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クレイロ新作アルバム『Charm』解説:ベッドルーム・ミュージシャンからの進化と成熟

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2018年当時、Lo-Fiベッドルーム・ポップを代表するアーティストとして最も注目すべき新人アーティストとして名が挙がり、今では現代の米インディー・ポップ界を代表する存在となったアメリカ生まれのシンガー・ソングライター/マルチプレイヤー/プロデューサー、クレイロ(Clairo)。

2019年に発表されたデビュー・アルバム『Immunity』には元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタムが共同プロデューサーとして参加、2021年リリースの2nd『Sling』では、ジャック・アントノフと共同プロデュースしたことが話題を呼んだ。

そしてこの度、前作より約3年振りとなる3rdアルバム『Charm』が2024年7月12日にリリース。自身初の日本盤CDも発売となる今作について、音楽ライターの松永 尚久さんに解説頂きました。

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Clairo – Sexy to Someone

 

最新作までの軌跡

アンニュイな雰囲気を漂わせたヴォーカルで、誰かが望む<可愛い女の子>になるべきか葛藤する心境を表現した、2017年リリースの楽曲「Pretty Girl」がバイラル・ヒット。自宅でリモートにて撮影したと思われる、ありのままの姿を描いたミュージック・ビデオも、1億再生超えを果たすなど、現代のベッドルーム・ポップの代表的な存在として注目を集めている、アメリカ出身のシンガー・ソングライター/マルチ・プレイヤー/プロデューサーのクレイロ(Clairo)。

Clairo – Pretty Girl

その後、タイラー・ザ・クリエイターやデュア・リパの北米ツアーに帯同し、さらに知名度をあげ、2019年には元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタム・バドマングリをプロデューサーに迎えたデビュー・アルバム『Immunity』をリリース。

このアルバムに収録された、長年の友人に恋をしていることを気づいた瞬間を、インディー・ロック調のサウンドで表現した「Sofia」も、ソーシャルで人気に火がつき、全米ロック・チャートで初のトップ10入り、また7億以上の再生数を記録するなど大ヒットを記録した。

Clairo – Sofia

2021年にリリースされた2nd『Sling』では、ブリーチャーズとして活動するかたわら、テイラー・スウィフトの楽曲を多数手がけるプロデューサーとしても知られるジャック・アントノフらをプロデューサーに、ロードがバック・ヴォーカルに迎えて制作。

丁寧に磨きあげられたフォーキーな楽曲の数々は、数多くのメディアで年間ベスト・アルバムにピックアップされ、全米アルバム・チャートでトップ20入りを果たすなど、着実に人気と実力が評価されている。

Clairo – Amoeba

 

新作『Charm』の発売まで

3作目のスタジオ・アルバムとなる『Charm』では、さらにミュージシャンとして進化、成熟した姿を届ける、聴きごたえのある仕上がりとなっている。

しかし、この作品が完成するまでの彼女は決して順風満帆ではなかった様子だ。前作を携えたツアーでは、機材トラブルの影響で一時的な聴覚障害になったり、ステージ上でパニック障害に陥ってしまうなど、人前で音楽パフォーマンスをすることに対してナーヴァスになっている状況が続いていたよう。

その後、ツアーをこなし、ガザ地区の救援活動を行っている「国境なき医師団」へ寄付するためデモ音源「Lavender」を公開しながら、2023年秋ころから楽曲制作をスタートしたことを報告。さらに2024年に入ると自身のインスタグラムにて「たぶん年内に(アルバムを発表できる)」と投稿し、5月にアートワークや収録曲、リード曲「Sexy to Someone」のリリースとともに、『Charm』の発売をアナウンスしたのだった。

 

アルバムの制作について

NYのクイーンズにあるDiamond Mine RecordingとAllaire Studiosにて、ノラ・ジョーンズやシャロン・ジョーンズ、ザ・ブラック・キーズなどと仕事をしたことがあるプロデューサーのレオン・ミッチェルズを共同プロデューサーに迎え制作されたアルバム。

今回は、1970年代のジャズ、サイケデリック・フォークやソウルにインスパイアを受け、徹底的にアナログ・レコーディングにこだわって取り組んだ作品だという。ゆえに、アルバム全体は、前作にあったフォーキーな雰囲気を残しながらも、より流麗かつ甘美なグルーヴが流れている印象。

また、デビュー盤にあったような耳に残るキャッチーなフレーズが多数散りばめられており、それにのるクレイロのヴォーカルは、アルバム・ジャケットで我々に向けるまなざしに通じる艶やか(セクシー)なたたずまいだ。

歌詞に関しても<万人に伝わらなくていい、特定の誰かにセクシー(好き)だと感じてもらえたら>という思いを、軽快でジャジーなバンド・サウンドと、シンセサイザーのレトロ・フィーチャーな音色をミックスして表現した先行曲「Sexy to Someone」。

Clairo – Sexy to Someone

尖った心をそっと和らげてくれそうなドリーミーなアコースティック・サウンドにのせて<誰かに傷つけられることがわかっているのならば、時に孤独を選んだっていいと思う>と伝えるアルバムのオープニング・トラック「Nomad」など、自分らしい生き方を確立しているというか、どのようにしたら自分が心地よい暮らしができるのか?という術を、確立している姿がうかがえるのだ。

ゆえに、他人にどう評価されようとも、自分が選んだ生き方を追求していくという強さもにじみ出ているような気がする。そんなクレイロのしなやかかつ芯の強さを感じる歌声から、リスナーは自身の奥底にあるチャーム・ポイント(魅力)、それを活かすために人生において大切にすべきするものが、自然に浮き彫りになってくるのではないだろうか。

Clairo – Nomad

 

限られた空間のなかで好きな音楽を追求するベッドルーム・ミュージシャンから、さまざまな時代の空気、人々の感性を取り入れながら自分らしさを確立していくミュージシャン(もしくは人間)へと変化したクレイロの現在を感じることができる、全11曲収録のアルバム『Charm』。

このアルバムを携えて、9月にはLAとNYにてレジデンシャル公演を敢行する予定という(チケットは瞬時にソールドアウト)。残念ながら日本を含むワールド・ツアーの詳細は届いていないものの、ライヴではバンド・メンバーと優美なセッションを楽しめそうな予感がして、足を運びたい気分にさせる。

また、今後は人生のつづれ織りを丁寧に表現していくミュージシャンとして、息の長い活動をしていきそうな雰囲気(決意)も伝わってきた。一時的に消費される<ポップ・ミュージック>ではなく、時間を超えて愛される普遍的な<グッド・ミュージック>を、クレイロは多く届けていくことになるのだろう。

Written By 松永 尚久



クレイロ『Charm』
2024年7月12日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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