Stories
『Meet The Beatles!』と出会ったアメリカの反応
たとえビートルズが60年代中盤に大西洋の両側を制していたとしても、ザ・ビートルズのイギリスとアメリカのファン層は、それぞれバンドへの足の踏み入れ方が非常に異なっていた。イギリスでは『Please Please Me』がグループの一枚目のアルバムとして、1963年3月22日にリリース。そしてその8ヶ月後の11月22日にセカンド・アルバム『With The Beatles』がリリースされた。しかしザ・ビートルズのアメリカのレーベルだったキャピトル・レコードはグループの偉大さに気付くのが遅く、ザ・ビートルズのアメリカでの最初のアルバム『Introducing… The Beatles』はキャピトルではなくインディーのヴィージェイ・レコードからリリース、発売日は1964年1月10日だった。それからたった10日後、キャピトル・レコードは『Introducing… The Beatles』と同じように、アメリカのマーケットに合わせて既にイギリスで発売されているアルバムの曲を中心に、キャピトルからのデビュー・アルバム『Meet The Beatles!』をリリースした。
アルバムのカヴァー・アートからトラックリストまで、『Meet The Beatles! 』はイギリスでのセカンド・アルバム『With The Beatles』と同類である。グループのメンバーがモップ頭なヘアスタイルで、白黒で縁取られた象徴的なロバート・ロックウッドの表紙写真があるのだが、『Meet The Beatles!』では同じイメージを青い色調にしている。そして同様にわずかだが、顕著な修正が『With The Beatles』のトラックリストには施されていた。
『Meet The Beatles!』の1曲目は、母国イギリスではアルバムに収録されていないA面の曲「I Want To Hold Your Hand(邦題: 抱きしめたい)」から始まる。アメリカと違い母国イギリスではバンドは自分達のアルバムに最新のシングル曲を収録したがらなかったため、イギリスでは「I Want To Hold Your Hand」はアルバムに収録されずシングル盤としてリリースされている。この曲はジョン・レノンとポール・マッカートニーによるポップなフックを持つ典型的な曲で英米でチャートのトップに上り詰めた。『Meet The Beatles!』の3曲目として収録されたバラード「This Boy(邦題: こいつ)」もまたイギリスの『With The Beatles』には収録されたなかったものだ。イギリスのデビュー・アルバム『Please Please Me』のアルバム一曲目として収録されながら、『Meet The Beatles!』では2曲目として収録されているのは「I Saw Her Standing There」。この曲は、このグループは誰よりも正真正銘のロックン・ロールが演奏できる、そしてロックン・ロールを発明した国に持ち帰るんだとアメリカのファンに向けたものだと言わんばかりに、ポール・マッカートニーがヴォーカルを解き放つと同時にマージー・ビートから立ち上がるエネルギーに溢れた一曲だ。
活動初期の頃でさえ、ザ・ビートルズは既に幅広いスキルがあり、彼らはアメリカのソウル・ミュージックも同様にプレイすることが出来た。バンドはイギリスのセカンド・アルバム『With The Beatles』では、マーヴェレッツの「Please Mr. Postman」やバレット・ストロングの「Money (That’s What I Want)」など、彼らに影響を与えたモータウンのヒット曲に敬意を表していたにもかかわらず、アメリカの『Meet The Beatles!』ではそのどの曲も登場せず、カヴァー曲でアルバムに収録されたのは1曲のみだった。その曲とは、ザ・ビートルズの幅広いスタイルをさらに明らかにし、1962年にミュージカルが映画化されたおかげで人々の関心を再び集め始めている1957年のステージ・ミュージカル『ミュージック・マン』のために、メレディス・ウィルソンが書いた「Till There Was You」だ。
当時のアメリカの通例としてアルバムの収録曲は12曲入りだったこともあり、『With The Beatles』に収録されたオリジナル曲をアメリカの観客に届けるために、14曲入りの『With The Beatles』に収録されていたカバー曲2曲を取り下げたのだ。
