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チャンバワンバ「Tubthumping」: 副首相に氷水をぶっかけたアナーキーバンドによるヒット曲の裏話
チャンバワンバ(Chumbawamba)と「Tubthumping」(タブサンピング)ほど、ヒットと無縁そうなバンドと曲は他にあっただろうか? セックス・ピストルズやクラッシュと言ったUKのアーティストに影響を受けたチャンバワンバは、レコーディング・スタジオの内外で資本主義的なルールに抵抗するアナーキスト・バンドだった。
パンク・ムーブメントの一翼を担った彼らは、英国の鉱山労働者のストライキやピケ、反戦イベントなどでベネフィット・ライヴを行なった。デビュー・アルバム『Pictures of Starving Children Sell Records』は、1985年に開催された一大チャリティー・イベント「ライヴ・エイド」に対抗して、1986年にリリースされた。
とはいえ、チャンバワンバの転機となったのは1997年に8枚目のアルバム『Tubthumper』を出したときだった。EMIと契約したあとのメジャー・デビュー作となったこのアルバムは、第1弾シングル「Tubthumping」で海外でも広く知られるようになった。
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全てを変えた大ヒット曲
スムーズなポップス風の歌詞、ファンキーなホーン、切り裂くようなギター、そしてアンセムのようなサビが融合した「Tubthumping」は、記憶に残るヒット曲としての要素をすべて備えていた。この曲名はUKのスラングで、“積極的な政治的抗議活動”を意味している。
このバンドのギタリストのボフ・ウェイリーと彼の妻は、酔っ払った隣人が「Danny Boy」を歌いながら千鳥足で玄関のドアを開けようと悪戦苦闘しているのを見たときにこの曲を思いついた。最終的には、その隣人は家の中に入ることができた。こうして、この曲は忍耐力をテーマとしたものになった。
フロントマンのダンスタン・ブルースは2016年、ガーディアン紙のインタビューで語っている。
「この曲がすべてを変えたんだ。“Tubthumping”の前は、うちのバンドは混乱状態にあると感じていた。方向性がなく、バラバラだった。この曲は俺たちの最も政治的な曲でもないし、最高傑作でもない。けれど、俺たちを再びひとつにしてくれた。この曲は俺たち自身がテーマになっている。同じ階級に属する人間として、そして同じバンドに所属する人間として、自分たちのことを歌ったんだ。これがどれくらいヒットするかなんて、自分たちもわかっていなかった。そこがとても良かったよ」
「Tubthumping」はチャンバワンバにとって最大のヒット曲となり、全英チャートと全米チャートの両方で最高2位を記録した。この成功により、この曲が収録されたアルバム『Tubthumper』はビルボード誌のアルバム・チャートで最高3位に到達し、3xプラチナ・ディスクに認定された。
1998年のブリット・アワードでは、リバプール港湾労働者のストライキに連帯感を示すため、ドラマーのダンバート・ノバコンがある行動に出た。英国副首相だったジョン・プレスコットの頭にバケツの水を浴びせかけたのである。
“一発屋”が思うヒット曲への思う
チャンバワンバはその後さらに6枚のアルバムをリリースし、2010年の14枚目のアルバム『ABCDEFG』が最後の作品となった。それから2年後、このバンドは解散を発表し、30年の歴史に幕を閉じることになった。
“一発屋”に分類されてはいるものの、彼らは「Tubthumping」が自分たちのキャリアに大きく貢献したと考え、この曲に感謝している。最近ダンスタン・ブルースはチャンバワンバのドキュメンタリーを完成させ、「5年間かけて作ったこの映画は、多くの疑問に答えてくれるだろう」と語った。2004年にバンドを脱退した彼は、自らの映画・ビデオ制作会社ダンディ・フィルムズを設立している。
一方ギターのウェイリーはガーディアン紙のインタビューで次のように語っている。
「99%の人にとって、俺たちはあの1曲だけの一発屋だった。けれど残り1%の人たちは、アルバムの他の曲を聴いて、もっと聴きたいと思ってくれる。そういう人は必ずいる。俺は今でも“Tubthumping”がとても好きだ。恥ずかしい気持ちなんか全然ない。自分たちの曲がヒットすることを嫌うバンドもあるけれど、俺は“偉そうな口を利くんじゃねえ!”と思うだけだ。観客がいなければ、アーティスティックな活動をやっていても意味がないからね」
Written By Bianca Gracie
チャンバワンバ『Tubthumper』
1997年9月1日発売
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