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レディー・ガガ『Joanne』解説:いかにしてマスクを捨て、音楽ですべてを表現するようになったか?
引き算の美学は時には有効だ。レディー・ガガ(Lady Gaga)の5枚目のアルバム『Joanne』で、彼女は前作『Artpop』にあったゴージャスなドラマ性から距離を置いた。余計なノイズを取り除いて、自分の音楽そのものにすべてを語らせようという決意の表れだった。
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『Joanne』を何らかのジャンルに分類するのはおそらく間違っている。新作アルバムについての当初の大方の予想は、ラディカルなニュー・カントリーであったり、意表をついたレフトフィールド(自由で実験的なダンスミュージック)であったりとさまざまであったのだが、2016年10月21日にリリースされたこのアルバムの、全11曲の作品には隅から隅まで以前よりも自信が満ちており、しかもそれまでのアルバムと比較すればソフトになっていた。
プロデューサーに起用されたのはジャスティン・ビーバーやマドンナの作品をヒットさせたばかりのブラッドポップだったが、これはアルバムを確実にコンテンポラリーなものにしておきたいという意図によるもので、このアルバムの本当の力になったのはマーク・ロンソンの方だろう。レディー・ガガと何ヶ月にもわたって曲作りに関わったロンソンは、エグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされている。彼らがスタジオにこもって費やした時間から生まれたものは、私たちがよく知るこれまでの彼女のスタイルと地続きなものではるが、今回はこのペアは作品に「隙間」を持たせることを意識していた。
先行シングル「Perfect Illusion」は、以前よりもアーシーなグルーヴにリフが乗った活気あるダンス・ナンバーで、交際していたテイラー・キニーと破局したばかりだったこともあり、それについて歌ったのではないかという憶測が流れた。本人はそのことについては言及はしなかったが、プロジェクト全体が1970年代のレディー・ガガの叔母の早過ぎる死に大きく影響されているということを打ち明けてくれている。
それまでの作品の多くで支配的だったスタジオでのマジカルな音作りをかなり削ぎ落とした楽曲に加え、生々しさを増したヴォーカルは以前よりも遥かに大きなバランスでミックスされており、サウンドはレディー・ガガの表現力をかなり重視したものになっている。
『Joanne』からの2曲目のシングルで、グラミー賞の”Best Pop Solo Performance”にノミネートされたバラード「Million Reasons」は最大級に強力な作品だ。スーパーボウルのハーフタイムで披露されたこともあって、この曲の影響力は国内全土に及び、シングルはアメリカでオリジナル・リリースから数週間後に再びヒットチャートにエントリー、トップ10ヒットを記録した。「Sinner’s Prayer」はやはり南部をテーマにしており、跳ねるようにメロディックなリフからはシンプルなアレンジを意図したことが伺える。
エルトン・ジョンは、『Joanne』のために用意されながらも、最終的には収録されることのなかった作品でガガと仕事を共にしている。「Come To Mama」などのトラックからはエルトンの影響が感じられ、ホンキートンクやソフト・ロック期の頃の彼の作品のような肌触りがある。彼以外にも、ガガの新しいサウンドを形にするためにゲストたちが招かれた。
「Diamond Heart」はクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オミによる曲で、アルバムの冒頭を飾るカリズマティックなロック・チューンだ。この曲が彼女の以前の作品に登場することを想像するのは不可能だろう。
油と水の組み合わせ効果を超えたカントリー・ファンク・チャント「A-Yo」は、著名なシンガー・ソングライターであるヒラリー・リンジーによるもので、アルバム収録曲の中では比較的地味な存在のポップ・ワルツ「Dancin’ In Circles」の作曲者名にはベックがクレジットされている。
「John Wayne」は『Joanne』の3度目のプロモーション・カットとして「Million Reasons」とエキサイティングなアルバム・タイトル・トラックのバランスを取る目的で選ばれた。後者はかなり遅れてのシングル・リリースとなり、その時には既にラジオ局の関心はレディー・ガガの単独リリースのシングル「The Cure」に移ってしまっていた。
『Joanne』にはさらに2名の協力者の名前が記されている。セクシーでソウルフルな「Hey Girl」にゲストで登場するのは、Florence + The Machineでの活動から一旦離れて駆けつけたフローレンス・ウェルチ。そして「Angel Down」では、レディー・ガガを世界的なスターにのし上げたアルバム『The Fame』で完璧な仕事を成し遂げたレッドワンがガガと再会を果たしている。
テレビでは幾度も賞を獲り、映画『アリー/ スター誕生 (A Star Is Born)』を始めとする映画出演でオスカー受賞も目と鼻の先となり、レディー・ガガのキャリアの幅が広がっていく中、『Joanne』にはここで一旦呼吸を整えて過去10年間の彼女を総括しておきたいという意味があった。ソフト・ロック寄りのサウンドや軽装のビジュアル、そしてカントリー・タッチの味付けは、かつての悪名高い生肉衣装のような出で立ちほど衝撃的ではないかもしれないが、本質的にはラディカルさに何の変化もなかった。ガガは遂に自分をマスクで隠す必要のない自信を手に入れ、さらに大胆なパフォーマンスを期待する私たちが間違っていないことを保証してくれたのだ。
Written By Mark Elliott
レディー・ガガ『JOANNE』
2016年10月21日発売
CD / iTunes /Apple Music / Spotify / Amazon Music
レディー・ガガ約3年半ぶりの最新アルバム
レディー・ガガ『Chromatica』
2020年5月29日発売
CD / iTunes / Apple Music
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