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レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーによる、メタリカの“ロックの殿堂入り”祝福スピーチ
2023年4月14日に発売されるメタリカ(Metallica)にとって12枚目、そして6年4か月ぶりとなるスタジオ・アルバム『72 Seasons』(予約はこちら)。
この久しぶりのアルバムの発売を記念して、2009年にメタリカがロックの殿堂(Rock and Roll Hall of Fame)入りを果たした際に、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのベーシスト、フリーによる祝福スピーチの全文を掲載。
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レッチリのフリーが初めてメタリカを聴いた時
1984年のいつだったか、俺はバンドの連中とコンサート・ツアーに出ていて、アメリカ国内のどこかにいた。あれは午前3時か4時ごろのことだったと思う。俺たちは機材と一緒にバンの中で、すし詰めになっていて、外は雨が降っていた。みんな、ツアーの疲労でクタクタになっていたんだ。そのとき、ある曲がラジオから流れてきた。あんな音楽が存在するなんて、俺は本当に信じられなかった。それまでは、ラジオから流れてくる曲はお馴染みのものばかり ―― ずっとそんな風だった。だけどあの瞬間、俺はそれまでの人生で聴いたこともないような、美しく、凶暴な音楽にとてつもない衝撃を受けたんだ。
そう、その通りだ。俺はラジオに釘付けになった。俺はただ、ラジオをじっと見つめながら「いったいこれはなんだ?おい、なんてことだ!」って驚くことしかできなかった。隣にいるアンソニー(・キーディス)に、「おい、こりゃ最高じゃないか」って言ったことを覚えている。
俺はその音楽にすっかり圧倒された。どうすればあんなものを作ることができるのかもわからなかった。確かに、そこにはラウドなギターと叫び声があって、光のように速かった。だけどパンク・ロックじゃない。ヘヴィ・メタルとも違っていた。それは正確無比で、爆発的で、ヘヴィなのに、物凄いスピードだった。とにかくほかのどんなものともまるで違う、奇抜な音楽だった。
そのサウンドは攻撃的で激しくて、手に負えないような突飛なリズム・チェンジが何回もあった。それなのに、最高に格好いいひとつの曲として成立している。馴染みのある一般的なポップ・ソングのパターンとはまるで違っているのに、その曲が終わるころには、俺はもう一緒になって歌っていた。
俺には何がなんだかわからなかった。だけど、それが凄まじいモノだということだけは確かだった。その曲っていうのが「Fight Fire With Fire」だ。俺にとって、メタリカっていう強大な存在を知るきっかけになった1曲だ。
メタリカは“この世の奇跡”
それから時が経って、俺はスピード・メタルとか、スラッシュ・メタルとかいう音楽ジャンルがあることを知った。それ以来、同じような音楽をやっているバンドをたくさん聴いてきたけれども、曲を纏め上げるという点で、ほかのヤツらはメタリカの足元にも及ばない。
もっと凄いテクニックを持っているヤツらはいるだろうし、もっとクレイジーな連中だっているだろう。本当に腕があって面白い音楽をやっているヤツらもいると思う。だけど、最高のバンドに必要な“形のない要素”が何であれ、メタリカにはそれが備わっている。彼らこそが本物なんだ。
世界最高のミュージシャンたちを集めて夢のスーパー・バンドを組んだとしても、そのミュージシャンたちが一緒に演奏して化学反応が起きるとは限らない。人知を越えた力が働かないと、魔法のような音楽は生まれない。だけど稀に、バンドの中でその魔法が起こることがある。狙ってやろうとしても出来ることじゃない。理論では説明できない、この世の奇跡のようなものなんだ。
ただ不確かな要素を組み合わせるだけで、すばらしいバンドになるっていうならそんなことは誰にでもできる。だけど実際には不可能に違い。これはもう本当に神聖で、魔法のような偶然の出来事なんだよ。それが実現するのは、その場で崇高な力が働いたときだけだ。だから、「なぜこの音楽が格好いいのか?」っていう疑問に対する答えは、偉大なるルイ・アームストロングの言葉の中にある。「それを聞くだけでは、いつまで経ってもわからない」 ―― そういうことだ。
“ロックの歴史に残るエレキ・ベースの演奏”
1981年に結成されたメタリカは、普通の道を辿って成功を手にしたわけではなかった。活動が軌道に乗り始めたとき、彼らが大スターになろうとか、数え切れないほどレコードを売ろうとか考えていたかどうかはわからない。だけど、もし彼らが史上屈指の大物バンドになることを目指していたとしたら ―― そして実際に彼らはそうなったわけだけど ―― その成功は少々変わった道筋の先にあった。
そのころのラジオでは、3分間のキャッチーなポップ・ソングばかりが流れていた。そんなときにメタリカのメンバーは、10分もある強烈な曲をいくつも書いて、実際に演奏していた。彼らがのんびり漠然と、華やかなロック・スターになるにはどうすればいいか考えていたとは思えない。俺が思うに、彼らはただロックがやりたいっていう純粋な気持ちでここまでやってきたんだ。
彼らがいまのように、世界中のリスナーと繋がっているのは本当に信じがたい。彼らはメインストリームとはかけ離れた音楽をやっていながら、誰でも知っている有名バンドになった。彼らがやっているのは“アウトサイダーの音楽”だ。それなのに、これほどのことを成し遂げてきたっていうのは、まったく驚くべきことだ。
それでも彼らはきっと、デビュー・アルバムの『Kill ‘Em All』で、DJケイシー・ケイサムの番組「American Top 40」にランクインするって考えていたに違いない。実際、「(Anesthesia) Pulling Teeth」っていう曲はヒット・シングルが生まれる可能性を強く感じさせる。5分間のベース・ソロだ。これで売れなきゃ嘘だよ。そうだろう?
