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ケイシー・マスグレイヴス、最新作『Deeper Well』や参加したジブリ作品、そして日本を語る
ナッシュビルを拠点に活動するシンガー・ソングライター、ケイシー・マスグレイヴス(Kacey Musgraves)が、2018年の『Golden Hour』、2021年の『Star-Crossed』といった全米TOP5に連続チャートインしたアルバムに続く最新作『Deeper Well』を2024年3月15日に発売した。
今作はもちろん、日本のことや、ジブリのことなどについて語るケイシー・マスグレイヴスのオフィシャルインタビューをご覧下さい。
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新作から3年
—— 前作『Star-Crossed』のリリースから3年、最もインスピレーションを受けたことは何ですか?
『Star-Crossed』以降、最も刺激をもらったのは、あらゆるものの源に可能な限り近づくこと。それは、自然の源だったり、神だったり、自分の創造性、愛、不安の源といった、あらゆるものたち。「ウェル/Well(井戸/源泉とうい意)」というのは、源と自分をつなげるものだと思っている。だから、一人の人間として人生経験を積むこと。
このアルバムは、そんな人間であることの経験の確信に切り込んでいると思っている。大きな気付きから、些細なものまで。陰と陽。親密さや傷つきやすさ。全てがある。私が刺激をもらうのは、そういう人間であることのちょっとした瞬間がほとんどだから。
—— その「あらゆるものの源」に近づくために、意図的にやったことはありましたか。
私にとっては、日々の生活を送る中で、人との関係にどっぷり浸ったり、自然との繋がりを大切にしたりといったことかな。瞑想も実践するようになって、凄く調子が良いというのもある。それから、森に囲まれた家に引っ越して、フクロウや鹿やキツネといったいろんな動物とも触れ合うことができるようになった。
そんな中で、自分のことをより知ることができた。『Star-Crossed』を出したあと、離婚も経験したけど、また心を開いて人を愛せるようになった。今は、いいセラピストがいて、自分のことがよりわかってきたしね。そのおかげで、創造の源により近づくことができたんだと思う。
新作アルバムについて
—— アルバム『Deeper Well』は、長年のコラボレーターであるダニエル・タシアンとイアン・フィチュックと共同でプロデュースしたわけですが、彼らとはどんなやりとりをしましたか?
私の曲は、たいていの場合、一つのアイディアの種から始まるの。曲名とか、あるいは「これだったら面白い曲が作れそう」と思えるテーマとか。そこからダニエルとイアンと3人でスタジオに入って、ひたすらいろんなことを試してみるの。違うサウンドとかね。
例えば、私が「これ、面白い曲になると思うんだけど」と言うと、ダニエルがギターを取り出して、コードをいろいろ弾いてくれて、私の頭の中にあったものに合うムードを探すといった具合にね。とっても相性のいい、仲のいい友人でもある。2人とも私のビジョンを尊重してくれるけど、臆することなく、「例えばこれはどう?」「こういうアイディアもあるよ」「新しいことをやってみよう」といろいろな提案もしてくれる。それでも私が乗り気じゃなかったら、それはそれで私の考えを尊重して、私らしくないことを強要しようとはしない。彼らとの作業はいつも楽しいよ。
—— アルバム『Deeper Well』はニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジとその周辺における音楽ヒストリーからインスパイアを受けているそうですね。その地域には、どんなエネルギー、魅力があるのでしょう?
グリニッジ・ヴィレッジはフォーク・ミュージシャンや、彼らが奏でるストーリーや楽曲がたくさん誕生した場所。素晴らしい詩や、社会運動の中心地でもあった。時代を超えて、才能溢れる人たちがあの場所に集まって作品作りに勤しんだのも頷ける。私にとっては、そこで制作をしたのは今回が初めてだったけど、皮肉だなと思ったのは、私の中でもカントリー/フォーク寄りの楽曲の数々を、地球上で最も騒がしいマンハッタンの都会の喧騒の中で作ったこと。
でも、ニューヨークの街には凄く魅力を感じていて、地理的に見ても狭い場所なのに、あらゆるタイプの人たちが層を成して生きている。東京にも近いものを感じる。あんなに狭い場所に、あれだけたくさんの人たちが生きている。だから感情や文化、個性が拡大されるんだと思う。
私が生まれ育った場所とは全然違う。テキサスの小さい町には空間がもっとあったから。ニューヨーク・シティは創作する上では最高だと思う。街を歩いているだけで、60秒の間に幾多もの言語を耳にするし、様々な人の感情を目にすることもできる。あそこにしかない刺激的な雰囲気があって、感化されずにはいられないの。
—— ファースト・シングルでもある楽曲「Deeper Well」をアルバムのタイトルにした理由は?
