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ヘヴィ・メタルの芸術性:好奇心を刺激し、部外者を威圧、独自に進化し続けたビジュアル・スタイル

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ヘヴィ・メタルのように極限を追求するジャンルの場合、美的センスは同好の士を見つけるうえで重要な手段となる。シンプルな黒のバンドTシャツは、自分の好きなバンドとメタル・シーン全体への忠誠を示す無言の宣言のような意味を持っている。

ヘヴィ・メタルの過激さは、視覚的な面でもライフスタイルの面でも好奇心を刺激し、部外者を威圧する。弾丸ベルト、軍服、スタッズ(鋲)のついたレザー、鮮烈なイメージや解読不可能なロゴ……。メタルのサブジャンルはそれぞれが独自のビジュアル・スタイルを備えている。そうしたスタイルは、困惑する部外者に対するリトマス試験として機能する。

視覚的な表現はあらゆる音楽ジャンルと結びついているが、メタルほどグラフィックデザインを重視するジャンルは他にないだろう。ヘヴィ・メタルでは、フォントやロゴが非常に大きな役割を果たしているが、そうした要素にここまでこだわる音楽ジャンルが過去に存在しただろうか?

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メインストリームに対する拒否反応

パンクと同じように、ヘヴィ・メタルというジャンルもまた、メインストリームに対する拒否反応から出発した。そして、仲間同士のアイデンティティーを作り出すためにファッションを利用したのである。

ブラック・サバスのようなバンドは、ベルボトムやレザー・ジャケットといったブルース・ロック流のファッションからスタートしたが、ヘヴィ・メタル・ファッションの本当の起源は1960年代後半から1970年代にかけて流行したバイク乗りやレザー・ファッションと言ったサブ・カルチャーにあった。

ベトナム戦争後の時代、つまり、あの映画『イージー・ライダー』がバイク乗りのカルチャー・スタイルを映画で表現したことを受け、シン・リジィ、ステッペンウルフ、モーターヘッドといったバンドがバイク乗りのファッションを採用した。

これはミリタリー・ルックから多大な影響を受けたもので、弾丸ベルト、パッチで飾られたベスト、革パンツ、バイクブーツといったアイテムで構成されていた。後にモッシュが流行るようになると、このファッションが実用的な役割も果たすことになった。モッシュ・ピットでは、ブーツが体を守るうえでも役に立ったのだ。

とはいうものの、ヘヴィ・メタルの美学が生まれた正確な時期を挙げるとするなら、それは1978年ということになるだろう。この年、ジューダス・プリーストのフロントマン、ロブ・ハルフォードが頭からつま先までレザーで覆われた姿でハーレーに乗り、テレビ・ショー「Top Of The Pops」に出演した。それによってヘヴィ・メタルというサブカルチャーはメインストリームの舞台に登場し、このジャンルそのものが一変してしまったのだった。

Judas Priest – Take on the World (BBC Performance)

それから間もなく、英国でもアメリカでも、ヘヴィ・メタル・ファッションといえばスタッズと軍帽と牛追い鞭という組み合わせになった。バンドもファンも、レザー、チェーン、スタッズ、スカルと言った数多くの要素をボンデージの世界から流用したが、それを同性愛の意味合いと関連付ける者はいなかった。

やがてロブ・ハルフォードは、ヘヴィ・メタル・シーンで初めてゲイであることを公言したアーティストになったが、当時のいでたちは、音楽のタフさを象徴するマッチョでバイカーっぽいイメージの延長に過ぎないと見なされていた。

衣装デザイナーのローリー・グリーナンは、「SMはヘヴィ・メタルが流行るずっと前からヘヴィ・メタルだった」と述べている。グリーナンはあの伝説的なキッスの衣装のほとんどを制作し、ジューダス・プリーストのデザイナーを長く務めた。その結果、グリーナンは「ヘヴィ・メタル・オートクチュール界のグロリア・ヴァンダービルト (Gloria Vanderbilt of heavy metal haute couture) 」というニックネームで呼ばれるようになった。そして彼女は、のちにマノウォーやビリー・アイドルのコスチュームをデザインすることになる。

MANOWAR – Call To Arms – Live In Finland – Full Video

 

