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ブルーノートのアートワーク:カメラマンのフランシス・ウルフとデザイナーのリード・マイルスの素晴らしき仕事
ブルーノート・レコードの創設者、アルフレッド・ライオンは1987年2月2日、78歳でこの世を去った。彼は至高のジャズ・レコードをリリースするという信念をもって、1939年にブルー・ノートを立ち上げた。そんな彼の思いは当時に同社が発表したプレス・リリースに表れている。
「ブルー・ノート・レコードはひとえに、妥協のないホット・ジャズやスウィングを世に届けるべく生まれたといえます。正真正銘の音楽的な情感を伝える演奏だけが、本物の表現なのです。時と場合に応じたその重要性が、音楽に伝統や形式、そしてそれを生かし続けるリスナーをもたらすのです。つまりホット・ジャズは表現であり、コミュニケーションであり、社会を映し出す音楽なのです。ブルーノート・レコードは売上や話題ばかりを求めるまやかしのそれとは異なり、ジャズの衝動性を見出すことを目指すレーベルです」。
アルフレッド・ライオンと彼のブルーノートがこの公約を果たすに至らなかったと考えるジャズ・ファンはいないだろう。1930年代前半にナチス統治下のドイツから逃れたアルフレッド・ライオンは、第二次世界大戦が勃発した数週間後にある昔馴染みの友人を同じくドイツから亡命するための手助けしている。その友人とは名カメラマンのフランシス・ウルフ(下写真左側)で、彼もまたアルフレッド・ライオン(同右側)と同じくユダヤ人であった。このふたりがブルーノートのブランドを作り上げたのである。フランシス・ウルフは1971年3月8日にニューヨークで亡くなっている。彼がこの世に残した大きな功績は、たったひとりで”ジャズ写真”のあり方を覆したことだ。多くがひとつの光源のみを使って撮られた彼の白黒写真は、数えきれないほどのレコードのジャケットにあしらわれ、ブルーノートらしさを形作るひとつの要素になった。
アルフレッド・ライオンが亡くなった6年後、ブルーノートへの確固たる評価の獲得に貢献したもうひとりの立役者が逝去している。だが彼はアルフレッド・ライオンやフランシス・ウルフと違い、ジャズ愛好家ではなかった。彼の名はリード・マイルス、デザイナーだ。彼はクラシック音楽を好んで聴いていたが、そのデザインの才能はブルーノートの名作になくてはならないものだった。
ブルーノートのレコードのデザインを始めたとき、リード・マイルスは28歳だった。その頃ジョン・ハーマンセイダーと組んでエスクワイア誌のデザインを担当していたリード・マイルスは1955年の後半、最初にハンク・モブレー・カルテッドの10インチLPのジャケットを共同で制作した。一方、彼がひとりで手掛けたのは数か月後にリリースされたシドニー・ベシェのアルバムだったが、これはモダンと呼ぶにはほど遠い作品だった。
皮肉にも、リード・マイルス自身はジャズ・ファンでなかったにも関わらず、ブルーノートのアルバム・ジャケットはモダン・ジャズをはじめとするレコードの基準となった。だがジャズから離れていたことが彼の強みになり、アルバムの題名や音楽の雰囲気やレコーディングなど不必要な情報にとらわれないデザインを生むことができたのかもしれない。もちろん、それはフランシス・ウルフのすばらしい写真があってこそのことだった。
リード・マイルスは写真にも興味を示し、フランシス・ウルフの写真がイメージと合わないときは自分でも写真を撮るようになっていった。リード・マイルスが自分の写真を大胆に変えてしまうことは、フランシス・ウルフを苛立たせることもあったようだ。アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの『Like Someone In Love』やエリック・ドルフィーの『Out To Lunch』、ハーヴィー・ハンコックの『Takin’ Off』といったアルバムには、リード・マイルスが撮影した写真が使われている(ここに挙げたそれ以外のジャケット写真はフランシス・ウルフが撮影したものだ)。
それでもリード・マイルスの報酬はアルバム1枚につき50ドル程度と決して高額ではとはいえず、定職ではないにもかかわらずある土曜日1日で数枚のデザインを制作しなければならないこともあった。彼は60年代に入ってからはほとんどすべてのブルーノート作品を自分で手掛けているが、当時は手に負えない仕事を友人たちに任せることもあった。そんな仕事に飢えた芸術家たちの中には、若きアンディ・ウォーホルも含まれていた。アンディ・ウォーホルはケニー・バレルの3作とジョニー・グリフィンの1作のデザインをしている。後年、リード・マイルスは写真を多く撮るようになっていき、彼の写真はボブ・ディランやジャクソンズ、ニール・ダイアモンド、チープ・トリックらのアルバムに使用されている。
アルフレッド・ライオンは以下のように語っている。「僕はモダンなデザインが好きなんだ。初期のブルーノート作品はどれもモダンな仕上がりだ。リードがそのほとんどを作ってくれたんだよ」。
Written By Richard Havers
Hank Mobley Quartet (1955)
Sidney Bechet – Jazz Classics (1955)
John Coltrane – Blue Train (1957)
Jimmy Smith – Groovin’ At Small’s Paradise (1957)
Sonny Clark – Cool Struttin’ (1957)
Art Blakey – Moanin’(1958)
Lou Donaldson LD+3 (1959)
Sonny Red – Out of the Blue (1960)
Art Taylor – Shades of Red (1960)
Jackie McLean – Let Freedom Ring (1962)
Dexter Gordon – Go! (1962)
Freddie Hubbard – Hub Tones (1962)
Kenny Burrell – Midnight Blue (1963)
Donald Byrd – A New Perspective (1963)
Horace Parlan – Happy Frame of Mind (1963)
Joe Henderson – Page One (1963)
Dexter Gordon – Our Pan in Paris (1963)
Herbie Hancock – Inventions & Dimensions (1963)
Eric Dolphy – Out To Lunch (1964)
Joe Henderson – In and out (1964)
Andrew Hill – Point of Departure (1964)
Lee Morgan – Search Of A New Land (1964)
Larry Young – Unity (1965)
Cecil Taylor – Unit Structures (1966)
Ornette Coleman – at the Golden Circle (1965)
Miles Davis ― Miles Davis Vol.2(1955)
Art Blakey’s A Night At Birdland (1954)
Clifford Brown – Memorial Album (1956)
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