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ギャング・スターのベスト・ソング20:グールーとDJプレミアによる必聴のヒップホップ・ナンバー
今は亡きギャング・スター(Gang Starr)のフロントマン、グールー(Guru)は天賦の声を持っていた。彼のモノトーンの声は唯一無二で人の心に響き、人の心を掴んだ。抑揚の無さが一言一句に重みを生んでいる彼の声は、シリアスでありながらメロウにも聴こえる。彼の冷ややかさは僧侶のように揺るぎない。
自分自身を深く理解した彼は、苦労して得た知恵を次の世代に伝承したいと考えた。彼の詞において黒人は王族であり革命家でもある。いかに社会や政府が彼らを虐げ、投獄したとしても心身ともに尊重されるべき存在なのだ。グールーの声と取り上げる題材が相まって、彼の詞は裁判に臨む男のような切迫感を感じさせる。
ギャング・スターの名曲において、彼が説教くさかったり物知りぶったりしていることはない。彼は愚かな行為や不遜な行為、ボディガードを雇うようなまやかしのMCたちを容認しなかっただけだ。自分が感じたフラストレーションを詞にするときも、彼は前向きだった。
それでも、グールーの声と詞は、方程式の一方でしかない。グールーの語りに音楽をつけていたのはDJプレミア(DJ Premier)だ。彼のビートは、ソウルやジャズ、ファンクなどあらゆるジャンルを融合させた革新的なものだった。彼はサウンドの断片で、ニューヨークの地上から宙に浮いて行くような世界を作り出す。ドラムには地下鉄のドアのようなキレがあり、サンプラーの音は荒削りだったり威厳に満ちていたりと振り幅がある。プレミアはあまりに滑らかで正確で拍通りにスクラッチしてビートを刻むため、聴き手は人間の手で作られたものなのか疑ってしまうほどだ。
グールーとDJプレミアはラップ・デュオの究極形を作り上げたと言っていい。ふたりはDJとラッパーという一般的な組み合わせの形態を取りながら、新たな時代に合わせた独自の方法論を完成させていった。
デモ・テープに近いアルバムだった1989年の『No More Mr. Nice Guy』から2003年の『The Ownerz』まで、DJプレミアによる音楽性はアルバムによって大きく変わる。グールーの声にはいつもキレがあり、彼の詞は作品を追うごとに賢明さを増していった。ギャング・スターの作品がプラチナ・アルバムに認定されることはなかったが、『Daily Operation』(1992年)、『Hard to Earn』(1994年)、そして『Moment of Truth』(1998年)の3作に収録された名曲群の価値は、いかなる記録でも測ることはできない。
ふたりは『The Owners』の発表後に袂を分かち、再結成を果たすことがないままグールーはこの世を去った。それでもグールーとDJプレミアのシナジーは死をもっても消えることがないほど強いものだった。
プレミアはグールーの声を収めた未発表音源を使ってギャング・スターの新曲を制作し、2019年に『One of the Best Yet』をリリース。ボストン出身のラッパーとテキサス出身のプロデューサー/DJは、ニューヨークをはじめ世界中でふたりの作り上げてきたラップのサウンドを再び世界に響かせたのだ。
下記の紹介から漏れているギャング・スターの名曲があったなら、是非とも下方のコメント欄を通じ、教えて下さい。
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ヒット曲
1. Mass Appeal
ギャング・スターがシングル・チャートを制すことはなかった。彼らは終始アルバム重視のグループだったといえるだろう。そのアルバムでは詞をくまなく味わい、すべてのサンプル音源を分析するように注意深く聴くことが求められる。
皮肉にも彼らの最大のヒット・シングルは、利益に目が眩んで作品の完成度を妥協するラッパーたちを批判した楽曲だった。その曲「Mass Appeal」は最高位67位を記録した。この楽曲についてDJプレミアはローリング・ストーン誌の取材にこう語っている。
「ラジオは水で薄めたような雑なモノで溢れている。だからおれたちがそれを茶化したレコードを作るんだ」
2. Skills / 3. You Know My Steez
DJプレミアはジャズ・ギタリストのヴィック・ジュリスのレコードから数小節を拝借し、グールーのヴォーカルを引き立てる魅力的なメロディを作り上げた。グールーは自身のラップ技術を詩的に称えるようになり、そうした比喩的技法をほかのヒット・シングルにも応用した。
例えば「Skills」と「You Know My Steez」は正反対のように見えて実は紙一重の楽曲だ。前者は賑やかで仰々しいサウンドで、後者は落ち着いたトラックだが詞には共通点がある。
4. Full Clip
「Skills」と「You Know My Steez」からに1年遅れて発表された「Full Clip」でも、「彼が触れたすべてのマイクには (every mic he touches) 天の恵みが訪れる」とグールーは自身のラップ技術を称えるラップしてみせている。
5. DWYCK feat. Nice & Smooth
「DWYCK」も同じく自らのラップ・スキルを自認する内容だが、そのトーンはギャング・スターの作品の中でもかなり楽しげだ。同曲では、普段は詞をあらかじめ準備しておくグールーがヴァース全体をフリースタイルでラップしている。
彼は「eenie meenie miney moe」と言葉遊びのフレーズを繰り返し、レモネードの根強い人気について意見を述べたかと思えば自身を米作家のラングストン・ヒューズと比較する。
他方、ゲストのグレッグ・ナイスとスムース・Bの雄弁かつ笑えるラップも今なお人気があり、ラン・ザ・ジュエルズは2020年に発表した「Ooh La La」にナイスの詞の一部を引用している。
真理の追究
6. Just to Get a Rep / 7. Code of the Streets
パーティ・ミュージックとして生まれたラップだが、間もなくその目的は真理を暴くことに移り変わる。ギャング・スターはラップの伝統に忠実でありながら欺瞞を許さない自らの姿勢を誇っていた。「Just to Get a Rep」や「Code of the Streets」といったトラックでは、経済的に困窮した地区の恐ろしい生の現実が描かれる。
