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プロデューサーがスターになって生まれたテンプテーションズの傑作こと『Masterpiece』
この作品は“傑作”だったかもしれない。しかし、果たして“誰の傑作”だろうか?
1973年、テンプテーションズは分岐点にいると思っていた(願っていたのかもしれない)。彼らの作品は安定し受け入れるリスナーの幅も広くなっており、レコード・セールスという意味では良い結果を残していた。しかし、彼らがより進むことになる“サイケデリック・ソウル”という新たなジャンルは、必ずしも彼らメンバーにとって心地よいと思う音楽のスタイルではなかった。そんななか、1966年からテンプテーションズのプロデューサーを務めていたノーマン・ホイットフィールドは、彼らをスウィート・ソウルのハーモニーを繰り広げるグループから、プログレッシヴ・ロックの時代にも生き延びることのできるグループへと変貌させたのだ。
1972年に発表したテンプテーションズ2枚のアルバムのうち1枚は『Solid Rock』と題され、モータウンの他のヴォーカル・グループがチャート入りすらしていなかった期間に、彼らのアルバムはR&Bチャートで1位、ポップ・チャートでも24位と力強い記録を達成した。しかし、テンプテーションズのメンバーは、時代に合わせたロックに影響されたファンキーなグルーヴより、昔のスウィート・ソウルのスタイルを好んでいた。
『Solid Rock』というタイトルであったが、テンプテーションズは、彼らと関係性のないロック・バンドと競い合っていたわけではなかった。ノーマン・ホイットフィールドと作詞家のバレット・ストロングが書いた幾つかの曲もカヴァー候補として上がっていたが、次のアルバムのリード曲となる「Papa Was A Rollin’ Stone」はモータウンのロック・バンド、レア・アースの曲だった。そして、テンプテーションズはオリジナルより上位を狙わないといけなかったのだ。もう彼ら自身の手に負えなくなりつつあった。
テンプテーションズが1972年にリリースした2枚目のアルバム『All Directions』に「Papa Was A Rollin’ Stone」の12分に及ぶヴァージョンが収録された。この曲の中では物語が語られ、ディープでファンキーなバッキングと、クライマックスのムードを引き立てるオーケストラがある。そのため、ノーマン・ホイットフィールドが似たような作品を続くニュー・アルバムのタイトル・トラックとして制作を始めようとすると、テンプテーションズは間違いなくこう思ったはずだ「”Papa Was A Rollin’ Stone”が1位になったから、そういうのをもっと作るんだな」って。しかし、結果『Masterpiece』としてリリースされたアルバムは、前作のような作品ではなかった。
『Masterpiece』のジャケットにはテンプテーションズの横顔を象った偽の大理石のレリーフが映し出された。その下には、“Produced by Norman Whitfield”というサインがあり、それは裏面にも起用された。それが意図するのは、テンプテーションズは、プロデューサーが生み出した彫刻の芸術であり、ここではそのプロデューサーの方が重要な人物だということ。ミュージシャンは裏面にクレジットがされていたが、テンプテーションズの個人名はなかった。また、ぼんやりとしたノーマン・ホイットフィールドの顔と、彼の頭からテンプテーションズが湧き出ているイメージも使われている。
ということは、誰のマスターピースなのだろうか?どうやらノーマン・ホイットフィールドのものらしい。
『Masterpiece』は、エレガントな「Hey Girl (I Like Your Style)」で頼もしく始まり、それは1971年のスマッシュ・ヒット「Just My Imagination」のようなモードで、曲にふさわしく恋に夢中なリチャード・ストリートのリード・ヴォーカルがある。そしてタイトル・トラックが続き、およそ14分にも及ぶ。歌詞は当時のテンプテーションズのスタイルらしくゲトーではあったが、1人で作詞作曲を担ったノーマン・ホイットフィールドは、バレット・ストロングのような作詞家ではないので、ストーリー性に欠け、幾つかの場面が繰り返されただけだった。テンプテーションズがヴォーカルの才能を表現したのは3分。それは楽曲のたった21%だ。しかしながら、エディットされたヴァージョンは全米トップ10を達成した。
『Masterpiece』のサイド2はオリジナル曲「Ma」で始まり、もっとフォーカスされた楽曲で、「Papa Was A Rollin’ Stone」をより女性的にポジティヴに仕上げた曲だ。「Law Of The Land」は、アルバムでは十分に使われなかったデニス・エドワーズの見事なリード・ヴォーカルが披露され、再びファンキーなメッセージを伝えている。『Masterpiece』からの2枚目のシングル「Plastic Man」は70年代初期には親しみのあるテーマを歌ったタフな曲で、デニス・エドワーズのさらなる美しいヴォーカルが際立つ。クロージングの「Hurry Tomorrow」はサイケデリックな要素をダブル・レインボー並みに盛り立て、デーモン・ハリスが床のない部屋で優しく歌い、アシッドのトリップの領域で、ゆっくりと押し寄せるエフェクトの波がカオスに終わる。今回はノーマン・ホイットフィールドがやりすぎることはなく、曲はトリッピーでありながら、共感できる人間味を忘れていない。
『Masterpiece』(傑作)とは大げさなタイトルかもしれないが、このアルバムは素晴らしい内容になっており、その多くは、自身のアルバムにも関わらずプロデューサーに次いで2番手に格下げされたグループのパフォーマンスによるものだ。彼らは依頼されたものをきちんと送り届けている。アレンジャーのポール・ライザーもオーケストレーションを行いノーマン・ホイットフィールドのヴィジョンを実現するために作品の一役をになった。
しかしプロデューサーがスターになると、どうなるかって? 度が過ぎているが、時に素晴らしい『Masterpiece』こそがその答えだ。人を操る人物とシンガーのバランスがもっと取れていた方が満足できたかもしれないが、70年代初期は音楽が過剰だった時代であり、この調理しすぎかもしれないが、魅力的なアルバムは彼らにぴったりだったのだ。
Written by Ian McCann
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