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メタリカ『Metallica / ブラック・アルバム』解説:引き算の美学と楽曲の質にこだわった名作

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1980年代を通して、メタリカはメタル界の再編の中心的役割を果たした。しかし、1991年8月12日に発売された彼らの5枚目になるセルフタイトル・アルバム『Metallica』(通称『The Black Album』)によって、彼らはメタル・バンドの定義を根底から変えてしまった。

このアルバムにおいて、サンフランシスコのスラッシャーたちは、ヘヴィ・メタルに付きものだったお決まりの構成やフレーズと自己顕示パフォーマンスを全て捨て去り、代わりに徹底して楽曲そのものの質にこだわり、音楽に語らせることに徹したのだ。

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「無駄をなくしてシンプルにしたくなった」

彼らは前作、1988年にリリースされたアルバム『…And Justice for All』で可能な限りの野心的で複雑なスラッシュを作り上げた。リード・ギターのカーク・ハメットは、ローリング・ストーン誌の1991年のインタビューで、以下のように語っている。

「世間から曲が長いと思われた。大勢の人間が退屈そうな顔を見ながら、『クソッ、楽しめているのは俺達だけかよ』なんて思っていました」

またドラマー、ラーズ・ウルリッヒも2007年のUncutのインタビューでこんな風に述べている。

「10分も長さがあって12回もテンポ・チェンジがあるメタリカはもうやめようって話になったんです。無駄をなくしてシンプルにしたくなった」

スラッシュ・メタルのガラス製の天井に届いてしまった彼らは、それを叩き割ろうとしていたわけだ。

しかし、そうしたドラスティックな変身を成功させようという彼らには、パワフルなパンチの効いた強力なサウンドが必要だった。そのためには適切なプロデューサーが必要だと感じた彼らはボブ・ロックに制作を依頼した。築き上げた名声を危うくするリスクを負っても、自分たちの音楽的ゴールを目指すために必要だと判断し、メンバーは彼をレコーディングに招いたのだった。

ボブ・ロックはボン・ジョヴィやザ・カルトらとの仕事で名を馳せていた人物で、メタリカの面々は彼がモトリー・クルーの『Dr Feelgood』で作っていたサウンドが気に入ったのだった。しかし、この事実一つをとって、メタリカを侮るのは大きな間違いである。

 

スローなリフとヘヴィネス

アルバム『Metallica』のオープニング・トラックで、先行シングルにも起用された「Enter Sandman」は悪夢を扱った作品だ。サンドマンとはヨーロッパのお伽噺に登場する、子供達に安眠をもたらすキャラクターなのだが、メタリカは夜の訪問者として扱っていて中々に怖い。『The Black Album』のレコーディング・セッションで最初に書かれた楽曲で、ベーシックなリフを軸にして作られており、メタリカがこの5枚目のアルバムのコンセプトにした引き算の美学的アプローチの基準になった。

Metallica: Enter Sandman (Official Music Video)

だが彼らはすぐに2曲目の「Sad But True」でのスローで魅力的なリフで、彼らのヘヴィネスがいささかも失われていないことを証明してみせる。獰猛な鋭さも同じく強力なもので、それは熱気溢れる「Holier Than Thou」や苛烈な「Don’t Tread On Me」で濃厚だ。

一方、「Wherever I May Roam」はバンドの作曲能力がいかに成長したかを教えてくれるし、以前の彼らの作品を連想させる複雑さを持つ「Through The Never」は、それでも曲が終わるまでの約4分間でしっかりとケリをつけてくれる。

Metallica: Sad But True (Official Music Video)

メタリカはソング・ライティングのダイナミクスを早い時期から身につけており、アルバムのヘヴィなパートをひときわ際立たせるために軽い作品を配置するといったことをしてきた。『The Black Album』では、当時グループの最大のヒットであった前作アルバム収録曲「One」の絶望感を想起させる「The Unforgiven」がある種クッションの役目を果たしている。「Nothing Else Matters」はバラード曲でありながらメタリカの力強さを保持していて、安っぽいわざとらしさに陥ることがない。

Metallica: Nothing Else Matters (Official Music Video)

そしてビートを激しく刻み続ける「Of Wolf And Man」や圧倒的な重量感の「The God That Failed」が再び流れを引き戻し、悲壮感を湛えた「The Struggle Within」へと続いていき、ラストの「My Friend Of Misery」で、『The Black Album』こと『Metallica』はエンディングを迎える。

My Friend of Misery (Remastered)

ボブ・ロックは、ドラムにギターを後ろで支える役目をさせるのではなく、各曲を前へドライブさせるべきだとメタリカにアドバイスした。そして、この手法を取り入れることで、バンドは一気に別次元の世界を手に入れたのだった。

『The Black Album』は、リリースから1週間で60万セットを売上げ、10ケ国のヒット・チャートで首位を獲得。アメリカのアルバム・チャートでは4週に亘って首位を維持し、およそ500週に亘って同チャート圏内に留まるロング・セラーを記録している。『The Black Album』の現時点での全世界総売上枚数は、既に3,100万枚に及んでおり、アメリカだけでも計16回に亘ってプラチナ・アルバムの認定を受けている。

1991年8月12日に、シンプルをきわめた漆黒のジャケット(そこにはアルバム・タイトルも見当たらなかった)でリリースされた『The Black Album』で、メタリカは”世界最強のヘヴィ・メタル・バンド”としての実力をあらためて印象付け、ついには史上最高のバンドの一つと見なされるまでになったのである。

Written By Caren Gibson



メタリカ『Metallica』
CD / iTunes / Apple Music / Spotify




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