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ザ・ビートルズの「Love Me Do」が全米1位になるまでの長い道のり
1962年9月3日の月曜日の夜、ザ・ビートルズはイングランド北部ウィッドネスのクイーンズ・ホールの舞台に立っていた。次の朝、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの4人はロンドンへと移動している。当時、ピート・ベストに代わるドラマーとしてリンゴ・スターがローリー・ストーム&ザ・ハリケーンズから加入して2週間しか経っていない頃だ。ヒースロー空港に着くと彼らはロンドン北西部に移動し、EMIが所有するアビイ・ロード・スタジオへと向かった。シャツにネクタイを締めたスマートな出で立ちの4人は、そこでパーロフォン・レコードからの初シングルとなる楽曲を正式にレコーディングしたのだ。
彼らがレコーディングしたのは「Love Me Do」と「How Do You Do It?」だった(ミッチ・マーレイが作曲した後者も、一時リリースが検討されていた)。その1週間後、キャバーン・クラブを含むリバプールやその周辺のクラブでライブをこなしたザ・ビートルズは、9月11日に「Love Me Do」を再度レコーディングするためにアビイ・ロードへと戻りレコーディングを行った。このときの録音では、ジョージ・マーティンがセッション・ドラマーのアンディ・ホワイトを連れてきており、リンゴ・スターはドラムではなくタンバリンでレコーディングに参加することになった。
9月11日火曜日の3時間のレコーディングは成功を収めた。またこのとき、彼らは「Love Me Do」と一緒に「P.S. I Love You」のレコーディングも行っている。それから1か月も経たない1962年の10月5日にザ・ビートルズのデビュー・シングルはリリースされた。シングルに収められた「Love Me Do」はリンゴ・スターがドラムを叩いた9月4日に録音されたヴァージョンで、全英チャートでは17位を記録している。
翌年の1963年2月、カナダのキャピトル・レコードも「Love Me Do」の同じヴァージョンを発売したが、カナダのリスナーの反応は芳しくなかった。キャピトル・レコード・カナダの役員でザ・ビートルズのセールス担当だったポール・ホワイトは、不運な滑り出しだったと語る。「努力むなしく、‘Love Me Do’は170枚、次の‘Please Please Me’も280枚、3枚目の‘From Me To You’も300枚しか売れませんでした。ですが、‘She Loves You’がリリースされると猛烈に売れ始めたんです。‘Love Me Do’も最終的には10万枚近く売れました」。
イギリスでの発売から約1年半後の1964年2月、ザ・ビートルズがエド・サリヴァン・ショーに出演し好評を得ると、カナダのキャピトルからリリースされた「Love Me Do」が国境を越え全米シングル・チャート81位(1964年4月11日付)に浮上。1964年の前半には「I Wanna Hold Your Hand(邦題:抱きしめたい)」が大ヒットを記録。するとアメリカでも1964年4月27日にトリー・レコードから「Love Me Do」がリリースされた。トリーの親会社であるヴィー・ジェイ・レコードは、EMI傘下のキャピトルがザ・ビートルズのシングルの米国でのリリースを拒んだ後、彼らのシングルを同国で初めて発売したレーベルだったのだ。
その1週間後にはキャピトル・カナダとトリーの発表した「Love Me Do」の売上が合算されて全米シングル・チャートの31位となり、1か月後には「Love Me Do」の名前が同チャートのトップに輝いた。しかし皮肉にも、首位を獲得したのはアンディ・ホワイトがドラムを叩くヴァージョンだった。これはトリー・レコードがシングルの音源をアメリカで発売されたザ・ビートルズ初のアルバム『Introducing The Beatles』(1964年1月リリース)から持ってきたためだった。
このたった1週間の1位で「Love Me Do」は、ザ・ビートルズが1位を獲得した曲だけを収録したベスト盤『The Beatles 1+』に収録される楽曲/ビデオとなった。ビデオは、BBCのドキュメンタリー『ザ・マージー・サウンド』向けに撮影されたサウスポートのリトル・シアターでの演奏の様子だ。この番組では「Love Me Do」のパフォーマンスはその全編が放送されるには至らず、一部の使用に終わったが、『The Beatles 1+』のDVD/Blu-ray版には追加映像とともに完全版のビデオが収録されている。こちらはリンゴ・スターがドラムを叩いている映像である。そこにはあなたの知らないザ・ビートルズの姿がある。
Written by Richard Havers
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