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ウェイン・ショーター『Etcetera』:録音から15年近くも日の目を見なかった傑作
伝説的なジャズ・サックス奏者ウェイン・ショーターの見過ごされがちな傑作『Etcetera』は、ショーター自身がそうであるように、年を経るごとにその評価を高めている。
ウェイン・ショーターは、1965年6月14日に『Etcetera』をレコーディングした。このアルバムは彼がブルー・ノート・レーベルに残した一連の作品の中でもとりわけ甚だしく過小評価されているアルバムのひとつである。当時はショーターもブルー・ノートも充実した時期にあったが、この5曲入りアルバムは発売が見送られてしまった。それから15年間も発表の機会を持たなかったが、1980年にいたってプロデューサーのマイケル・カスクーナがこのアルバムを発掘。結果、同作はようやく正式にリリースされることになったのだった。しかし、それから40年のあいだ、この『Etcetera』はその優れた内容に見合った評価を受けてこなかった。
とはいえ、このアルバムを再評価する気運も高まっている。ブルー・ノート設立80周年記念企画の一環として、『Etcetera』がアナログのLPで、初めてリイシューされたのである。チック・コリアの『Now He Sings, Now He Sobs』と共に、このLPは“トーン・ポエット・リマスター・シリーズ”と銘打ったリイシュー企画の第一弾として発売された。このシリーズでは、すべてのアルバムがプロデューサーのジョー・”トーン・ポエット”・ハーレーの手で選ばれている。またハーレーは、オリジナル・アナログ・テープからのリマスタリング作業の監修も担当しており、『Etcetera』を隠れた傑作として高く評価している。
それでは、なぜ『Etcetera』は1960年代中期にウェイン・ショーターがリリースしたその他のアルバム(『Speak No Evil』や『The All Seeing Eye?』) のように高い評価を受けられなかったのだろうか? そして、なぜあれほど長いあいだリリースが棚上げになっていたのだろうか?
■見過ごされた傑作
1964年4月から1965年10月までの時期、ショーターの創作意欲は非常に旺盛だった。彼はこの1年半のあいだに、6枚ものアルバムを立て続けにレコーディングしているのである。思うにブルー・ノートも、こうした彼のハイ・ペースぶりについていけなかったのかもしれない。短期間にアルバムをたくさんリリースし、マーケットにダブつかせてしまうというのは得策ではない。また『Etcetera』は、同時期にショーターがレコーディングしたその他のアルバムよりも地味な内容だった。それゆえこのアルバムはお蔵入りになり、同作に続いてレコーディングされたアルバムのほうが優先されることになったのである。
とはいえ、幸いなことに、今回リイシューされる『Etcetera』には、最新のリマスタリングが施されており、そのためかつてないほどのすばらしい音質でこの傑作を楽しむことができる。これを聴けば、誰でもわかるはずだ。ショーターはブルー・ノートで13枚のアルバムをレコーディングしたが、アルバム『Etcetera』は見過ごされた傑作だったのである。その内容は、もっと有名になっていてもおかしくない素晴らしいものになっていた。
■あふれる才気と遊び心
『Etcetera』をレコーディングした頃、ウェイン・ショーターは32歳で、あの有名なマイルス・デイヴィス・カルテットに加入してまだ数カ月というころだった。やがて彼は、この最先端を行くバンドの最も重要なコンポーザーになった。マイルスのもとで、ショーターは1965年1月に『ESP』をレコーディングしている(このアルバムのタイトル・トラックにも、ショーターは作曲者としてクレジットされている)。そして同年3月には、ブルー・ノートで自らのセクステットのアルバム『The Soothsayer』をレコーディングしている(このアルバムも、『Etcetera』と同じように1979年までリリースを見送られている)。
