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1976年8月のメロディ・メーカーのパンク特集「素晴らしいのか?それともインチキか?」
「彼のダラッとした体からは、安全ピンでつなぎ止められた服が垂れ下がっていた。そのだらしのなさは計算されたものだった。不健康な青白い顔。どの筋肉もピクリともしない。唇は、ハンガーのような筋張った肩の傾斜と同じように斜めになっている。生命感がわずかに感じられるのは彼の目だけだった」。
これは、1976年8月7日にイギリスの音楽週刊誌メロディ・メーカーに掲載されたセックス・ピストルズ特集記事の抜粋だ。書いたのはジャーナリストのキャロライン・クーンだった。当時セックス・ピストルズとパンク・ロックは町中の噂になっていた。もっと正確に言えば‘ロンドンで’噂になっていたわけだが、その噂はまもなくイギリス全土に広がっていった。1976年8月7日付けのメロディ・メイカー誌に載ったこの特集記事は、パンクに関する賛否両論を読者に投げかけていた。セックス・ピストルズがデビュー・シングル「Anarchy In The UK」を発表するのは、まだ3カ月以上先のことだった。
当時ザ・クラッシュのようなバンドは、ようやくライヴ活動を始めようかというところで、ザ・ストラングラーズは既にライヴを活発に行っていた。ザ・ジャムはメンバーがやっとそろい、インディー・レーベルのスティッフ・レーベルはまさにこの8月に設立第1弾のシングルを出そうとしていた。初のパンク・ロック・シングルだと多くの人が考えているダムドの「New Rose」は、このわずか2カ月あとに発表されている。
1975年後半に結成されたセックス・ピストルズは、メロディ・メーカーの特集以前にも全国展開するメディアで取り上げられたことがあった。たとえば雑誌サウンズでは1976年4月号で特集記事が組まれ、同年6月号では有名な100クラブに出演したときのライヴ評が掲載されている。しかし読者の数や影響力といった点では、当時メロディ・メイカー誌は群を抜いていた。同誌に取り上げられたこともあり、ジョニー・ロットンと他のメンバーはさらに悪名を馳せることになった。
ピストルズが特集された号のメロディ・メーカーの表紙では、エリック・クラプトンやジョン・レノンに関する記事の下に、「パンク・ロック: 素晴らしいのか?それともインチキか?」という見出しが出ていた。キャロライン・クーンの記事は、パンク・ロックの特徴をまだ把握していない読者のために、この新しいシーンについて‘シンプルで未熟’と解説している。この時点で、パンク・ムーヴメントはかなり勢いを増してきていた。
「セックス・ピストルズが初めてライヴをやったのは1月のこと。それ以来、このバンドと同じようなタイプのミュージシャンの数が、ゆっくりではあるけれど着実に増えてきている。たとえばザ・クラッシュ、ザ・ジャム、バズコックス、ダムド、サバーバン・スタッズ、スローター&ザ・ドッグズなど。こうしたバンドが演奏する曲は大音量で騒々しく、上品さや趣味の良さなどはまるで追い求めていない。クラッシュのミック・ジョーンズが語るように、パンクは‘とてつもなく元気’なのだ」。
この記事が載ったメロディ・メーカー誌が発売されたころ、セックス・ピストルズは再び100クラブでライヴを行っている(前座についたのはザ・ヴァイブレイターズ)。それと同じ時期には、ファビュラス・プードルズがナッシュヴィル・ルームズで演奏していた。セックス・ピストルズのライヴは矢継ぎ早に続き、8月19日にはノーフォーク州クローマーの近くにあるウェスト・ラントン・パヴィリオンという意外な会場にも出演している。ここはやがてパンク・バンドが度々出演する場所となり、セックス・ピストルズに続いてダムド、ザ・クラッシュなどたくさんのバンドがステージに上がっていった。
1976年の時点では、セックス・ピストルズはノーフォーク州の住人を驚かせていたにすぎない。しかしメロディ・メーカー誌の特集記事から4カ月も経たないころ、ビル・グランディが司会を務める番組『Today Show』に出演予定だったクイーンが急遽キャンセル、その代役としてセックス・ピストルズが出演することになる。その結果、イギリス全国民が衝撃を受けることになるのだった。
Written by Paul Sexton
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