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今年始動40周年、来日が迫るガンズ・アンド・ローゼズ:絶妙だったデビューのタイミング
2025年5月5日、Kアリーナ横浜にて一夜限りの来日公演を行うガンズ・アンド・ローゼズ(Guns N’ Roses)。そんな彼らについて音楽評論家の増田勇一さんによる短期連載を掲載。第1回は、バンド始動からデビューまでの濃密な時期について。
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謎めいたツアータイトル
ガンズ・アンド・ローゼズの一夜限りの来日公演開催まで、残り2ヵ月を切った。5月5日、Kアリーナ横浜で行なわれる今回のライヴは『Because What You Want & What You Get Are Two Completely Different Things』というやけに長いタイトルが掲げられた新たなツアーの一環としてもの。
日本は、5月1日に韓国を皮切りにスタートするこのツアーでの二番目の公演地にあたり、バンドはその後、バーレーンやサウジアラビア、アラブ首長国連邦、グルジア、トルコなどを経たのち欧州各国を巡演。ツアー自体は7月31日、ドイツが誇る巨大メタル・フェス『Wacken Open Air』への出演をもって終了の予定となっている。
このツアー・タイトルは直訳すれば「欲しいものと手に入れたものは、まったく違うものだから」といった意味合いになる。この言い回し自体からはザ・ローリング・ストーンズの「You Can’t Always Get What You Want(無情の世界)」が連想されるところではあるが、今回こうした言葉が掲げられていることにどのような意図が込められているのかは定かではないし、想像もつかない。
ただ、今回のツアー告知に伴うヴィジュアルを見てみると、デビュー・アルバム『Appetite For Destruction』のオリジナル・アートワーク(発禁ジャケット)に描かれていたモンスター(というか強姦ロボット)が地球を襲うかのような図になっているだけに、今回のツアーがこの伝説的アルバムと何かしらの関連性を持つものなのではないかという推察は可能だし、欲求、欲望を意味する“appetite”という単語もこのツアー・タイトルには重なるところがある。
『Appetite For Destruction』35周年ツアー?
とはいえ今回のツアーが『Appetite For Destruction』のアニヴァーサリー的なものではないことは明らかだ。このアルバムが世に出たのは1987年のことであり、発売40周年を迎えるまでにはあと2年ほどの時間がある。とはいえ発売30周年を記念して制作されたはずの同作のリマスター盤や、ファンの間で「箪笥」などと呼ばれている豪華なボックスセットが実際に世に出たのは、オリジナル盤の登場から31年を経た2018年のことだった。
それが示すように、このバンドにおいてはアニヴァーサリー的な動きが遅れ気味に巡ってくる傾向があるだけに「まさか35周年から3年遅れのツアーということではないよな?」などと余計なことまで考えさせられるところもあるのだが。
始動40周年?
しかしここで、今年がガンズ・アンド・ローゼズにとってどんなタイミングにあたるのかについて改めて考えてみると、興味深い事実に突き当たる。彼らの歴史においては『Appetite For Destruction』の発表年である1987年という年号が必然的に重視されがちだが、実際にこのバンドが動き始めたのは1985年のことであり、つまり今年は始動40周年という記念すべき節目の年にあたるのだ。
どの局面を歴史のスタート地点とすべきかについてはさまざまな意見があるだろうが、実際、L.A.ガンズとハリウッド・ローズという2組が合体する形で生まれた新バンドがガンズ・アンド・ローゼズの名のもとで初めてのライヴを行なったのは、1985年3月のことだったとされている。バンドはその後、メンバー・チェンジを重ね、同じ年の6月6日、『Appetite For Destruction』の制作時と同じ布陣での初ライヴをハリウッドの老舗クラブ、トゥルバドールで行なっている。
その際のことは2017年にDU BOOKSより日本語版が刊行された『ダフ・マッケイガン自伝/イッツ・ソー・イージー:アンド・アザー・ライズ』の中でも触れられている。そして、ある意味その記念すべき初ライヴ以上に重要だったのは、そのわずか2日後に彼らがダフの故郷であるシアトルでのライヴに向かったことだろう。
メンバー5人とクルー代わりの仲間たちで1台の車に乗り込んで北上した一行は、早々にエンストに見舞われ、ひもじい思いをしながらヒッチハイクを重ねて目的地を目指したのだった。そして、その時の体験を共有したことが彼らをひとつにした。同書にはダフ自身による「この瞬間、ガンズ・アンド・ローゼズが単なるひとつのバンドではなく大切なバンド、俺たちのバンドであることがはっきりとした」との記述もみられる。
濃密だったアルバムデビューまでの時間
