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アリアナ・グランデ『Dangerous Woman』: どうやって“ポップな女の子”のイメージから進化したのか
アリアナ・グランデ(Ariana Grande)のすべてのアルバム・ジャケットには本人の写真が使用されており、そこにそれぞれの作品の意図が描写されている。『Dangerous Woman』では彼女のトレードマークと言えるポニーテールで若々しい陽気さを伝えながら、黒いラテックス製のバニー・マスクでその子供っぽい表面の下には挑発的な影が潜んでいることもほのめかす。
自身3作目となるこのアルバムでは、如何なる音楽スタイルやサウンドをも革新的なかたちに解釈する優れた能力を発揮しつつ、彼女のより官能的な一面を披露している。
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2016年5月20日に発売された『Dangerous Woman』は、前作『My Everything』が中断していたところから再開しているような続編とも言える内容で、多くのダンス・ヒットを収録し、バラードを重視していた初期の頃からより遠ざかっている。『My Everything』に収録された「You Don’t Know Me」ではクールなバック・トラックに合わせて「写真に写ってる女の子は私の一部にしか過ぎない」と彼女は歌っていた。
しかしながらサード・アルバムは『Dangerous Woman』というそのタイトルだけでもアリアナ・グランデの芸術性が新たな成長を遂げたことを象徴している。サウンド面においてもその成長は顕著で、最初の2作品『Yours Truly』と『My Everything』のレトロなR&B要素を盛り込みながらも、よりエレクトロ・ポップなサウンドを探求し、それは後の彼女のキャリアを形作っていくものとなる。
新たな”デンジャラス”なテリトリーへ
アルバム『Dangerous Woman』の到来は、プロモーションを兼ねたファースト・シングル「Focus」が2015年10月にリリースされたことで告げられた。「Focus」はアリアナ・グランデの2014年のスマッシュヒット「Problem」と同じくホルンを多用したアップビートな曲調で、「Problem」が「Focus」の御膳立てをしたとも言えるだろう。アリアナ・グランデは少し色っぽく、リスナーたちに「focus on me / 私に集中して」と促す。
その5ヶ月後にリリースされたアルバムのタイトル・トラック「Dangerous Woman」は、「Focus」に比べてムード感溢れる領域に踏み込んでいる。エレキ・ギターに活気づけられ、「あなたの何かが私を危険な女のような気持ちにさせる!」と繰り返し歌う。
アリアナ・グランデがアリーナ級のシンガロング・ソングを届けてくれるのはわかっていたことで、「どんな女の子もああなりたいと思ってる/心の中は本当は悪い女の子」とサビで歌うこのスロージャムは80年代を代表するパワーバラードを彷彿とさせる。
その反対に「Be Alright」は、「Dangerous Woman」のスローなテンポと官能的な雰囲気とは全く異なる要素を持っている。シカゴのディープ・ハウスを思わせるトラックはLGBTQコミュニティを祝うアンセムとしてシングル・リリースされた。
情熱的なコラボレーション
メインストリームで人気を集めるトラップR&Bに挑戦し、1ヶ月後にはリル・ウェインをフィーチャリングした誘惑的な「Let Me Love You」をリリース。それに続いて完璧なダンス・ポップ「Into You」をリリースし、その頃には確実に2016年の夏を席巻する準備が整っていた。
ドスドスと響くEDMベースラインのせて、愛について宣言する「Into You」では、アリアナ・グランデとヒットメーカーのマックス・マーティンが本領を発揮している。
彼女の吐息混じりのファルセットが重厚なビート上を浮遊するこの曲は、脳裏から離れない、中毒性の高い楽曲の典型的な要素を持ち合わせており、アルバムに先駆けた最後のシングルとしてリリースされたレトロ・ポップのアップタウン・ファンク「Greedy」は、滑らかなベースラインに乗せた彼女の情熱的なヴォーカルが特徴的である。
アルバム『Dangerous Woman』はスウィング・ドゥーワップ調のバラード「Moonlight」で始まり、コアファンたちが喜びそうな「Leave Me Lonely」では久々に公の場に登場した伝説的なシンガー、メイシー・グレイをフィーチャリング。ドラマチックに展開する「Leave Me Lonely」はニーナ・シモンを思い起こさせる演出で届けられた。
現代最高のポップとヒップホップとのコラボ
アルバムのテーマに沿って、ヒップホップ界のお下品クイーンであるニッキー・ミナージュの助けをかり、アリアナ・グランデは“大人な”アンセム「Side To Side」を披露する。彼女のように子供スターからポップ・ディーヴァへと転身した多くの前例のように、アリアナ・グランデもまた、意識的に“大人な”自分へと進化しながら、同時にその領域に存在するお決まりのありふれたものを回避している。
現代最高のポップとヒップホップとのコラボレーションの一つで、レゲエのリズムと性的なほのめかし満載の「Side To Side」は、面白いほどに人々を熱狂させたソウルサイクルの映像とダンスフロアでのトレンドを取り入れたサウンドとで、商業的な成功を手に入れた。
“ボディ・トークをしよう”とビデオの中で歌うオリビア・ニュートン・ジョンの伝説的楽曲「Physical」のように、アリアナ・グランデとニッキー・ミナージュの有酸素デュエットはチャートの駆け上がり、全米シングル・チャートで4位にラインクインした。
「Side To Side」に続いては、フューチャーとコラボレーションした「Everyday」をリリース。トラップから影響を受けたポップ・スタイルがメインストリームを牽引していく中で、「Everyday」は、その勢いを加速させる手伝いをした。続くトラップ寄りの作品『Sweetener』と『thank u, next』への道を開いたと言えるだろう。
確立したポップをより進化させる
『Dangerous Woman』は、多くの点において、テンポ、ジャンル、そして時の流れと楽しく遊んでいるのがわかる。実らなかった愛を忘れようとする「I Don’t Care」ではオーケストラR&Bが用いられ、「Sometimes」はよりアコースティック・ポップなトラックとなっており(彼女にしては珍しい)、「Bad Decision」「Touch It」「Knew Better/Forever Boy」、そして「Thinking Bout You」はすべてアリアナ・グランデのパワフルなヴォーカルとEDMシンセ・ポップ・プロダクションが基盤となっている。
3作目のアルバムで、アリアナ・グランデはすでに確立したポップを進化させることに成功し、同時によりエッジの効いた未知の領域に挑み、その賭けは功を奏した。『Dangerous Woman』は全米アルバム・チャートに2位でデビューし、全英では自身初のNo.1に輝いた。ポップ・クイーンの勢いがまだまだ上昇途中であることを証明したのだ。
Written By Da’Shan Smith
アリアナ・グランデ『Dangerous Woman』
2016年5月20日
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