『Etcetera』のレコーディング・セッションに、ショーターはマイルス・グループのバンドメイトだったピアニスト、ハービー・ハンコックを起用している。その他のメンバーは、ベーシストのセシル・マクビー(ショーターとマクビーは、前の年にグレシャン・モンカーのアルバム『Some Other Stuff』で共演している)にドラマーのジョー・チェンバースというラインナップだった。チェンバースは、これに続くショーターの3枚のアルバム、『The All Seeing Eye』『Adam’s Apple』『Schizophrenia』のレコーディングにも引き続き参加している。
『Etcetera』の冒頭に収録されたアルバム・タイトル曲は同時期にマイルス・クインテットで聴ける抽象的なポスト・バップのサウンドに近い。ここで特徴的なのは、反復されるサックスのモチーフで構成されたクラリオン風のテーマである。ショーターの奏でる簡潔なソロに続くハンコックのピアノ・ソロは、ブルースやバップの陳腐なフレーズから離れ、メロディやハーモニーの面で意外な展開を見せる。この曲の後半にはジョー・チェンバースの見せ場も用意されており、ダイナミックなパワーと繊細なリズムを織り交ぜたソロが披露されている。
この曲と好対照を成すのが、「Penelope」だ。これはショーターの優れたバラードのひとつであり、穏やかで哀愁を帯びている。そのゆっくりと曲がりくねるメロディは、美しくて魅惑的。これ以前に発表された「Speak No Evil」や、のちの「Nefertiti」(マイルス・デイヴィスとレコーディングしたアルバム)を思わせる曲調になっている。
似たような音楽的DNAを持つのが「Toy Tune」である。このほろ苦い抑制されたスウィング曲は、マクビーのウォーキング・ベースとチェンバースの歯切れの良いドラムスが原動力となっている。メイン・テーマが提示されたあとはショーターが長いソロをとるが、テーマ・メロディの雰囲気から大きく逸脱することはない。続いてソロをとるハンコックは才気あふれる即興演奏を繰り広げ、はっきりとしたメロディと遊び心あふれる非凡なフレーズを奏でていく。
■年を経るにつれ高まる評価
このアルバム唯一のカヴァー曲、ギル・エヴァンズの「Barracudas」は8分の6拍子で仕立て直されており、マクビーがかき鳴らすベースで幕を開ける(エヴァンズは1964年のアルバム『The Individualism Of Gil Evans』でこの曲を「Time Of The Barracudas」というタイトルでレコーディングしている。そちらのアルバムにはショーターも参加していた)。『Etcetera』では、同じ曲がカルテット編成で演奏されており、ショーターとハンコックが見事なソロを披露している。一方マクビーとチェンバースは、強烈なポリリズムで演奏を引っ張っている。
『Etcetera』の最後を締めくくるのは、アルバム最長のモード風の曲「Indian Song」である。これは、魅力的な4分の5拍子のグルーヴに乗ったショーターのオリジナル・ナンバーだった。マクビーが繰り返し弾くベースのモチーフに続き、チェンバースとハンコック、さらにはショーターが登場。ショーターは東洋風のメロディを3回繰り返してから、ソロで未知の領域を探り、ときおりメイン・テーマに戻ってくる。一方リズム・セクションはショーターの即興の流れに合わせて、演奏に起伏をつけていく。続いてハンコックのピアノが縦横無尽にソロを繰り広げ、それをチェンバースの優れたドラムスが支える。そのあいだもマクビーは同じベースラインを弾き続けるが、やがて演奏時間が9分を過ぎるころ、より自由な展開を見せる。そこから元のグルーヴに戻ると、メイン・テーマが再び演奏される。
2018年、85歳のウェイン・ショーターは権威あるケネディ・センター名誉賞を受賞し、ニュー・アルバム『Emanon』も評論家から絶賛された。そうした点をふまえれば、『Etcetera』の再発は実にタイムリーだと言える。作り上げた本人と同じように、このアルバムは年を経るごとに評価が高まっているのである。
Written By Charles Waring
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