「Deeper Well」はニューヨークで書いた曲で、書き終えた時に「アルバムのタイトルは『Deeper Well』がいい」と思ったんだ。咄嗟に閃いたという感じ。この曲は、今の私を象徴していると思う。私は今35歳で、自分の20代を振り返りつつ、これからどこに向かっているのかを歌っていて、まさに私の現在地を表している。アルバムを語る上で、言葉の響きもいいと思ったの。
—— そのタイトル曲の「Deeper Well」は、美しい残響感が、朝の柔らかな光を連想させる仕上がりになっていますね。また、いろんな経験を積んで、自分自身をより大切にしようという思いが伝わる内容になっています。この楽曲、心境にはどういうプロセスでたどり着いたのですか?
この曲にある二面性が気に入っているの。希望に満ちているように聴こえるし、軽やかさがあるけど、同時にメランコリーというか、物悲しさも少しこの曲にはある。ユーモアを感じる瞬間もあるけど。あなたが言った“朝の柔らかな光”はいい表現ね。ギターの音が心地よくて、優しくて、ゆったりとしたサウンドなんだけど、そこに率直な歌詞を組み合わせている。
—— 「Too Good Be True」もまた、楽曲「Deeper Well」のように朝の風景にフィットするナンバーですね。この楽曲は、どんな瞬間に思い浮かんだものですか?
「Too Good Be True」は、最初の頃に書いた曲で、確かニューヨークに行く前にナッシュビルで書いたんだったと思う。「Too Good Be True」は、恋愛の始まりを歌った曲で、自分が体験した思いを込めたの。一度大恋愛を経験して、その関係の中で気持ちの変化があって、終わりを迎えるっていうことがあると、また別の誰かに心を開くのが怖くなる。また傷つきたくないと思うから。でも離婚を経験して、その時の思いをアルバムにした後、再び大恋愛をする機会に恵まれた。人生の中で何度か大恋愛を経験できるのは本当に幸運なこと。そして毎回そこから学ぶことがある。
「Too Good Be True」は、「この人は本当にいい人そう。また人に心を開いたことを後悔するようなことにならないといいな」という私の気持ちを歌っている。そして、どんな時だろうと、人に心を開いて後悔したことは一度もない。なぜなら、結果的に別れてしまっても、どの恋愛でも、そこから本当に多くのことを学んできたから。だから、傷つくのが怖いからって人との繋がりを避けることが答えだとは決して思わないかな。
ジブリへの想い
—— 「Anime Eyes」という楽曲が収録されていますね。歌詞には「Miyazaki」というフレーズも出てきますし、あなたはスタジオジブリ作品の大ファンと公言しています。その世界観に影響されて制作されたのですか? アウトロの部分は、サントラのような雰囲気ですね。
そう! もう、本当に昔から私は宮崎監督の大ファンで、確か8歳の時に初めて『となりのトトロ』を観たのを今でも覚えている。父親が図書館からビデオテープを借りてきてくれて、妹と一緒に何度も何度も、繰り返し観たの。スタジオジブリの物語の作り方、伝え方を本当に尊敬している。
観ている者を引き込む「間」があるところが好き。アメリカのアニメーションには、そういう「間」があまりなくて、なんでもすぐに核心に切り込んで、視聴者の集中力を過小評価していると思うの。
スタジオジブリの作品には、美しさを感じさせたり、謎を残したりする余白があると感じる。全てを説明してくれるわけじゃない。でも描かれている世界が本当に美しくて、まるで絵画のようで、とても引き込まれる。宮崎駿監督の作品は、言葉では言い表し難い人間の些細な感情や情緒を絵で表現してくれていると思うから、大好きでたまらない。宮崎駿監督作品は音楽も素晴らしくて、久石譲さんが作る楽曲も大好き。だから、『アーヤと魔女』で英語吹き替えと主題歌を歌うことができたのは本当に光栄だった(*日本語版ではシェリナ・ムナフが演じた、アーヤの母親役の英語版吹き替えを担当した)。
—— 『アーヤと魔女』でジブリ作品に関わったことは、何かいい刺激を与えましたか?
吹き替えでは、アニメの口元の動きに合わせなきゃいけないのに加えて、慣れない英国訛りで話さないといけなかったの! なかなかの挑戦だった。「日本語のアニメの動きに合わせないといけないだけじゃなくて、イギリス人になり切らないといけないのね!」と思ったから。でもやってみて凄く楽しかった。
—— あなたにとってジブリ作品とは?
