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エリカ・バドゥ 「Next Lifetime」解説:黒人たちの過去・現在・未来を描いたMVの内容とは?
エリカ・バドゥのデビュー・アルバム『Baduizm』からの2枚目のシングルとなった「Next Lifetime」は、”去っていった人”と結ばれる可能性を輪廻転生に賭ける壮大な愛の物語である。
無限に一生を繰り返して恋愛ができるなら、現世で逸したチャンスに固執する意味があるだろうか? 映画のような同曲のミュージック・ビデオは、この考えをさらに膨らませた内容になっている。
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ミュージック・ビデオの内容
アフリカの村のような場所からそのビデオは始まる。エリカは年長の村人たちに挨拶をしながらカゴを運び、水を汲みにいった先で恋に落ちる。彼女はピート・ロック演じる村人に目を奪われるが、物欲しげに池の対岸へ視線を向けていると、タイミング悪く夫(当時の恋人であったアンドレ・3000が演じた)が幼い子どもを背負ってやってくる。
カメラがアンク十字のタトゥーに寄っていくと、生まれ変わって1968年に時代が移る。ブラック・パワー運動が最盛を迎える中、彼女は田舎の村で惜しくも逃した青年に出会うが、彼も生まれ変わって熱心な活動家になっている。今回こそ恋を成就させたふたりだが、またも運命のいたずらに翻弄される。失った恋を取り戻した彼女だったが、今度はメソッド・マン演じる人物に目を奪われ、再び恋い焦がれる日々に引き戻されてしまうのだ。
メソッド・マンが命の危機から彼女を救ったようにみえたところで、場面はまた次の時代・生涯へと移る。”マザーランド 3037″と名付けられたその場所で彼女の新たな恋人になっているのは、前の生涯での命の恩人である。
蛍光色が印象的なこの未来的な土地では、アフリカの民族儀式が行われており、バドゥはメソッド・マン演じる王に娶られた王女として姿を現す。だが宿命により、彼女はこの生涯でも別の恋人を見つけることになる。今度はアンドレ・3000がその相手で、ようやくふたりは元の鞘に収まるのだ。
教師として働いていたこともあるエリカ・バドゥは、ラヴ・ストーリーの枠組みを利用して黒人たちの過去・現在・未来に自らの身を置いた。このビデオは単にふたりの人間の恋愛を描いたものではなく、民族全体への愛を表現したものだ。その愛の裏には深く豊かな歴史があり、根底には”世界や生涯、そして共同体は絶えず移り変わり、やがて元の姿に戻る”という思想がある。
そんな同曲は1997年5月にラジオのR&B / ヒップホップ・チャートで1 位を獲得。現在でもファンに愛される1曲だが、それは何度生まれ変わっても同じだろう。
Written By Sam Armstrong
エリカ・バドゥ『Baduizm』
1997年2月11日発売
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