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カニエ・ウェスト『ye』で使われた5つのサンプリングの元ネタ解説
カニエ・ウェストは新曲を発売すると約束した通り、8枚目のスタジオ・アルバム『ye』を2018年6月1日に発表した。その発表から発売までの数週間に渡りリリースする楽曲に関する口コミや評判が絶えなかった。
カニエ・ウェストのスタイルを表すように、アルバムの試聴会はアメリカ西部のワイオミング州の特設会場で行われ、多くのセレブリティー、ミュージシャン、ジャーナリスト、そして業界の重役がその祭典のためにワイオミングまで飛んで参加し、その様子を世界中の人々が目の当たりにできるようライヴ配信もされた。
2016年の『The Life of Pablo』に続く本作『ye』は、カニエ・ウェストの特徴的な要素である、サンプリングに乗せたビート、ニッキー・ミナージュ、キッド・カディ、ジョン・レジェンド、タイ・ダラー・サイン、ジェレマイ、ヤング・サグ、チャーリー・ウィルソンなどゲスト出演している数々のフィーチャリング・アーティストなしでは完成しえなかったアルバムだ。
7曲しか収録されていない『ye』は感情的で強いインパクトに溢れ、カニエ・ウェスト自らが受けた批判に対する回答や活動休止中に経験した身内での修羅場をヴァースとソウルフルなサンプリングに乗せて歌っている。ではこのアルバムに資料された楽曲に使用されたサンプリングをご紹介しよう。
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楽曲:「Yikes」
サンプリング:ブラック・サヴェージ「Kothbiro」
『ye』がリリースされた際、ケニア人アーティストのアユブ・オガダの名前も載ったアルバムのクレジットに注目が集められた。カニエ・ウェストが自身の内なる悪魔と依存症に立ち向かっている事を歌った「Yikes」では、アユブ・オガダがケニアの楽器のニャティティで奏でるケニア伝統曲「Kothbiro」がサンプリングとして使用されている。
アルバムにはアユブ・オガダの名前がクレジットに載っているが、このサンプル元はアフロ・ロック・グループのブラック・サヴェージが1976年にレコーディングした楽曲だ。カニエ・ウェストはアフリカンなサンプルをユニークなビートに載せる事を得意とし、『Cruel Summer』に収録されている「Clique」でもワールド・ミュージックのコンピレーション・アルバムに収録されたZero-Gの「Africa Voice 161」をサンプリングしている。
楽曲:「Wouldn’t Leave」
サンプリング:レヴァランド・WA・ドナルドソン「Baptizing Scene」
開放的な気持ちになる「Wouldn’t Leave」に収録されている人々の歓声は、カニエ・ウェストと自身の妻が最近起こした公的な過ちを歌うには最適であるとしか言いようがない。民俗音楽学者アラン・ロマックスがフィールド・レコーディングし、1960年のコンピレーション・アルバム『Sounds Of The South』に収録されているレヴァランド・WA・ドナルドソン牧師の「Baptizing Scene」をカニエ・ウェストがサンプリングで使用するのは2回目の事だ。
1回目は、ジェイ・Zとのコラボ・アルバム『Watch The Throne』のヒット曲「Ni***s In Paris」で使用している。「Wouldn’t Leave」はベース、ピアノ、そしてラッパーのパーティーネクストドアとジェレマイの美しく優しく歌いシンプルかつ非常に繊細なトラックに仕上がっている。
まるで「Stand by Your Man」(訳注:タミー・ワイネット1968年にリリースした曲で、「自分を信じてくれる男性の傍にいなさい」と歌っている)を別の視点で歌っているような楽曲だ。
楽曲:「No Mistakes」
サンプリング:スリック・リック「Hey Young World」
このトラックでは、スリック・リックが1989年に発表したデビュー・アルバム『The Great Adventures of Slick Rick』に収録されている「Hey Young World」の中で “Believe it or not / 信じようと信じまいと” と歌っている部分をループさせている。カニエ・ウェストはこの楽曲で自身の “shaky-ass year / 不安定な一年”を振り返り、メディア、仲間、そして公から受けた批判に対する返事としてサンプルを使用している。
またカニエ・ウェストが米ヒップ・ホップの重鎮であるスリック・リックのこの楽曲を参照するのは初めての事ではない。カニエ・ウェストがフィーチャリングしているケリー・ヒルソンのトラック「Knock You Down」で “Hey Young World, I’m the new Slick Rick / ヘイ、ヤング・ワールド、俺が新しいスリック・リックだ” とラップしている。
楽曲:「No Mistakes」
サンプリング:ザ・エドウィン・ホーキンス・シンガーズ「Children Get Together」
同じく「No Mistakes」では、1971年にレコーディングされたゴスペルのスターであるザ・エドウィン・ホーキンス・シンガーズの「Children Get Together」をサンプリングし、チャーリー・ウィルソンとキッド・カディのボーカルが加わり、ソウルフルな音楽のバックとして使用されている。
大ヒット曲「Oh Happy Day」を歌った事で有名なザ・エドウィン・ホーキンス・シンガーズの「Children Get Together」はジェイ・Zの『The Blueprint2: The Gift & The Curse』に収録されている「All Around the World」でもサンプリングされている。
楽曲:「Ghost Town」
サンプリング:トレード・マーティン「Take Me For A Little While」
この曲に挿入されている60年代の失恋ソングであるトレード・マーティンの傑作「Take Me For A Little While」をキッド・カディ、ジョン・レジェンド、070シェイクらの現代のアーティストたちがカヴァーしたおかげで、この楽曲に積もっていた埃が落とされたようだ。「Take Me For A Little While」は古くはデイヴ・エドモンズ、ダスティ・スプリングフィールド、ジャッキー・ロス、そしてヴァニラ・ファッジ等がカヴァーしたロックでヘヴィーな楽曲によく似合う曲だ。トレード・マーティンが歌うサビ “I’ve been tryin’, to make you love me/But everything I try, just takes you further from me / 愛されるために頑張った でも頑張るほど君は離れて行く” は、カニエ・ウェストが愛する人に訴えているようにファンへ向けて訴えている言葉である事が分かる。
楽曲:「Violent Crimes」
サンプリング:ニッキー・ミナージュ「Monster」
最後に紹介するアルバム最後の楽曲「Violent Crimes」は実際にサンプリングしているわけではないが、カニエ・ウェストのキャリアを築き上げた作品の一つと言える2010年のニッキー・ミナージュとのコラボレーション楽曲「Monster」 と同じく、ニッキーとのコラボレーションで締めくくっている。
キーボードで演奏されているこのアルバム最後の曲は、カニエ・ウェストが過去のアルバムでのミソジニー(女性蔑視)な内容に対する反省を表しているようであり、「I hope she like Nicki, I’ll make her a monster / 娘がニッキーを好きになってくれるといいな、俺は彼女をモンスター(偉大)にしてやるんだ」と自身の娘等に向けてラップしている。
その後、ニッキー・ミナージュがボイスメールの音声で、カニエ・ウェストのラップに合わせ「Aww man, I promise / I’m a turn her to a monster, but no ménages / ああ、約束する 俺は彼女をモンスター(偉大)にしてやる、でもメナージュはなしで(訳注:「メナージュ」はフランス語でスリーサムと言う意味を持つ「メナージュ・ア・トロワ」の事。また、ニッキー・ミナージュの名前にかけている)」と言っているのを聞く事ができる。
By uDiscover Team
カニエ・ウェスト『ye』
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