パンクからの影響

ヘヴィ・メタルがまだ生まれたてのジャンルと考えられていたころ、音楽性という点でも、またスタイルという面でも、そこにはパンクとの相互作用が数多く見られた。

当時のメタル・シーンは、スタッズや軍服を多用したパンク・ファッションから大きく影響されていた。パンク・スタイルの導入という視点からとらえた場合、とりわけ大きな役割を果たしたのがモーターヘッドだった。彼らは1970年代後半にスパイクやスタッズの弾丸ベルト、戦闘服といったパンクのスタイルを取り入れていった。

パンクスやバイカーは、パッチを通して異なるバンドやアウトローの他の派閥に対する忠誠を誓っていた。メタル・ヘッズたちはそこからさらに一歩進んで、こうしたファッションを芸術の域にまで高めることになる。そう、パンクスもメタル・ヘッズもたった1枚のワッペンで、ファンは自分たちのシーン全体と心を通い合わせることができたのである。またワッペンはファンを結びつけるだけでなく、インターネット登場よりも前の時代には無料の広告としても機能していた。

1980年代に入るとヘヴィ・メタルは無数のサブジャンルに枝分かれし、それぞれが独自のビジュアル・スタイルを確立していく。スラッシュ・メタル、デス・メタル、ブラック・メタル、グラム・メタル、グルーブ・メタル、そしてさらに後ではニュー・メタル……こうしてメタル関係者は、身につける服のスタイルに応じてそれぞれ異なるシーンに振り分けられるようになっていった。

James Hetfield and Kirk Hammett Speak On Fashion, Late 1980s Metallica Interview, Found Footage

 

オカルトへの接近

バイカー・ルックは進化し続けた。1980年代初頭には、“NWOBHM (New Wave Of British Heavy Metal)”の筆頭格であるアイアン・メイデンのフロントマン、ポール・ディアンノがスタッズ・ベルトやスパイク・ブレスレット(ガントレット)を身につけるようになった。

そしてバイカーと同様に、メタル・バンドも鉄十字のようなゲルマン民族や異教徒のシンボルに魅了され、1980年代後半にはバイキングのような濃いヒゲと長髪を取り入れるようになった。オカルトや古いホラー映画といったものも、ヘヴィ・メタル・ファッションに影響を与えた。

オジー・オズボーンの黒いローブ、あるいはキッス、アリス・クーパー、そしてその後、ほとんどすべてのブラック・メタル・バンドが採用したコープス・ペイントもその一例として挙げられる。戦いに備える戦士たちの化粧と同じように、メーキャップはグラム/ヘア・メタルの誕生に重要な役割を果たすことになった。

Alice Cooper – Welcome to My Nightmare (from Alice Cooper: Trashes The World)

 

スパンデックスとサンセット・ストリップ

1970年代の両性具有的なグラム・ロックに触発され、モトリー・クルー、ボン・ジョヴィ、ポイズンなど数えきれないほどのバンドがサンセット・ストリップとMTVを席巻した。そのファッションは、炎のように盛り立てた髪型、女装に影響されたメーキャップ、股間に装着するコッドピースが特徴となっていた。

Poison – Talk Dirty To Me (Official Video)

「Top Of The Pops」をはじめとするテレビ・ショーがハルフォードのバイカー姿のイメージを全英の一般家庭に広めたのと同じように、ヘア・メタルはMTVやそれに類似したテレビ番組のおかげで存在感を持つようになった。テレビ画面を通じて、セックス、ドラッグ、ロックンロールというイメージが浸透していったのである。

サクソンのようなバンドはそれ以前から長年スパンデックスを着用していたが、グラム・メタルの大胆不敵な性的イメージはサンセット・ストリップで生まれ、サンセット・ストリップで廃れていった。

一部のメタル・スタイルは、過剰なヘア・メタルへの反動として生まれた。パンクをルーツとするスラッシュ・メタルは、当時主流だったヘア・メタルから距離を置くために独自のスタイルを採用した。

アシッド・ウォッシュのジーンズ、バトル・ジャケット、白いハイトップ、黒いバンドTシャツは、アイアン・メイデンや多くのアメリカのスラッシュ・メタル・バンドにとって必須のアイテムとなった。メガデスのデイヴ・ムステインがナイキのハイトップを着て登場すると、その他一連のスラッシュ・メタル・バンドもそれに追随した。

Megadeth – Holy Wars…The Punishment Due

 

ヘヴィ・メタルの視覚的な壮大さ

コンサートやバンドTシャツは、シルクスクリーン印刷が出現し、ウッドストック・フェスティヴァルが開催された時代から存在していた。しかしながらメタル・コミュニティはTシャツの宣伝力に着目し、Tシャツを反抗的な態度を見せつけるメディアへと変貌させた。

