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この世のものとは思えないサウンドに乗った宇宙旅行
遥か昔から、我々地球人は他の惑星に生命が存在する可能性に魅了されてきた。我々のヴィジョンは時として終末論的で(H.G.ウェルズの1898年小説『宇宙戦争』)、時として優しく(スティーヴン・スピルバーグの1982年大ヒット作『E.T.』)、そして変わらず非常に空想的だ。従って、テクノロジーの進歩によりミュージシャン達は楽器から、かつてないほど不思議なサウンドを絞り出すことが可能になると、我々の惑星間に対する妄想が曲の中で表現されるようになっていったのは、まるで不思議なことではない。
1962年、宇宙開発競争が激しさを増していた頃、ジョー・ミークはイギリス・グループのザ・トルネイドースの大ヒット・インストゥルメンタル・ナンバー「Telstar」を書き、人々の強い興味に働きかけた。ジョー・ミークがスタジオとして利用していたロンドンのフラットでレコーディングされ、1962年7月10日の同名通信衛星の打ち上げにインスパイアされたこの楽曲は、すぐに惑星間へと突入し、全米シングル・チャートのトップに輝いた。独特のクラヴィオリン・サウンドに突き動かされた「Telstar」は、聴き手に初めての宇宙旅行を経験させてくれた。ホーム・スピーカーの到来で、きっとそういう印象を与えたに違いない。
その10年間の終わり頃には、月面着陸に世界中が興奮状態に陥った。部外者のロカビリー・ミュージシャンのレジェンダリー・スターダスト・カウボーイが、1969年に「I Took A Trip (On A Gemini Spaceship)」を発表、地下で行なわれたようなドラム・パーカッションとキーボードのグリッサンド奏法による眩暈がするようなミックスは、まさに宇宙にいるようなぼんやりした雰囲気を生み出した。この作品は、同年『Space Oddity』をリリースし成層圏に突入した若きデヴィッド・ボウイの耳に入っていたに違いない。“世界の遠く上空の缶の上に座る”孤独な旅人トム少佐の観点から語られる本作で、デヴィッド・ボウイはリック・ウェイクマンの手を借り、曲にメロトロンによる無重力状態を与えた一方、デヴィッド・ボウイの奏でるスタイロフォンは、まるで別の星から発せられたモールス信号のようだ。
デヴィッド・ボウイの宇宙への執着は、「Life On Mars?(邦題:火星の生活)」から『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust(邦題:ジギー・スターダスト)』、そして2002年のレジェンダリー・スターダスト・カウボーイのカヴァー「Gemini Spaceship」までと長期間に渡った。彼は確実に、ニッチな関心事だったサイエンス・フィクションをメインストリームといっても差し支えないような題目へと引き上げるのに一役買った。エルトン・ジョンは1972年の『Rocket Man』リリース時、インスピレーションを得る為に『Space Oddity』に注目した一方、元ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのフロントマンのルー・リードは、夢見がちな「Satellite Of Love」等収録のアルバム『Transformer』制作時、デヴィッド・ボウイに声をかけ参加してもらった。
デヴィッド・ボウイがキャラクターを生み出しそれになり切った一方、アヴァンギャルド・ジャズの内的宇宙飛行士のサン・ラは、自分が土星から地球に下りて来たのだと強く主張した。アーケストラ率いるサン・ラが使命と自称するのは、そのアフロ・フューチャーリスト・ジャズで宇宙の隅々まで平和と愛を広めることだった。スウィングからぶっ飛んだフュージョンまで、サン・ラの圧倒的に大きなディスコグラフィそれ自体が宇宙だ。その一方、マイルス・デイヴィスは遥かに落ち着いた人物だったが、1970年代に『Bitches Brew』で始めたフュージョン・エクスペリメントで、銀河系の最果てへと導かれていった。そして1975年にライヴ・レコーディング『Agharta』をリリースした頃には、彼のバンドは時空の連続体の隙間を毎晩のように突進して行っているようだった。