自分でもベース・ソロを取る俺から言わせれば、あの曲で聴けるのはロックの歴史に残るエレキ・ベースの演奏だ。クリフ・バートンは本当に凄い。超一流で、奥の深い、抜群にすばらしいベーシストだった。
ロック・ミュージックのベース・ソロはひとりよがりで、テクニックに走りすぎていて、これ見よがしで、大概は退屈に感じられる。だけど俺が聴いてきた限り、クリフ・バートンのベース・ソロには、魂がこもっている。そしてサイケデリックで、ヘッド・バンギングしたくなるような演奏なんだ。それを聴くと、常識を覆されるし、脳ミソが飛び出そうになるし、地面が揺れるほどノリノリになれる。若くてすばらしいロック・ミュージシャンが作り出す、美しい音楽なんだ。彼は人類の最高傑作だ。
彼の演奏は、その道を極めた人のそれなんだ。彼はありったけの愛と情熱をもって音楽に打ち込んだ、根っから本物のミュージシャンだったんだ。彼の演奏を聴けばそれがよくわかる。人間にとっての一番の悲劇は、自分の中にある“歌”を歌わないまま死んでしまうことだと俺は思う。内に秘めた才能を発揮しないまま死んでしまうことだ。だけどその逆に、自分の“歌”を歌い、才能を発揮した人生だったと感じてこの世を去れるのは美しいことだ。そして、クリフ・バートンはそれをやってのけた。そんな人生における最高の功績を、俺はすべての人に成し遂げてほしいと願っている。
彼が音楽の歴史に刻んだ1ページは、永遠に消えることがない。そのページを埋められる人はほかにいない。それほど彼は特別な存在だった。メタリカのレコードを聴くとき、俺は彼のことを考えずにはいられない。間違いなく、彼がこの世で発揮した才能は、彼が生きていようと死んでいようと、メタリカの音楽の中に生き続けていく。クリフ・バートンに神のご加護がありますように。彼は最高だ。
理論では説明できない、すばらしい体験
メタリカの音楽を聴いていると、彼らが必要に駆られてそれを作っているような感じがしてくる。彼らの心が締め付けられて苦しくなって、それを発散しなきゃいけない、解き放たなきゃいけないような感じだ。発散しなきゃいけないものの正体は、限りない悲しみだったり、とてつもない苦しみや怒りだったりする。だけど多くの場合、それを解き放つための彼らなりのプロセスに対する愛がそこには溢れている。
ヘヴィな音楽や、怒りに満ちた攻撃的な音楽に対して、子どもたちにとってネガティヴだとか不健全だとか、理屈をこね回す連中を見ると、俺はいつも馬鹿げているって思う。第一に、凶暴な音楽を演奏するのは、ミュージシャンが怒りを健全に発散している証だ。それは錬金術とか、メタモルフォーゼみたいなものだ。破壊や苦しみの種になり得るものを、バンドにとっても観客にとっても美しくて、格好よくて、気持ちが高まる何かに変えてしまうんだ。
苦しみや痛みを優れた芸術の源泉にするという伝統的な手法は、すべてのアーティストにとってのすばらしい通過儀礼のようなものだ。そして、そういう音楽が聴く人の心を一番強く揺さぶるんだ。
メタリカのライヴを観に行って、頭を振ったり、メロイック・サインを掲げたりすることは、人類にとっての“偉大な何か”の一部になることと等しい。メタリカの残忍なビートに激しくノリ続ける少年たちは何時間かの間、心をひとつにする。どんなスピリチュアルな訓練や、瞑想会や、愛の営みにも負けないほど健全な時間なんだ。
そうさ、気持ちが高まるし、ほかの人たちとも心を通わせられる。俺は音楽なら何でも好きだけど、メタリカの音楽はほかの何より人びとをひとつに結びつけてくれるし、人生に喜びをもたらしてくれる。愛を歌ったヒッピーたちの音楽にも決して負けないくらいだよ。
メタリカの音楽に身を任せて体を揺らせば、寂しさや孤独はほとんど消えてしまう。彼らの音楽に合わせて乗れば、すべてのものが周囲から消え、ロックと一体になった気持ちになれる。理論では説明できない、すばらしい体験なんだ。心から敬服しているよ。
“メタリカはマジですばらしい”
メタリカは決して平坦ではない凄まじいキャリアを歩んできた。その中で、彼らはあらゆることを成し遂げたんだ。何もないところから成功を手にして、世界を揺るがすような曲を書き、そして演奏してきた。メタリカはマジですばらしい。音楽も最高だ。まったく信じられない。
何より、彼らはいまでも現役バリバリだ。どんなことを言われても屈することなく、むしろそのたびに力を増している。彼らはまるで家族同然だ。その絆は依然として強く、創造力の源になっている。仮にロックの殿堂を創設するとして、本当に明確かつ厳格な基準を設けて、それを満たすグループだけを迎えることにしよう。それは、完全に唯一無二で、ロック・ミュージックという芸術を自分たちだけの手で進化させたと誰もが認めるようなバンド————。そして、その進化がロックの可能性を広げ、彼らの切り開いてきた道を数えきれないほどのグループが進もうとする ―― そんなバンドだ。その厳しすぎる基準を満たすバンドが存在するとすれば、メタリカは間違いなくそのうちのひとつだ。
メタリカは最高だ!メタリカこそがヘヴィだ。ジェイムズ・ヘットフィールド、ラーズ・ウルリッヒ、カーク・ハメット、ロバート・トゥルヒーヨ、ジェイソン・ニューステッド、そしてクリフ・バートン、あなたたちをこうしてロックの殿堂に迎えられることを心から光栄に思います。
メタリカ『72 Seasons』
2023年4月14日発売
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