『With The Beatles』の曲順に似せながら、残りのオリジナル曲はグループ初期のポップな華麗さを表している。「It Won’t Be Long」や「All I’ve Got To Do」は、「All My Loving」のロマンチックな兆しと共に、楽観的ながらも感情的な旅にリスナーを連れ出してくれるジョン・レノンとポール・マッカートニーのラヴ・ソング幕開けでもあった。
ザ・ビートルズのアルバムに初めて登場したジョージ・ハリスンの曲「Don’t Bother Me」は、グループがもうひとつのアメリカ音楽の傾向であるカントリーに乗っていることに気付かせた。『Meet The Beatles!』に収録されたカントリー調なこの曲は、歌詞の中で別れた後の失望に折り合いをつけ、ジョージ・ハリスンの感情を表現する道を見出すことになった。B面4曲目の「Hold Me Tight」でポール・マッカートニーがロックン・ロール・スピリットに入り込む前に、より楽観的なメレディス・ウィルソンのカバー曲「Till There Was You」が続き、そしてリンゴ・スターが彼の内側に秘めたエルヴィス・プレスリーをジョン・レノンとポール・マッカートニーが書いた曲「I Wanna Be Your Man」で表現されている(この曲は既に、彼らの最大のライバル、ザ・ローリング・ストーンズによってシングルとしてリリースされていた)。「I Wanna Be Your Man」を自分自身に取り戻したことを証明し、さらにもう一度、誰にも劣らないアメリカン・ロックン・ロールを彼らは演奏することが出来た。
『Meet The Beatles!』のリリースから3週間もしないうちに、グループは「エド・サリヴァン・ショウ」で3週連続の出演を果たしていた。「I Want To Hold Your Hand」はすでにアメリカのシングル・チャートのトップに達していたが、1964年2月9日の「エド・サリヴァン・ショウ」出演1週目の彼らの初ライヴ出演は、北米中の約7,300万戸の家庭で映し出された。演奏した5曲のうちの4曲は、『Meet The Beatles!』からのものだったこともあり、エド・サリヴァン出演後にアルバムは、アメリカのチャートであっという間にトップとなった。アルバムは2月15日に第1位となり、ザ・ビートルズの2枚目のアルバムで自信の座を奪った4月末まで首位の座を守り続けた。明らかに、多くのアメリカ一般国民たちがザ・ビートルズに会いたがっていたのだ。
その時のアメリカ大衆が知らなかったことは、その頃には彼らの次のフェーズにグループが向かっていたことだ。「Can’t Buy Me Love」は1964年1月29日にレコーディングされ、2月末には「You Can’t Do That」や「And I Love Her」、そして「I Should Have Known Better(邦題: 恋する二人)」などさらに新しい曲もレコーディングされた。ザ・ビートルズの3枚目のアルバム『A Hard Day’s Night』にはすべての曲が収録。とはいえ、紛らわしいのが、アメリカでは「You Can’t Do That」は、『A Hard Day’s Night』のアメリカ版に収録された他の曲と共に、アメリカでのザ・ビートルズのセカンド・アルバム『The Beatles’ Second Album』に収録されていたことである。
もしエド・サリヴァンへの出演が、アメリカ本土のセンセーションへと繋がったのならば、映画『ハード・デイズ・ナイト』は、彼らを映画界のスターへと押し上げた。まだザ・ビートルズを知らなかった若者は確実に、1964年の夏『ハード・デイズ・ナイト』が映画館で公開されたと同時に、ビートルマニアとして世界中に広がっていったのだった。
Written by Jason Draper
- ザ・ビートルズ アーティスト・ページ
- 映画『イエスタデイ』公開を受け、ビートルズの名曲の数々が全米チャートに急浮上
- “ビートルズがいない世界を描く” ダニー・ボイル監督新作『Yesterday』予告編公開
- ビートルズの前身バンド、ザ・クオリーメンが集結&ドキュメンタリー映画が公開
- Abbey Road:ザ・ビートルズと横断歩道、そして8トラック・レコーダー
- 「Love Me Do」が全米1位になるまでの長い道のり
- “The White Album”の制作秘話と9つの楽曲エピソード
- “ホワイト・アルバム” が持つデザインの革新性と使われなかったアートワーク
- ステレオ盤SHM-CD紙ジャケット・シリーズ16タイトルが“W復刻帯”仕様で再発売決定
■ザ・ビートルズ、ステレオ盤SHM-CD紙ジャケット・シリーズ16タイトルが“W復刻帯”仕様で再発売
“ホワイト・アルバム”50周年記念盤
『ホワイト・アルバム』ニュー・エディション
フィジカル全4形態 発売中