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時系列が入り乱れたベスト盤、エルヴィス・コステロ『Unfaithful Music& Soundtrack Album』
エルヴィス・コステロは自身の回想を綴ったオーディオ・ブックとその「サウンドトラック・アルバム」を『Unfaithful Music』と名付けたかもしれないが、その同書に登場するさまざまな場面をより印象付けるために選ばれた38曲の楽曲群は、不誠実、裏切りを意味する“unfaithful…”とは裏腹にエルヴィス・コステロの作品は決して期待を裏切らないという事実を聴き手に教えてくれる。
1977年のデビュー・アルバム『My Aim Is True』に収録された「Alison」での哀感を湛えた切々とした懇願から、2013年のザ・ルーツとのコラボレーション・アルバムのタイトル・トラック「Wise Up Ghost」に溢れるドラマチックな激しさまで、2枚組のCDに収められたすべてのトラックに込められた感情は、作曲者であるコステロ本人はもちろんのこと、人生の浮き沈みと悲惨さや憤りを経験してきたあらゆる者の心に深く響く。要するに、『Unfaithful Music& Soundtrack Album』は、単にコステロの自伝の付属品などではなく、我々すべての心象風景のサウンドトラックになっているのである。
『Unfaithful Music& Soundtrack Album』は1979年の「Accidents Will Happen」のピアノだけをバックにしたライヴ・ヴァージョンで幕を開け、1975年の未発表作「I Cannot Turn It Off」で締め括られる。時系列を無視して並べられたこれらの作品群からわかるのは、アーティストとしての彼の「進化」、いや、およそ40年に及ぶ精力的な活動がもたらした「深化」と言っていいだろう。『Unfaithful Music』が我々に気付かせてくれることは、それだけではない。この作品は、彼が音楽的な冒険心の持ち主であることにもあらためて思い出させてくれる。コステロは、長いあいだその卓越した作詞の才を評価されてきたが、一方で一見彼のイメージに似つかわしくない音楽的な実験に、積極的な姿勢を貫いてきた。たとえば1996年に『The X-Files』のためにレコーディングされた「My Dark Life」では、ブライアン・イーノとのコラボレーションに成果を上げていたし、先鋭的なヒップホップ集団として知られるザ・ルーツとの共演も両者の魅力が最大限に引き出されたものになっている。また、ジョージ・ジョーンズとのコラボレーション「Stranger In The House」や、ロザンヌ・キャッシュ、クリス・クリストファーソンらと共演した今回の『Unfaithful Music』で初出となったトラックの一つ「April 5th」は、ニュー・ウェーブの時代に“怒れる若者”の一人として登場したエルヴィス・コステロが、それ以前に、古き佳きアメリカに憧れる若者であったことを教えてくれるだろう。
回想録に収録されなかった文章をエルヴィス・コステロ自身の朗読で披露した3パートから成る“audio book sketch”も、彼の音楽の多様性をさらに印象付ける。ポール・マッカートニー、悪名高いあのLAのウィスキー・ア・ゴー・ゴーにおけるステージ、ルー・アドラー、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催された大胆不敵なオーケストラとの共演コンサート、そして音楽に身も心も捧げた一人の男の写真。エルヴィス・コステロが、決して彼を裏切ることのない熱狂的な信奉者の支持を得た理由は自ずと明らかだろう。
Written By Sam Armstrong
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