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レノン、クラプトン、リチャーズ、ミッチェルによるザ・ダーティー・マックとは
エリック・クラプトンはクリームとブラインド・フェイスという、ロック史の初期におけるスーパーグループを結成した人物として知られるが、実は彼には半ば神話的とも呼べる3つ目のバンド、ザ・ダーティー・マックというバンドにも在籍していたのだ。
「では一体誰がザ・ダーティー・マックのメンバーだったんだ?」と尋ねるだろう。1枚もアルバムを残さず、チャートに入ることもなく、どうしたらこのつかみどころのない存在がロックン・ロール・レジェンドとなり得たのか?実はこのバンドには、ザ・ビートルズのジョン・レノン、ザ・ローリング・ストーンズのキース・リチャーズ、そしてジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのドラマーであるミッチ・ミッチェルが在籍していたのだ。さらに、彼らが公で演奏したのはたったの一度だけ、その後30年間人々はこのバンドを目にすることが出来なかったのだ。
文字にして書くと輝かしく見えるが、実際にザ・ダーティー・マックは”1日限りのヒーロー”であった。1968年12月11日、ザ・ローリング・ストーンズがフォセッツ・ビッグ・トップ(実際にはウェンブリーのインターテル・スタジオ内のサウンド・ステージ)にて彼らのテレビ特番『The Rolling Stones Rock And Roll Circus(邦題:ロックン・ロール・サーカス)』で当時の英国ロック・シーンを担うバンドを集めていた。
そこにはマリアンヌ・フェイスフル、タジ・マハールとジェスロ・タル(ブラック・サバスのギタリストのトニー・アイオミも参加)、さらにザ・フーがこの日の為に用意したミニ・オペラ『A Quick One While He’s Away, The Rolling Stones Rock And Roll Circus』を演じるといった、お祭り的な内容だった。それにも関わらず、この内容は人目に触れずお蔵入りとなり、1996年にVHSとしてリリースされるまでは神話的な幻とされていた。
お蔵入りになった理由は、ザ・ローリング・ストーンズが自身のパフォーマンスに満足できなかったからであると長く噂されてきたが、テンション高いヴァージョンとなっている「Jumpin’ Jack Flash」と「Sympathy For The Devil(邦題:悪魔を憐れむ歌)」はロックしており、それが原因とは思えないくらいだ。
そして、番組の山場であるザ・ダーティー・マックの登場する時がやってきた。ミック・ジャガーとシュールに入れ代わり、ステージに上がったジョン・レノンは自らをウィンストン・レッグサイと名乗り、エリック・クラプトン、ミッチ・ミッチェル、キース・リチャーズ(ベースを担当)が参加して、リリース間もなかったザ・ビートルズの『White Album』からハイライト曲の1つである「Yer Blues」をスモーキーに奏でた。
ジョン・レノンが名付けたこのザ・ダーティー・マックというバンド名は、英国で60年代に起こったブルース・ブームの先頭を走り、当時ピーター・グリーンが主導で活動していたフリートウッド・マックの名にかけた言葉遊びだった。この一夜限りのザ・ダーティー・マックは「Yer Blues」以外にもオノ・ヨーコとヴァイオリニストのイヴリー・ギトリスを加えて「Whole Lotta Yoko」という即興曲も演奏したが、どちらも映像が公式にリリースされるまでは広く聴かれることはなかった。
後から考えてみれば、ザ・ビートルズも、エリック・クラプトンの短命だったブラインド・フェイスもこの撮影の18ヶ月後には解散していることを考えると、このスター揃いのカルテットがまた集まることが出来なかったのかと推測してしまう。しかし、現実は冷たくも実現せず、しかしこの素晴らしい「Yar Blues」のライヴ・パフォーマンスを見ると、現在でもファン達はザ・ダーティー・マックの再結成を切に願うのである。
Written by By Tim Peacock