8. Conspiracy
1992年リリースの「Conspiracy」は「白さに支配された世界 / in a world dominated by whiteness」で黒人たちの命を幾度も奪ってきた組織的な人種差別をあらゆる側面から見事に描いている。グールーは簡潔な言葉で、共通テストに垣間見える黒人への偏見やその少年犯罪への影響、そして黒人と暴力性を結び付けようとするメディアの傾向を鋭く指摘した。
9. Royalty feat. K-Ci Hailey, Jojo Hailey
グールーは「Royalty」などではメディアの差別的な言説にも対抗している。同曲でグールーは、黒人たちが気高い血統であることを思い出させるとともに、生まれ持った人間としての価値を再認識させる。
10. Moment of Truth
「Moment of Truth」では「誰にでも どこにいても / everybody everywhere」と襲ってくる存在に関する問いを取り上げている。「なぜいい人が苦しむのだろう? / Why do bad things happen to good people?」という一節もその一例である。
11. Above the Clouds
イントロでケネディ大統領がライス大学でおこなった名スピーチをサンプリングしたこの曲「Above The Clouds」は、十字軍時代のテンプル騎士団やイスラム教、仏教の教えなどをラップしながら、黒人への警察の不当な扱いや、10%の富裕層が世界を牛耳ることを比喩をもちいてラップしている。
12. JFK 2 LAX
ニューヨークからL.A.に移動しようとしている最中に銃の不法所持容疑で逮捕されたグールーがその体験をラップするのが「JFK 2 LAX」だ。当時のニューヨークではスタジオ作業している時でも、強盗から身を守るために拳銃を所持していることが普通だった。一度家に戻ったグールーは、持っていくスーツケースを間違えて銃が入っているものを持っていき空港でそれが発覚されて、逮捕されたのだった。
愛と喪失
13. Lovesick
その声とは裏腹にグールーは繊細な人物だった。ギャング・スターのほとんどのアルバムには、恋愛関係の機微や複雑さを取り上げた楽曲が少なくとも1曲含まれている。『Step In The Arena』に収録されている「Lovesick」は、嫉妬から生じる恋人の不安を和らげようとするうちに悪化していく関係を、共感しやすい赤裸々な言葉で描いている。
14. Ex-Girl to Next Girl
「Ex-Girl to Next Girl」は「Lovesick」の続編ともいえるトラックだ。重く響くドラムとスローなファンク・サウンドに乗せて、グールーはその嫉妬や喧嘩が作られたものだったことに気づく。元恋人は彼の自信を失わせてお金を巻き上げる寸法だったのだ。最終的に、彼は前を向いて歩き出す。
15. She Knows What She Wantz
一方で1998年のアルバム『Moment Of Truth』収録楽曲の「She Knows What She Wantz」では、「Ex-Girl to Next Girl」で彼が別れた、お金と地位に目が無い女性がじっくりと分析されている。年月とアルバムを重ねるごとに賢さを増したグールーは、自分の心と懐を守れる男に成長していったのだ。
個人的な怒り
16. Step in the Arena / 17. Take a Rest
現実のものであれ架空のものであれ、自身の敵と戦うというのがヒップホップの基本原理だ。グールーとDJプレミアもまた、強烈な攻撃をすることがしばしばあった。
アルバム『Step In The Arena』以前からそうした楽曲はあったが、同作には特に攻撃性の高いものがいくつか含まれている。痛烈な表題曲「Step In The Arena」や「Take a Rest」では、ボム・スクワッドの影響を感じさせるDJプレミアのトラックに乗せて、グールーが「ワック・ラッパー年鑑 (Wack Rappers Almanac」に目を通したり、「能無しども (true zero)」を戒めたりしてみせる。
18. Work
その後もキャリアを通してあらゆる標的に狙いを定めてきたグールーは、徐々に敵への冷徹さを増していった。「Work」を聴くと、彼がアプローチを更に洗練させ、非難の表現の幅を広げたことがよくわかる。
この曲で彼は、自身の歌詞やラップ界での動きをギャングの親玉になぞらえている。ギャングが敵方の組員を狙うように、彼は非難を浴びせたり契約を交わしたりするのに最適なタイミングが来るまで身を潜めるのだ。また、グールーは相手を一度滅ぼすだけでは気が済まない。彼は言葉の猛攻であまりに大きな傷を負わせて、二度とラップができないように追いやろうとしていた。
19. Take It Personal
ギャング・スターの名曲においてはマイクを汚すことはもちろん、仲間を汚すことも決して許されない。1992年作『Daily Operation』収録の「Take It Personal」では、私生活であれ仕事であれ、同グループを中傷した者への報復が宣言されている。脳に響くドラムとダークなトラックに乗せて、グールーは実世界での復讐をレコードで果たすことを誓う。
20. Family & Loyalty feat. J. Cole
また、グールーの死後に発表された『One of the Best Yet.』からの最初のシングル「Family & Loyalty」で彼ら (そしてゲストのJ.コール) は、タイトルになっている”家族と忠誠心”をいつまでも大切にすべき貴重なものとして、ダイヤモンドになぞらえている。
そこではウータン・クランの「C.R.E.A.M.」やエリックB&ラキムの「My Melody」のようなラップ・ソングも、守るべき大切なものとして同列に扱われている。それがラップや家族に誠実だった (一部の) 仲間に対するグールーのリスペクトの証だったのだ。
Written By Jim Bell
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