こうして改めて振り返ってみると、それ以降の物事の流れの速さに驚かされずにはいられない。なにしろガンズ・アンド・ローゼズがゲフィン・レコーズと契約したのは1986年3月のこと。その時点で、アクセル・ローズ、イジー・ストラドリン、スラッシュ、ダフ・マッケイガン、そしてスティーヴン・アドラーという顔ぶれでの初ライヴが行なわれてから、まだ9ヵ月ほどしか経過していなかったのだ。
そして同年12月、初の公式音源にあたる『Live?!★@Like A Suicide』がインディーズ盤としてリリースされ、1987年初頭からはデビュー・アルバムのレコーディングを開始。『Appetite For Destruction』が世に出たのは同年7月(日本盤リリースは9月)のことだった。
おそらく彼ら自身は、この顔ぶれが出揃った時点からアルバム・デビューに至るまでの2年と少々の時間経過を長いと感じていたことだろうし、ハリウッド界隈のクラブ・シーンで頭角を現しつつあった頃も、なかなかめざましい成果が得られない現実に苛々しながら過ごしていたのではないかと想像できる。ただ、結果的にみれば『Appetite For Destruction』が発売されたタイミングは完璧だったのではないかと思えてならない。
確かにこのアルバムが全米アルバム・チャートの頂点までのぼり詰めるまでには発売から約1年を要している。しかし最初から爆発的な反応を得るのではなく、充分に時間をかけながら浸透していったことで、同作が全米No.1の座を獲得する頃には強固な支持基盤が確立されつつあったし、このバンドはそれ以前とも以降の時代とも異なった時代感を持って受け止められることになったように感じられるのだ。
絶妙だったデビューのタイミング
デビュー当時の彼らは当然のように、いわゆるL.A.メタルのオリジネイターたちの後続世代のように認識されていたし、仮にデビューがもう数年早かったならば完全にその流れを汲むものとして扱われていたことだろう。逆に、その登場がもう数年遅かったならば「80年代メタル、最後の切り札」といったキャッチコピーが付けられることになっていたかもしれない。
実際、ガンズ・アンド・ローゼズは80年代に出現したわけだが、その音楽は80年代型メタルの典型に嵌まったものではなかったし、かといってオーソドックスなロックンロールと片付けられるものでもなかった。それこそ90年代以降になってから振り返ってみれば、80年代型メタルと90年代のグランジ/オルタナティヴを繋いだのが彼らであり『Appetite For Destruction』だったという見方がごく自然にできるようになってくる。ただ、実のところ、1987年の時点でこのアルバムがそこまでロック史的に重要な作品になることを予見できていた人たちは少なかったはずだ。
筆者自身はバンドの編成自体や、彼らが『Live?!★@Like A Suicide』の中で「Mama Kin」をカヴァーしていたことから、当初はエアロスミスの後継者的バンドなのだろうと考えていた。
しかし『Appetite For Destruction』の音源が届いてみると、彼らがいかなる先達とも異なっていることに気付かされることになった。ナザレスを思わせる側面もあれば、イギー・ポップやセックス・ピストルズを連想させる要素もあり、毒々しさもあれば、イノセントな魅力、大きなスケール感を伴った楽曲もあった。
のちに僕は『ガンズ・アンド・ローゼズとの30年』という2016年刊行の自著の中で、このアルバムについて「ロックンロールを新たな時代へと導くことになった」「1987年に掲げられた理想がさまざまな現実を変えた」などと書いているが、1987年当時の自分にとっては純粋に「とんでもなく大好きなアルバム」でしかなかったし、この作品がまさかこんなにも長きにわたり支持され続ける怪物アルバムになるとは想像もしていなかった。
結果的にこの『Appetite For Destruction』は、アメリカにおいて全時代を通じて史上7番目に高いセールスを記録しているアルバムであり、20世紀にもっとも売れたデビュー・アルバムでもある。参考までに触れておくと、2000年以降に登場したデビュー・アルバムで最高のセールスを記録しているのはリンキン・パークの『Hybrid Theory』だ。
この両作品には「シングル・ヒットを重ね、時間をかけながら売り上げを伸ばし、約1年がかりでアルバム・チャートの首位を獲得した」という点で重なるところがある。もちろんそうした記録上の共通点以上に、どちらも普遍性と革新性が同居する画期的な発明品のような作品であること、ロック・ミュージックの基準を変えたということが重要であるわけだが。
さて、この作品について書き始めるとキリがなくなってくるので今回はこのあたりで締めておこうと思うが、次回はこの怪物アルバム登場から90年代にかけてのことを書かせていただくつもりでいる。もちろん、そうこうしている間に新たな情報などが届けば、それを織り交ぜながらお伝えしていこうと思う。というか、ひとつでも多くの新情報が届くことを願わずにはいられない、というのが今現在の本音である。
Written by 増田勇一
ガンズ・アンド・ローゼズ『Appetite For Destruction』
1987年8月21日発売
BOX SET / CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music
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