オファーをもらった時は本当に嬉しくて、信じられなかった。スタジオジブリとなんらかの形で仕事をするのがずっと夢だったの。2019年に日本を訪れた時に三鷹の森ジブリ美術館に行くことができて、中に入れたときは涙が流れてきた。それくらい思い入れがあるの。ジブリ作品は私の子ども時代に大切なものだったから。
新作アルバムのハイライト
—— 他にも「Sway」のラストのハーモニーとか、「Lonely Millionaire」のソウル感のある世界とか、気になる楽曲はたくさんあるのですが。特にこのアルバムのなかであなたが新しい部分を表現できた部分、ハイライトはありますか?
新しい部分かどうかはわからないけど、今作のほうがこれまでの作品よりも素の自分を見せているかもしれない。恋愛における自分をより親密に掘り下げて表現している。『Star-Crossed』も私にとっては自分を剥き出しにした作品だったけど、今作はそれとも違う。ためらうことなく自分の思いを表現できていると思う。
—— アルバム制作全般を通じて。より自身について「深く」理解できたことは?
年齢を重ねることで気づいたことがあって、それは人間関係において深い絆が自分にとっていかに大事かということ。アルバム・タイトルの『Deeper Well』がほのめかしていることでもある。若い時は、表面的な付き合いで済ませてしまいがちよね。海の浅瀬から沖に向かって泳ぐのには勇気が必要だから。
今の私は、数少ない本音が語れる友人と深い絆で繋がっているほうがいい。表面的な付き合いの友人が大勢いるよりもね。そういう部分で自分をより深く知ることができた。恋愛においても、私にとっての愛はどういうものか、誰かと親密になるというのはどういうことなのか、愛されていると思えるために自分は何を必要としているのか。そういうことをこのアルバムでは探求している。
大好きな日本
—— これまで何度も来日していますね。何か印象に残っている出来事はありますか?音楽活動、プライベートの両面で。
日本は本当に大好きで、こうして日本のことを話しているだけでも涙が出そうになるくらい好き。日本では素晴らしい経験をいくつもした。日本の人々がいつも温かく迎え入れてくれるところにいつも感動する。
あと毎回日本に行く度に、日常の中にたくさんの美しいものだったり、詩的なものだったりを目にする。例えば、コーヒー・ショップに行くと、コーヒーを淹れてくれる人がこれ以上ないくらいのこだわりと精密さでコーヒーを出してくれる。美味しいコーヒーを飲んでほしいと心を込めてくれるのが伝わってくる。全てがマニュアル化されていて、人間味に欠けるアメリカとは違う。
東京が大好きで、美味しい食事、ショッピング、素敵な公園、いい思い出がたくさんある。前回日本に行った時は、京都と奈良に足を運ぶことができたの。奈良では鹿にお尻を噛まれたけど(笑)。でも、凄く楽しかったし、奈良の東大寺は本当に素晴らしかった。
あと、鎌倉も日本でお気に入りの場所! 東京から電車に乗って行ったんだけど、竹林でお茶を飲んだり、街をぶらぶら散歩したり、海を見に行ったり、本当に大好き。まだまだ行っていない素敵な場所が日本にたくさんあるのもわかっているから、また絶対行きたいと思っている。日本のためならどんなに忙しくても時間を割くつもり。私の究極の夢は、桜の季節に日本に行くこと。これまでは、直前だったり、直後だったり、時期を外してしまっていたから、いつか絶対に日本で満開の桜を見たいと思っている。
—— アルバムを通じて、日本のリスナーにはどんな心境や風景を感じ取ってもらいたいですか?
聴いた時に穏やかで温かい気持ちになってもらいたい。このアルバムは、一人の時に歌詞をじっくり味わいながら聴くのもいいし、あるいは家に人を呼んでホームパーティーの時にBGMで流しても心地いいと思う。日常の様々な場面で楽しめる作品になっているから。外を散歩しながら聴くのも、自然がより味わえていいかもしれない。
—— 日本のファンへメッセージをお願いします。
(日本語で)こんにちは! みんなのことを心から愛しています。日本にまた行けるのを本当に楽しみにしています。またすぐに日本に行く口実をいつも探しているの。今の私があるのもみんなの応援のおかげです。次に日本に行った時は、みんなのために特別なものを届けたいと思っているので、その時に会えるのを楽しみにしています。愛しています!
——今日はどうもありがとうございました!
本当に日本にまた行くのが楽しみで、「絶対にまた日本に行くんだ!」って言いながらAirbnbを見たりしているの。今日はありがとう。
Written By uDiscover Team / Interviewed by 松永尚久
ケイシー・マスグレイヴス『Deeper Well』
2024年3月15日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music /Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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