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ロブ・ゾンビ『Educated Horses』:サディスティックな喜びが浸透した1枚
2006年にリリースした『Educated Horses』に至るまでの間、自分自身が人生の岐路のようなところに立っていることに気付いたロブ・ゾンビ。現在しっかりと映画界でキャリアが確立されているが、2000年代が始まる頃、ロブ・ゾンビは自身の映画界での将来について公然と語っていた。音楽の世界が彼の頭の中から遠ざかることは一度もなかったものの、これまで以上に、彼は2つの試みに注意を払っているようだった。
しかし身の毛もよだつ2005年のホラー映画『デビルズ・リジェクト~マーダー・ライド・ショー2(原題:The Devil’s Rejects)』が完成するやいなや、今度は彼のバンド (現在は元マリリン・マンソンのギタリストだったジョン5が加入) と共にツアーへと発ち、ロブ・ゾンビは音楽的意欲を大いに取り戻し、『Educated Horses』の作品へ向けての曲作りが本当に始まった。
ロサンゼルスのチョップ・ショップ・スタジオでレコーディングを行ったロブ・ゾンビとバンドは、アルバム用の曲を十分すぎるほど大量に蓄えた。それは、今までアルバムに必要な量のみを書く傾向があったロブ・ゾンビ自身にも、思いも寄らないほどのクリエイティヴな復活だった。
過剰な生産力のみならず、その活性化は音楽的アプローチの変化へとつながる。ロブ・ゾンビのリリース作品を特徴づけてきた豊富なインダストリアル、エレクトロニック要素をむき出しにしながら、『Educated Horses』は大騒ぎを起こすことが最も得意な騒々しいバンドのオーガニックなサウンドを生み出している。このアルバム・ジャケットのアートワークもまたこれを反映している。彼の他のジャケットに見られるハイ・コントラストなカオスさとはまるで異なり、『Educated Horses』はかつてないほどにモンスターを人間らしくしたメイクアップなしのロブ・ゾンビの写真を使用している。
当時のエモ系や騒々しいメタル・コアの中で、ロブ・ゾンビがどのように当てはまるかは謎に見えたが、彼はアプローチを基本に戻し、余計なものを省き (まあ、今までに比べて少なめというか) 人としてのロブ・ゾンビを表現することで、『Educated Horses』は堂々とした作品となった。そして当時の音楽を対象にしなかったことによって、今日までその姿勢を維持できているのである。
このレコードの始まりにあるスキャンダルと自慢を歌った「American Witch」とリード・シングルの「Foxy Foxy」は、これまでのロブ・ゾンビの作品よりも、N*E*R*Dの「Lapdance」の方がより多くの共通点があるメンバーの尖ったギターは、ロブ・ゾンビと仲間の最良のストリップ・クラブのアンセムであり、本領を発揮している。そして「Let It All Bleed Out」では、スラッシュ・メタルを取り入れ、「The Devil’s Rejects」(映画後に作られたこの曲はサウンドトラックには未収録)は、不吉なカントリー調の音から始まり、ロブ・ゾンビならではの、ならず者という肩書きを付けられたキャラクターを語る。
とはいえ、その間ずっと漂う雰囲気は楽しそうだ。このアルバム作りがいかに気楽で楽しいものだったかロブ・ゾンビはコメントするかもしれないが、それを認識するために彼にそう言わせる必要はない。「The Scorpion Sleeps」は、デペッシュ・モードが最も大げさに騒々しく喜びを表現した時を彷彿とさせるようにサウンドが爆発し、ダークな感じで締める最後の一曲「Lords Of Salem」では、ひとつひとつの言葉に傾き、すべてのグルーヴに無理なく乗っており、それは20年近く続けているこの男にしかできないことだ。ロブ・ゾンビのレコードは常に世の終わりを告げる音のように聴こえる。特にこの世界滅亡の日は、両手を広げてすべてお見通しの笑顔と共に迎えられるだろう。
このアルバムのリリース、そして彼の初のライヴ・アルバム『Zombie Live』へと繋げたツアーの後、レイバー・デー(労働者の日)の興行成績の記録をたった一年あまりで破ったジョン・カーペンターによるジャンルを定義した『ハロウィン(原題:Halloween)』のリメイク版と共に、ロブ・ゾンビは映画を中心とした活動へと再び戻った。次のスタジオ・レコード『Hellbilly Deluxe 2』は、2010年まで発売されなかった。ロブ・ゾンビは音楽ではなく、映画を積極的に選んだかのように書かれていたが、『Educated Horses』の純粋なエネルギーと無謀さを受けて、彼の監督としての試みに集中するために一息つく余裕を与えている音楽と同じぐらい創造力に満たされている可能性がはるかに高い。その上、こんなにも楽しいことのあとに、何を急ぐ必要があるだろうか。
サディスティックな喜びが浸透していないロブ・ゾンビのレコードなど存在しない。しかしもしあなたが最も純粋な形で彼の有能さをとらえているものを追い求めているのならば、『Educated Horses』があなたの探している一枚となるだろう。
Written By Terry Beezer
『Educated Horses』