“スペース・ロック”なる総称を与えられたバンド達が、60年代末のサイケ・アンダーグラウンドから浮上し、フリー・ジャズとフュージョンを受け継ぎながら、ロック・グループとしての可能性を広げていった。ピンク・フロイドは早くも1967年には「Interstellar Overdrive」で星空をドライヴし、典型的スペース・ロック・バンドとも言えるホークウィンドは1972年に『In Search Of Space』で宇宙を探求し、「Silver Machine」では、その後まもなくモーターヘッドのフロントマンとなるレミーを引き連れて行った。その頃パリでは、デヴィッド・アレンがプログレッシヴ・バンドのゴングを結成。ジャズに影響された初期の小旅行にはコルネット奏者ドン・チェリーも参加、その後独自の神話を生み出し、それが顕著に表われた作品「Radio Gnome Trilogy」(1973年リリース『Flying Teapot』収録)では、「Zero The Hero And The Witch’s Spell」が惑星間旅行に出た。
パリ出身のアヴァン・ロッカー、マグマは、神話を作ることに没頭し、20枚以上(カウント続行中)のライヴ&スタジオ・アルバムで、現在進行中のコバイア惑星での生活を描き、全曲がマグマの首謀者クリスチャン・ヴァンデが創作した言語“コバイア語”(スペース・ロックの友愛に対するクリンゴン語のようなもの)で歌われている。(訳注:クリンゴンは『スタートレック』テレビ・シリーズ登場の架空宇宙人〕)。
あまり宇宙戦争的な状況ではなかったのが、熱心な支持者等の前でプレイする知性に訴えるロッカー達の領域だった。ジョージ・クリントンに関して言えば、打ち勝たなければならないことがあり、彼が率いる集団“パーラファンカデリックメント”は、聴き手に“心を解放するんだ、そうすれば全てはあとに続くから”と聴き手を刺激した。“パーラメント”の旗印の元、ジョージ・クリントンはいつもアンファンキーなサー・ノウズ・ディボイド・オブ・ファンクとボップガンを繰るスター・チャイルド等が、ドクター・ファンケンシュタインに助けられながら衝突を繰り返す話を思い描いた。『Mothership Connection』から始まる一連のアルバムが物語に息を吹き込む一方、ライヴ・ショウ中ではPファンク・クルーがステージに実物大の母船を上陸させ、中からジョージ・クリントンが姿を現わした。
クラフトワークもまた、70年代には自分達の世界に命を吹き込む為に小道具を使ったが、自分達の代わりに分身のロボットをステージに送り込むことまでした。それ全てが彼等の丁寧に作られた神話を膨らませていた(「我々はロボットだ」と彼等は1978年の革新的なアルバム『The Man-Machine』で皮肉たっぷりに宣言し、ファンはそれを熱心に受け入れた)。
このアルバムには、ジョー・ミークの「Telstar」の後を継いだほぼインストゥルメンタルの「Spacelab」が収録されていた。手元にあるテクノロジーを用い、スタジオで素早く作り出すことが出来る宇宙について、わざわざ歌う必要などなかったのだ。シンセとキーボードを使用した先駆者クラフトワークの後を辿ったのは、『Phaedra』、『Rubycon』といったアルバムで、聴き手をどんどん並外れた旅へと誘っては、新しい音楽ギャラリーに着陸しそうな勢いを見せた、同じドイツ人探検家達のタンジェリン・ドリームだった。ヴァンゲリスもまた、映画『ブレードランナー』のサウンドトラックに収録された「Love Theme」等で新しい可能性を進んで取り入れ、どんどん成長していくこの音楽の流れに参加し、ブライアン・イーノはこれを“アンビエント”と名づけた。
当然のことながら、ブライアン・イーノは弟のロジャーとダニエル・ラノワとコラボレートした『Apollo: Atmospheres And Soundtracks』(1983年)を始め、アンビエント・ジャンルで申し分のない名作を数多く生み出した。その後10年も経たない内にこのアルバムにインスパイアされたジ・オーブは、『Adventures Beyond The Ultraworld』をレコーディングし、グループが“アンビエント・ハウス”と呼んだ音楽の先頭に立った。
『Adventures Beyond The Ultraworld』は基本的に、全て心の中で起こった宇宙への小旅行だった。つまり宇宙は、理論上は、無限かも知れないが、人の脳の創意能力もまた然りということを思い出させてくれるものだった。惑星地球の文化的かつ創造的多様性が祝福されたのは、1977年にNASAが『Voyager Golden Record(ボイジャー探査機のレコード盤)』を搭載したボイジャー探査機を打ち上げた時だった。地球で見つかったさまざまな自然の音と共に、59の言語による音声による挨拶が収められたディスクには、更にドイツ、メキシコ、イギリス、インドネシア、そしてペルーと広範囲に渡る国々の、ヴォーカル・チャントから民族音楽そしてジャズまで(ルイ・アームストロングの「Melancholy Blues」)、多彩なスタイルがずらり並ぶ、90分間に及ぶ音楽が収められていた。これが宇宙人の耳に届けられる日がいつか来るのか、それはまだナゾのままだ。
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By Jason Draper