウンドトラックに携わり、エルトンから僕らまで様々な人たちと仕事をしてきた」ことに言及した。
「Mis-Shapes」と「Common People」
そのバンクスは、「Mis-Shapes」に関してこう断言する。
「何というオープニング・ナンバーだろう。これは戦闘開始の号令であり、行動を呼びかけるスローガンであり、バリケードを突破する合図でもある。つまり、僕らの時代が来たことを告げているんだ。いじめられたり、変人と呼ばれたり、殴られたり、ただその場にいるだけでツバを吐かれたり、見た目も性格も周りに馴染めなかったり……これはそんなみんなのための曲だ!!」
彼はさらにこうも付け加えている。
「ビデオの撮影は大概面倒なものだけど、地元のはみ出し者に成りきったこの一本だけは楽しかった」
他方、「Common People」についてウェバーは次のように明かす。
「 (プロデューサーの) クリス・トーマスと最初に制作した楽曲の一つだ。……それまで関わったことのなかった人と仕事をするのはいつだって変な感じだよ。僕らが彼にELOの“Mr. Blue Sky”を聴かせたことで、“Common People”が一気に形になったという噂は本当なんだ。……それと、彼はザ・ビートルズの“ホワイト・アルバム”で多くの収録曲の録音を担当しているし、ピンク・フロイドの『The Dark Side Of The Moon』のミキシングも手がけている。だから、彼は色んな話で僕らを楽しませてくれたよ」
この話にバージェスもこう付け加える。
「 “Common People”を歌えない人の方が珍しいはずだ。あの曲の歌詞はインディー系の音楽が好きな人たちのDNAに刻み込まれている。ディスコのシーンでジャーヴィスが披露するダンスもね」
そしてバンクスも、「Common People」に関してこう話す。
「 (特に) シェフィールドからロンドンにやって来た、よそ者の視点からしか書けない曲だ。そういう状況下で、探し求めていたタイプの人に出会えたと思っても、逆に自分の育った環境やいまの境遇が際立ってしまうことも多い。まるで別の人種のように思えてしまうこともよくあるんだ」
最後に、バージェスは次のようにリスニング・パーティーを締めくくった。
「このアルバムには、リスニング・パーティーの存在意義が凝縮されている。つまり、バンドの意図をきちんと理解するためにはすべての曲を味わわないといけない。“Live Bed Show”や“Pencil Skirt”も、大ヒットしたシングル曲と同じくらい重要だ。演劇で言う”幕”と同じで、不要な部分なんてないんだ」
Written By Sophie Smith
パルプ『Different Class』
1995年10月30日発売
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