メタリカの伝説的な「Damage Inc Tour」のシャツには、突き刺さった頭蓋骨(彼らの長年のコラボレーターであるパスヘッドがデザインを担当している)が描かれているが、これはゲスの「?」しか描かれていないシンプルなデザインのTシャツとは大違いだ。

Tシャツやアルバムカバーは、メタルのロゴやアートワークの視覚的な壮大さを表現するためのキャンバスだった。アルバム・カバーは現在ではストリーミング・プラットフォームのサムネイルにまで縮小しているが、レコードやCDのジャケットは、かつては音楽的なビジョンを伝えるための魅力的な方法だったのである。

ヘヴィ・メタル勢の楽曲がより速く、より大音量になり、よりハードになったのと同じように、タイポグラフィもまた大きく変化していった。

ブラック・サバスのふわふわとしたロゴとデフ・レパードの攻撃的な尖ったレタリングを比べてみれば、それは一目瞭然だ。メタルのロゴはさまざまなものからヒントを得たものになっている。その中には中世風の黒字体もあれば、モーターヘッドのようなゴシックや古英語の字体も含まれている。

ロゴに加えて、モーターヘッドはバンドのマスコットの新たな基準を打ち立てた。1977年に登場した悪名高い「Snaggletooth」(またの名を“War Pig”)はこのグループのシンボルとなり、2作を例外に、モーターヘッドのすべてのアルバム・ジャケットに姿を見せることになった。

アルバムのアートワーク制作がきっかけでデザイナーのスターも続々と生まれ、彼らもまた伝説となった。その例としては、モーターヘッドの“Snaggletooth”やレッド・ツェッペリンの有名な“Icarus”のロゴを担当したジョー・ペターニョが挙げられる。こうしたマスコットはバンドのメンバーに近い存在となり、アルバムのアートワークやTシャツ、その他数え切れないほどのグッズのデザインに使用されている。

アイアン・メイデンのアルバムに登場する斧を振り回す異常殺人者「Eddie the Head」(デザインはデレク・リグ)、あるいはメガデスの「Vic Rattlehead」(デザインはエド・レプカ)。こうしたキャラクターはメタル・シーンのカルト的存在となった。

Megadeth – The Making Of Vic Rattlehead (2012)

1980年代後半、メタル・サウンドがより過激になるにつれ、アルバム・ジャケットも過激になった。ザ・スミスは、1985年の『Meat is Murder』のジャケットで自分たちが論議を巻き起こしたと考えたかもしれない。しかし肉食の是非というテーマで言えば、UKのメタル・バンド、カーカスが発表した『Reek of Putrefaction』のインパクトには到底かなわないはずだ(クリックで画像を見る)。

グロテスクなイメージを強調したヘヴィ・メタルのアルバム・ジャケットは若いファンを喜ばせ、それと同じくらい親を恐怖に陥れた。スレイヤーの『Reign in Blood』は今でも人々を驚かせ、ジューダス・プリーストの『British Steel』はロスラフ・ザイボのデザインによって不気味さがスタイリッシュに演出された。

そのイメージについてどう思うかは別として、こうしたデザインを作り出したアーティストたちの見事な技巧を否定できる者など存在しない。悪魔的な言葉をもとにして絵を描くときは、細部までこだわる必要がある。世代によって、人気を集めるジャケット・アートには違いがある。ある世代はオジー・オズボーンの『Diary of a Madman』を好み、別の世代はパンテラの『Vulgar Display of Power』を好んでいる。いずれにせよ、ヘヴィ・メタルのアートはアメリカの最高裁判所が定義したポルノグラフィーの特徴に似ている。つまり「見ればわかる」というわけだ。

かつて、不良や外れ者の服装とされていたものが、今やファッション界に流用されている。カニエ・ウェストとジャスティン・ビーバーを見れば分かるだろう。この二人はどちらも有名なメタルのファッション・アーティストを起用して、ツアー用にエッジの効いた衣装をデザインした。そして偶然にも、年配のメタル・ファンとポップ・ミュージックを愛する彼らの子供たちが珍しく絆を深める機会を作り出したのである。

Written By Laura Stavropoulos


メガデス『The Sick, The Dying…And The Dead!』
2022年9月2日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Amazon Music


メタリカ『Master Of Puppets』
1986年3月3日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




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